狂愛






淀んだ雲が空を覆い、雷鳴が轟くなか、対峙する二つの影。
片方は膝をつき、もう片方はそれを見下ろしながら納刀しているところだった。
金属の擦れる硬質な音が響き、のっぺらな白い面が呼気の混じった威圧的な声を発する。
「笑止。傷を負った躯で勝てる程、甘くは無い」
「ぐっ、クソ……この僕が……ッ」
跪く青年が、肩で息をしながら歯噛みした。既に勝負が着いていることは誰の目にも明らかだというのに、青年は金色の髪を揺らし、愛刀を掴もうと手を伸ばす。
血の滲むその手を、白い男が容赦なく踏み付けた。爪先から生えた二本のツメが、傷だらけの肌に食い込む。
「見苦しい。境界に蝕まれた身で何が出来よう。大人しく帰るのだな」
「うるさいっ…僕は、兄さんを……ぁぐッ!」
尚も言い募ろうとした青年の手に、白い男は更に体重をかけた。面で隠れて見えないが、冷たく無機質な気配から白い男は盲目の双眸で青年を無感動に見下ろしているのだろうと感じられる。
もう少し過去の自分に対して何か反応があるだろうかと期待していたが、どうもこのまま捨てて行きそうな気配だなと思い、物陰で一部始終を見ていたハザマは帽子を押さえながら二人に近付いて行った。
「あのーもしもし、ハクメンさん? 一応ソレうちの上司なんで、その辺で勘弁していただけますかねェ?」
「!」
背中の『眼』でハザマの姿を認め、ハクメンが抜刀しながらこちらへ振り向いた。正面から十四個の眼に睨まれ、ハザマはわざとらしく降参のポーズを取り、おー怖いと呟く。
「貴様の方から来ようとはな、テルミよ」
「今はハザマです、間違えないでください? ……まあちょっと暇を持て余していたので、こちらに出向いたまでです」
にこりと作り笑いを向けてハザマが肩を竦めると、ハクメンは構わず野太刀を突き付けてきた。
「貴様を滅するのが、先決」
「あれ? いきなり暴力に訴えるんですか。かの英雄さんは随分と野蛮ですねェ」
「……下らぬ戯れ事を吐けぬよう、境界へ送り還してくれる」
愉しく会話のキャッチボールでもしようと思ったが、相変わらずの堅物は冗談が一切通じない。困った人だと呟きながら、ハザマはニタリと帽子の影で笑み、片手を振り上げた。
「オラ、こっちへ来なッ!」
「ぁが――ッ!?」
一瞬で召喚した鎖がハクメンの後ろへと伸び、倒れていたジンを捕らえる。
鎖を引き寄せると、ジンの軽い体はいとも簡単に空中を舞った。ハザマは笑いながらそれを足元へと叩き付け、俯せの青い背を踏み付ける。
先の闘いで満身創痍のうえに衝撃を受け、ジンが声にならない悲鳴をあげて体を跳ねさせた。
「貴様……!」
「アァン? 何? 別にコイツはいらねェだろ、ハクメンちゃん。どーしようが、文句ねェよなァ?」
一瞬で手中に入れたジンを踵で踏みながら、ハザマは僅かな焦りを見せたハクメンに凶悪な笑みを向ける。流石に過去の自分を人質に取られては迂闊に攻撃出来ないらしく、構えた刃が揺らいだ。
さっきは自分も足蹴にしていたくせにと思うが、ジンが死ぬと困るのは別の理由かと遅れて思い当たる。ループから抜け出た今は、ハクメンの存在自体が危うい状況だ。ジンが死ぬことで、同一存在であるハクメンも消滅する可能性がある。
恐らくは、それを畏れている。使命の遂行が妨げられること、悪に繋がる根源を絶てないことが、今のハクメンには一番あってはならないことなのだ。
ハザマはクッと喉奥で笑い、ジンを踏み付けていた足を退けた。
「――ヒュッ、がはっ……げほ…!」
