「侮りなどしてはいない……。私の全力を前にこれとは……。お前が人ならば、どれほどの力を見せていたことか……」
刃を構え、前足を踏みしめる目線の先で、白髪の男が剣を携えて緋色の瞳をこちらに向ける。古代都市タルカロンの中心部で、痩身とは裏腹に泰然と立つデュークを見上げながら、ラピードはその言葉を聞いていた。
かつて始祖の隷長を友に持ち、そして本来ならば味方であったはずの人間達から裏切られて大切な存在を失った男は、もしかすると異種族でありながら人間の味方をするラピードの姿に思うところがあったのかもしれない。その赤い瞳に、ユーリ達に向けるほどの敵意は感じられなかった。
いや、これは敵対というには些か違う。目的は同じだが、手段が違って互いに相容れなかっただけのことだ。
人間の身勝手で無知な行為から成った災厄ならば、人間の命を以ってして終わらせる。その考え方は、正直言えば分からなくも無い。人間はさもしく貪欲で、限度をわきまえずに繁栄し破壊する、異端な存在だ。生態系としての秩序よりも、個の尊厳が勝るが故に共食いも辞さない。
そんな生き物をのさばらせて良いのかと問われれば、ラピードは答えに窮するだろう。だが、良くも悪くも『変革』の可能性を秘めていることは確かだと言える。人間を除く野生の生態系は極めてバランスが取れているのだろうが、逆に言えば進化もほとんどないということだ。何億もの時を経て、やっと目に見える変化が実る程度。
だからこそ、賭けてみたいのだ。腐敗を切り裂いて進む、若い者達の希望に。やっと目を覚まし始めた彼らは――力強い。
「ワォォンッ!」
交渉決裂に、ユーリ達が身構える。武力で解決を求めることは、きっと若き騎士団長の意志には反するだろうが、今は時間がなかった。
すべてを引き換えに過ちを帳消しにするよりも、戒めを抱いて贖う為に次の一歩へ進むと決めたのだから、退くことはできない。
最後の決戦に、ラピードは駆け出した。



新世界



夜空に無数の光が昇った日を境に、テルカ・リュミレースから星喰みの脅威は去った。
しかし代償として、世界から魔導器が消えた。過去の遺産に頼っていた人類は、これから文明の退化を余儀なくされるだろう。
だが同時に、確執を持っていた帝国とギルドが歩み寄りを始めた。結界をなくして魔物の脅威に晒される人々を守る為、不便になった生活を克服する為、手を取り合った。
これから、以前より増して忙しくなるだろう。だがこれは、越えなければならない壁だ。


誰もいないと知っていながら、フレンはその扉の前に立ったとき、自然な所作でノックをしていた。今までの日常ならばその音に、入室を許可する声が掛かったはずだが当然、応答はない。
「失礼致します」
しばしの静寂の後、フレンは断りの言葉と共に扉を押した。立派ではあるが華美ではない執務室の扉が開き、こもっていた空気が流れ出す。人の出入りが暫くなかった部屋なのだが、湿気臭さや埃っぽさは意外なほど感じず、そこに流れる空気は当時のままのようだった。
生きて帰ってきた英雄。この帝都を守ってきた騎士団長。彼の人を讃える言葉は、帝都において少なくない。
だからこそ世間には、星喰みが現れる際にアレクセイは勇敢に闘い、戦死したのだと発表をした。公で嘘をついたことをフレンは不誠実だと思うものの、事実を皆に知らせることは必ずしも良いことではないと判断した。
アレクセイを尊敬し、慕っていた人は多い。実際に功績も数多く残している。事実を公表して混乱を招くくらいならば、名誉の戦死の方が良い。
曲がったことが大嫌いな幼馴染みなら、すべてをぶちまけてしまいそうだけれど。フレンは敢えて、伏せる方を選んだ。
やり方は大いに間違っていたが、アレクセイの願いは皆の願いと根本は同じだった。コアを集めさせたこと、エステリーゼを利用したこと、星喰みを復活させたこと、許せないことは沢山ある。
だが、世界をより良くしたいという願いはフレンと変わらない。よく見知ったユーリとフレンでさえ取る手段が分かれたのだから、それぞれ方法が違ってもおかしくはなかった。
アレクセイばかりを、一概には責められない。誰でも間違いは起こりうる。
独りで頂点に立てば、指摘をする者もいなくなり、いつの間にか道を誤ってしまうのだ。如何に優れた人間でも、常に英断を下せるとは限らない。
だから自分は一人であってはならない。帝国だけの支配であってもならない。見張り、意見し、時に手を取り合える存在が無ければならない。
「すべて……終わりました。これからまた、私達は一からやり直していきます」
今の世界は、貴方の思い描いた世界になっていますか……?
胸に手を当てて最敬礼しながら、フレンは胸中で答えの返らない問いを投げかけた。