「あらあら、大丈夫です? キサラギ少佐。いつの間にやら小汚くなっちゃってますねェ~。一体誰が、こんなヒドイことしたんでしょう?」
口先でこき下ろしながら、ハザマはしゃがんでジンへと手を差し延べる。苦しげに嘔吐くジンが顔を上げてこちらを睨み、その手を叩き落とした。殺意を持って向けられる眼差しに、ハザマはいびつな笑みを浮かべる。
「ははっ、何です? その可愛くない顔は」
「貴様……何故、邪魔をするッ!」
震える体で上半身を起こし、ジンが怒りをあらわに叫んだ。苛烈な翡翠の瞳は変わらず綺麗だが、気に入らない色が混ざっていることに、ハザマは細い眼で笑んだまま舌打ちする。
「何故か、ですって? 敢えて言うなら、貴方がツマラナイものに成り下がってしまったからですねェ~」
「なに……ぃだッ!」
生意気な口を聞くジンの髪を鷲掴み、ハザマは擦り傷だらけの端正な顔を無理矢理引き上げた。目の前まで持ってきたその顔に長い舌を這わせ、嗤う。
「今の貴方は可愛いげがなくて、嫌いです。このまま殺しちゃいましょうか?」
アハハと甲高い笑いをあげて、ハザマは取り出したバタフライナイフを白い首筋に押し当てた。反射的に細い体が強張る。
「弱き者への加虐が趣味か、外道」
怯えを見せるジンの醜態に耐え切れずか、ハクメンが刀を構えたままにじり寄ってきた。どうやらジンを切り捨てる方向に決めたようだ。
人質を取られて手も足も出ないハクメン、なんてものが拝めるかと思ったが、そう甘くはないらしい。まあ反抗してくるなら反抗してくるで、面白みは十分ある。膝を着かせて動けなくさせるだけでも、そそる姿だろう。
ハザマはジンからハクメンへと視線を移し、狂った笑い声をあげた。
「なんだよなんだよ、俺様の性癖知らなかったのォ? ハクメンちゃ~ん! ケヒヒッ、知らないなんて大嘘付いちゃダメでちゅよォ~。よぉぉく分かってるはずだろォ、何回抱いたと思ってんのォ~?」
「……下衆が」
過去に交わった事実を指摘してやるが、ハクメンは冷たく一言で切り捨てる。つまんねぇなぁーなんて思っていると、ハクメンが大きな体躯で地を蹴り、突進してきた。全く以って容赦も躊躇いもない。
いくら出力が二割といえども、スサノオユニットだ。下手に攻撃を受けると痛い目を見る。
ハザマは跳びすさろうとしたのだが――、予想外にもジンに腕を掴まれていて出来なかった。血管を止める勢いで掴むジンの秀麗な顔が、愉悦に笑っている。
「チッ――!」
飛び込んでくるハクメンと振り払い切れないジンに思わず舌打ちし、ハザマは一発もらう覚悟で身を固めた。
しかし、振り下ろされる野太刀がハザマを切り裂くことはなかった。
「グァ――ッ!?」
「おーら、後ろががら空きだぜェ? ハ~クメ~ンちゃ~ん!」
触手のように伸びた無数の鎖が、ハクメンの体を雁字絡めに捕らえ、後ろへ引き擦り倒す。有り得ない背後からの攻撃と、特徴的な声音に、ハクメンが驚きを隠せぬまま地に倒れ伏して呻いた。
「あー…らあら。もしかして2つ目、作られちゃいましたかねぇ……?」
自分と向かい合う形で現れた男の姿を見て、ハザマは少し引き攣った笑いを浮かべる。縋り付くように腕を掴んでいたジンもまた、そちらへ振り返り驚愕した。
「な……ッ、2人、いる?」
ひどく狼狽した様子で、ジンがハザマの顔と遠くに立つ男の顔を交互に見比べて呟く。
ハザマ自身も一瞬驚いたが、想定内のことだったのですぐに落ち着きを取り戻した。恐らくのらりくらりと事を進めるハザマに、主人殿は気が急いたのだろう。
用済み扱いでなかっただけマシか、と思いながらハザマはまだ呆然としているジンに、鎖を巻き付けた。
「! 貴、様……!」
「はいはい、大人しくしてくださいねェ~、少佐」
またさっきのように不意を突かれては面倒だと思い、ハザマはジンの両手を後ろで縛り上げる。ついでに片足も縛り、足枷のように錨の先を地面に突き立てた。完全に成す術がなくなったジンを地面に転がし、ハザマはコートの埃を払いながら現れた男に目を向ける。
「もしかして、私に何か伝言とかありました?」
「ぁあ? 別にねぇよ。チンタラ遅ェとは言ってたけど、俺様が居るのは保険みたいなもんだとさ」
「あ、そうですか。なら良かった」
同じ顔の男が答えるのを聞いて、ハザマはわざとらしく安堵して見せた。正直なところ、死ぬことに恐怖はあまりないのだが、折角のお楽しみを邪魔されるのは嬉しくない。
「何故ッ、二人も存在している!? テルミ!」
それ自体が蛇のように動いて絡まる鎖に捕われたまま、ハクメンが叫んだ。表面上に現れた黒い存在しか感知出来ないハクメンの目では、宿敵のテルミが増えているということが、相当予想外だったようだ。
ハザマと同じ顔……敢えて違いを言うなら、帽子とネクタイを外し、緑の髪を逆立てたハザマ――いや、本性を表したテルミの姿をした男は、絡めた鎖を巧みに操ってハクメンの拘束を強めながら、こちらへ歩み寄ってきた。
「あれェ? 2人いるように見えちゃうなんてハクメンちゃん、そんなに俺様のこと好きなのォ~?……なんちゃって」
ヒヒヒと下卑た笑いをあげながら、テルミがハクメンのすぐ側でしゃがみ込む。長く伸びた獣のような爪で切り裂こうと、ハクメンは身動きもままならぬ状態で手を伸ばすが、テルミはそれをするりと避けて、ハクメンの長い白銀の髪を一房掬い上げた。
それに唇を寄せながら、テルミは琥珀に輝く眼を細める。
「残念ながら俺様、体は一つじゃないんだわァ~。……でもまあ記憶は1つだし、今までのハクメンちゃんとの愛しい日々はバァーッチシ覚えてんよ?」
「己……ッ、テルミ!」
ハクメンからすれば、有り得ない事態だろう。面の下で歯噛みしていそうな憤りが感じられる。
それを愉快そうに見下ろすテルミが、紅い舌で下唇を舐めて濡らした。
「まだ精練が終わるまで時間があっからよォ。可愛がってやんよ、ハクメンちゃん」
ニィッと三日月の形に笑い、テルミがこちらに目配せする。
同一個体故に、考えることは同じ。答えるように、ハザマもまた嗤った。












防寒の為に作られた特注の戦闘服だが、これは寧ろ劣情を煽る小道具の一つでしかないなと、ハザマは組み敷いた肢体を見つめて思った。
胸の色付いた飾りと、熱くそそり勃つ股間だけを露出させるように引き裂いた黒いタイツは、卑猥さを倍増させている。しかしハザマは焦らず、ジンの体を撫で回してねちねちと時間をかけて追い上げていた。
最初は憎悪にまみれた眼差しを向けてもがいていたジンだが、徐々に抗い切れずに熱い息を吐くようになった。だがハザマは熟れた局部に決定的な刺激を与えず、もどかしい愛撫だけを施し続ける。
「随分ねちっこいな~オイ。突っ込む気ねェの?」
こちらを横目で見たテルミ(同一個体だが見た目の違いで便宜上そう呼んでいる)が、ハザマの生温い進め方に訝しげな顔をした。
疑問視するテルミの手は、俯せに地面へ縫い付けられたハクメンの秘所へと潜り込み、既に二本の指を突き込んでいる。裂かれてあらわになっている下半身の有様が、ジンの裂けたタイツと似ているなと、意味もなく思った。