闘いの後、凛々の明星一行は帝都を訪れて皇帝とギルドと会談をした。今後の対策と協力の意を示す為である。
あらかた必要事項が決定した後、ユーリ達は皇帝の計らいで疲れを癒すために城へ泊まることになった。騎士団長代理を務めるフレンは、明日の準備に各部隊に指示を出し終え、12時を回ってから自室に戻った。
無意識の溜め息を吐き出すとともに、ランプに火を灯す。以前は大型魔導器で城のあらゆる動力を補っていたが、それはもう使えなくなった。
貧困層が続けてきた生活が、今の世界にはもっとも有効だという事実が皮肉だ。大変な反面、少し胸のすく思いでもあった。きっと貴族達は、さぞかし混乱していることだろう。
それを宥めて回るのも自分の仕事なのであまり良いことではないが、少なくとも自分自身は困惑することがない。下町育ちであることが、より誇りに思える瞬間だった。
「……あれ?」
そんなことを考えながらランプを持ってベッドに近付いたフレンは、そこに青い姿を見つけて瞠目する。勝手知ったる何とやらで、いつの間にか入り込んだラピードが、ベッドのすぐ横で床に伏せていた。
近付く明かりとフレンの気配に、ラピードが片目を開けて尻尾をぱたりと振って迎える。
「今日はこっちで泊まるのかい?」
「ワゥッ」
「そうか。ご苦労様、ラピード」
少し屈み、フレンはラピードの背を撫でた。滑る手の感触が心地いいのか、伸び上がりながらラピードは目を細める。
手触りのいい毛並みと暖かな感触にフレンも知らず疲れを忘れたように微笑むと、ラピードはこちらに顔を近付け、鼻先をぺろりと舐めた。
それに一瞬驚くもすぐに破顔して、フレンもお返しにラピードの鼻先へ触れるだけのキスを贈る。しっとりと濡れた感触に、ラピードの尻尾が機嫌良く泳いだ。
基本的にラピードは構われるのが好きではないのだが、フレンから触れられるのは別なのか、嬉しそうに反応してくれる。
しかしフレンがこう言うと、やはり後込みするらしい。
「じゃあ寝る前に、一緒にお風呂入ろうか」
「……クゥーン」
打って変わって、意気消沈した返事が返ってきた。
おいでと両手を広げて迎えるが、ラピードは一度起こした身を伏せて、床に張り付く。断る、と言わんばかりの態度に、フレンはムッと眉をひそめた。
「そんな埃だらけじゃ、ベッドの中には入れてあげられないよ?」
「……ワゥ〜」
「さっき釜で焚いてもらったから、ここはお湯も使えるし、温まるよ?」
「……バウゥッ」
「どうしても、嫌かい……?」
言葉を掛けるが、ラピードは尖った耳をぴくぴく動かし、鋭くこちらを睨む。しばらく見つめ合い――、フレンは溜め息をついた。
「……じゃあ、先に使うね?」
水嫌いの彼を説得するのは、なかなか骨が折れそうだと判断し、フレンは伸ばしていた手を戻した。諦めて、甲冑や篭手を外して棚の上に置いていく。
着替えを持って真新しい風呂場へと向かったフレンは、ちらりと肩越しにラピードの方を振り返ったが、彼はこちらを見たまま動く気配は見せなかった。