可愛いげもなく猛獣のように低く唸り続けているハクメンだが、既に一度テルミの手で強制的に射精させられており、地面にこびりつく白濁が痕跡を残している。憎しみか羞恥か屈辱か何れの感情かは分からないが、深く地面を引っ掻く爪が小刻みに震えていた。
地に張り付けている何本もの鎖をどうにかしようとギチギチ音を立てて尚も足掻いているようだが、テルミが指を動かす度にハクメンの体がびくんと跳ねるので面白い。引き締まった臀部が戦くように強張る様がこちらからも見て取れ、ハザマは下肢が疼くのを感じた。
「こちらは気にせず、そちらはそちらで進めてください。……ちょっとした、こだわりがあるだけです」
後ろ手に縛られたまま眉を寄せるジンの小さい乳首を指で押し潰しながら、ハザマは先の質問に答える。
兄さん、と譫言のように呟くのをいなしながら、ハザマはジンに唇を寄せて柔らかく舌を差し込んだのだが、噛み付かれてしまった。以前はこんな反応はしなかったのにと、無意識に氷剣と死神に苛立ちを募らせる。
「あー…そうか。半分壊れかけてんもんなァ、それ。戻せそう?」
「どうでしょうねェ~…。抗体とはいえ、長い間あちら側に接触してましたし」
流石に生ゴミ(アラクネとか言っただろうか)のような手遅れ状態ではないが、兄への執着が狂気を増幅させているようだ。
「少佐……キサラギ少佐? 私が見えてます?」
「ぅるさ……だ…まれ、消えろ……兄さん、兄さん兄さん兄さん!」
「あー、ダメだわコレ」
体は確実に快楽を拾っているようだが、まともな理性は戻ってくる気配がない。ハザマは深々と溜息を吐き出し、声を殺して凌辱に耐えるハクメンに視線を移した。
「ねぇ、ハクメンさん。コレ、何とかする方法知りません?」
「っ…知、らぬ。そもそもは、貴様のせぃ……アァッ!」
律儀にもハザマの質問に答えようとしたハクメンが、不意打ちの刺激に喘ぎ声をあげた。食いしばっていた口が開いたのを見計らって、三本目を捩込んだテルミが愉しそうに嗤う。
「な~んで俺様のせいなわけ? ユキアネサは俺より先にテメェと接触してたろ?」
「ァ…グ…ッ、ゥゥ……!」
三本の指を中でバラバラに動かして掻き回しながら、テルミは呻くことしかできないハクメンの剥き出しの臀部にかじり付いた。緩く食まれる感触に、いやいやをするようにハクメンの長い髪が揺れる。その弱々しい反応に尚更悦ぶテルミが、かぁーわいいなぁハクメンちゃんと嬉しそうに呟いた。
「貴、…様……殺す……!」
「けひひッ、いいぜいいぜェ~。もっと俺を憎めよ、英雄様!」
面の下で歯軋りでもしていそうな勢いで絞り出された恨みの言葉も、テルミには心地好い音色でしかない。観てもらえること、ずっと覚えられていることが何よりの至福なのだ。
ひどく嬉しそうなテルミとは対照的に、ハザマは眉を八の字にしたまま嫌がるジンの胸にキスを施していた。達せない苦痛で戻ってくるかもしれないと思ったが、どうやら無駄なようだ。
ハザマは再び長い溜息を吐き出し、体を起こした。
「無理っぽいので、もうさっさと入れちゃいますか~…。楽しさ半減ですけど」
「……ま、しょーがねぇわな」
上着を脱ぎ捨てて袖を捲るハザマの言葉に、テルミがハクメンの臀部に舌を這わせたまま同意する。
蜜を零してそそり立つジンのものにやっと直接触れると、ジンの表情が僅かに蕩けたが、相変わらず開いた唇は兄を呼んでいた。
あー、うざい。うざいうざいうざい。
浮つくジンの意識をこちらに向けようと、ハザマはその熟れた幹を口に含んだ。びくりと体が跳ね、鎖が金属音を奏でる。
「ぁ…、あ、…にぃ…さ……ぁひっ…!」
じゅるっと吸い上げると、硬い肉棒が肥大して、白い内股が戦いた。
ハザマは構わず袋にまで垂れた蜜を掬い、後ろの蕾に指を這わせて塗りたくる。ぐにぐにと入口付近で細かく出し入れを繰り返していると、吸い付くような反応を返すようになった。
熱い息を吐くジンは翡翠の瞳を潤ませ、徐々に恍惚とした表情を浮かべ始めたが、これが認識の混濁で兄にされている愛撫だと勘違いしているのだとしたら、気に入らないなと思う。
沸々と沸き立つ苛立ちに、ハザマの愛撫は乱暴でぞんざいなものへと変わっていった。
「ひっぐ…、あ…あッ! やっ…ぃぁ…!」
「……煩いですよ。もう少し声を抑えたらどうです、はしたない」
中指を突き込み、探り当てたしこりを指の腹で押し上げながら、ハザマは冷たく言い放つ。漏れ出る甘い声も、柔らかい金髪を振り乱す姿も綺麗なはずなのに、以前のような興奮はあまり感じられなかった。
どちらかというと横から耳に飛び込んでくる、貫かれる恐怖と屈辱に喘ぎながら罵る、ハクメンのくぐもった声の方が劣情を煽った。
「ァ、アッ! 此の外、道…め、離――」
「ん~何言ってっか聞こえねェ、わッ!」
「ヒ――!」
舌なめずりしながら、テルミがいきり立った熱塊をハクメンの中に押し込んだ。本人の意思とは裏腹に、既に十分解かれた蕾はテルミの男根をすべて飲み込み、身震いするほどイイ締め付けをテルミに与える。
鎖で地に張り付けられたまま巨体を震わせるハクメンの腹に手を滑り込ませ、テルミは琥珀の眼を爛々と輝かせた。
「どう? 久々に味わった俺の蛇は? 気持ちイイだろォ?」
「巫、山戯……グッ、ゥ…!」
背後から覆い被さるテルミを睨み付けるように、ハクメンは首を巡らせたが、腰を引き上げられて罵倒は途切れる。力が入らなくなってきている下肢だけ鎖を緩ませ、テルミは熱い息を吐きながらハクメンの膝を無理矢理立たせて、更に勢いよく腰を叩き付けた。
悲鳴に似た、だが確実に甘さを纏った叫びが白い面の下から迸る。
「なかなか刺激的な光景ですね~。私達も楽しみましょう? 少佐」
「…ん…ぁ……っ」
既に強い愛撫で達してしまったジンは、垂れ下がる一物からボタボタと白い雫を滴らせながら、放心した様子で体を横たえていた。黒い全身タイツは破れた箇所の方が面積を広げており、普段の冷徹なイメージとは掛け離れた姿になっている。
素直に喘ぎ声だけを漏らすようになったジンに、ハザマの機嫌は少し上を向いていた。とりあえずムカつく呼び名さえ出てこなければ、もともと名器と言えるジンの体は十分楽しめる。
抵抗もなくなった従順な体を正面から抱きしめ、ハザマは鎖を蛇に変化させた。本来の形に戻しただけだが、腰や内股に絡まったそれらがスルスルと動き回る感触に、虚ろだったジンが眉を寄せて恍惚とした表情を浮かべる。
「気持ちいいですか?」
「はぁ…、ぁ…ふ…っ」
普通の人間なら悲鳴をあげて嫌がるであろう、三匹の蛇が絡まって蠢く感触に、ジンは頬を染めて熱い息を吐いた。
完全に傀儡に成り果てているジンの卑猥な姿を無駄に多く備わった『眼』で見てしまってか、何度も貫かれて息も絶え絶えなハクメンが殺気を放ちながら、地をえぐって拳を握り締める。
「グ…ゥッ、赦さ…ん……赦さんぞ…テル、ミッ!」
「ヒャハハハハ! もう遅いってェーの! ハクメンちゃんも少佐様も俺のもンだってェ~、諦めな?」
股間と尻たぶがぶつかり合う激しい音を響かせながら、愉悦に浸ったテルミがハクメンの首筋を暴いて舌を這わせた。憎しみを募らせながらも体は慣れ始め、そんな些細な愛撫に白い体は打ち震える。
激しい盛り上がりを見せる隣に、強姦なのか和姦なのか判断に迷うなと感想を抱きながら、ハザマはパチリと指を鳴らして蛇達を退場させた。久し振りの柔肌に名残惜しそうな気配を醸し出していたが、知らぬ振りでアークエネミーの形に変化させる。
ジャラジャラと音を立てて滑り落ちる鎖から掬い上げるように、ハザマは力の抜けきったジンを起こし、しなやかな肢体を膝上に乗せた。されるがままになっているジンの端正な顔を覗き込み、ハザマは眼を細めてにこりと笑いかける。
「少佐……愛してますよ。ずっとずっと、私と一緒にいましょう?」
緩んで紅い舌を覗かせる口元に、柔らかく唇を寄せた。
手に入れたい。自分の傍に居てほしい。その願いに違いはない。
柔らかく舌を差し込み、ジンの小さい舌を絡めて吸い上げる。角度を変えて何度もその唇を貪り、ハザマは深い口付けを繰り返した。
「ふ、…ぁ…」
溶け合うような熱の共有に、ジンが吐息を漏らす。唇を離すと、銀糸が垂れた。
潤んだ翡翠の眼を見つめながら、ハザマは細い体を少し抱き上げ、解かした入口に解放した男根の先端を押し当てた。ふるりと震えたジンの背を撫でながら、ハザマはゆっくりと腰を落とさせていく。
「んっ、んふっ…あ…!」
押し入る熱い塊に、ジンの体が強張った。圧迫感に耐えるように、肩へ手を置いたジンが俯き、緩く頭を振る。程よく狭い肉壁に呑み込まれていく感触に目を細めながら、ハザマは俯いて届くようになったジンの額辺りに軽くキスを落とした。
根本まですべて中に納め、一息ついたジンが顔を上げる。
「ぁ……」
「……?」
至近距離でハザマの顔を見たジンが、不意に吐息混じりの声を漏らした。その声音が今までの快楽に染まった喘ぎとは明らかに違う調子だった為、ハザマは微かに首を傾げてジンを見つめ返す。
すると、どうだろう。ジンが濡れた両目をゆっくりと瞠り、瞳を揺らした。
「ッ…、ハ…ザマ……?」
「――少、佐」
名前を呼ばれたことに、心底驚いた。
しかし息を詰めるハザマと同様に、ジンもまた驚いている様子で、瞬きを繰り返す。焦点を結んだ翡翠の眼が、混乱したように視線をうろうろさせる様に、状況を把握したハザマは口元を綻ばせた。
「良かった……」
「え…何、どういう……ぁんッ!」
紅い顔のままキョトンとしていたジンの腰を抱き寄せ、ハザマは強く揺らす。打ち込まれた楔に、疑問の声は容易く甘い喘ぎにすり代わった。
「戻ってこれたみてェだなァ~。やっぱこうでなくちゃ、面白くねェわ……ヒャハッ!」
半ばぐったりとした様子のハクメンを衰えることなく犯し続けながら、テルミがこちらの変化に気付いて笑う。境界からの影響が薄まったことに、テルミもまた機嫌が良さそうに琥珀の瞳を輝かせていた。
そんなハイになるテルミに蹂躙されるハクメンの秘部からは、ぐちゃぐちゃと粘着質な音を立てて泡立った白濁が溢れている。いつの間にやら、2ラウンド目に突入していたようだ。
「ハッ、ンン……ァア…ッテ、…ミ…ィ…!」
「ひッ! や、やめ…ッ…あぁ…ハザ…んぅっ」
込み上げる安堵やら嬉しさやら、自分でもよく分からない感情のままに、ハザマは立て続けにジンを揺すり上げた。
「もう、逃げられませんよ――ジン」
心地好い二人の嬌声に酔いしれながら、大蛇は満足げに嗤った。




END





妄想100%、テルハクハザジンでした。うん、書けた私が一番満足(笑)。

乱交って書くの難しいんだなぁと今回身に染みました。輪姦は受けが一人なんで特に困らないんですが、二組が同時進行の乱交はどっちもスポット当てないといけないので、配分が難しいですね。