以前は蛇口を捻れば水もお湯も、当たり前のように出ていた帝都の浴場だが、魔導器のなくなった今はそれも困難になっていた。
しかし流石に帝国としての意地なのか、城の上層部だけはいつもと変わらずで蛇口を捻れば水もお湯も出た。とはいえ、わざわざ火を熾して温めたことを知っている……というよりは、そういった復旧作業にばかり今日は忙殺されていたので、一滴も無駄に出来ないことは分かっている。
バスタブに栓をしてから半分までお湯を溜めたフレンは、先に水を被ってあらかたの汚れを落とした。貴重なお湯をあまり使わなくて済むようにとの思いだったが、結局まだのさばり続ける貴族達は今までと何ら変わりなく湯水を使うのだろうから意味のないことかもしれない。
全体の文明レベルを引き下げざるを得ないのだから、所得や身分に関係なく規制をする法律を作らねばならないな…と考えながら、フレンはゆっくりと湯船に浸かった。少し温めだったが、疲れた体には十分心地良い。
隊長であった以前では自室に浴場などなかったが、オルニオンやダングレストを飛び回っているうちに、いつの間にか簡易浴場が増設されていた。団長代理ということで、一応特別扱いを形にしたのだろうと思うが、そんな資金があれば街の発展に役立てて欲しいというのが本音だ。
だが、大浴場で慌しく湯に浸かるより確かに快適だと少し思いながら、フレンはバスタブに肩まで身を沈めた。
「……?」
しかし落ちてくる前髪を掻き上げたところで、ドアの向こうに気配を感じて、フレンは視線を向けた。と同時に、扉が押し開かれる。
ガラス戸の隙間から顔を出しのは、あれだけ浴場を嫌がっていたラピードだった。
「ラピード! 来たんだね、洗ってあげようか?」
思わず笑顔で出迎えてフレンが身を乗り出すと、反射的にラピードが半歩後ずさる。犬である彼には表情らしい表情はないのだが、若干に鼻に皺が寄ったのでやはり濡れるのが嫌なのだろう。
しかし諦めずにフレンが手招くと、渋々といった態で歩み寄ってきた。嫌なことは絶対にしないはずの、独立心旺盛な彼が譲歩しているということは、自分を思ってのことだろう。
自惚れているかもしれないが、少しでもそう思ってくれているなら嬉しいなと思いながら、フレンは目の前に来たラピードを優しく撫でた。手が濡れていたために、ラピードの青い毛並みも濡れてしまい、濃く艶めく。
しかしもう観念したのか、濡れたことには動じずにラピードはこちらをじっと見つめてきた。
「とりあえず、泥を落とそうか」
「ワウ」
バスタブから身を乗り出し、フレンはラピードの装備を外して、濡れて錆びぬように扉の向こうへ置いた。
改めて石鹸とスポンジを手に取る。『大丈夫?』と声を掛けながらもそれを近付けると、ラピードは少し嫌そうに顔を逸らしながらも、体はきちんとお座りをしていて逃げることはなかった。
青い背に泡立てたスポンジを滑らせ、そのまま足元へと移動して爪先の泥を落とす。目や耳に入っては痛いだろうと、顔は避けた。
フレンが手早く全身を泡立てると、ラピードはいつもの青さをひそめて、全体的に白くふんわりしている。
泡だらけの姿に思わず少し笑ってしまったフレンに、ラピードが不機嫌そうな気配を醸し出した。
「ごめんごめん、嫌なのは分かってるんだけど……ちょっと珍しい姿だから、つい可笑しくって」
「……ガウゥッ」
あははと軽やかに笑うフレンに、ラピードが耳を立てて怒りの唸り声をあげる。だがその泡まみれでは、やはり迫力に欠けていた。
可愛いなぁ…なんて思わず親バカな心境で見つめていたフレンは、急に飛び上がったラピードに対応できなかった。
「ワォン!」
「っぅわぁ…!? わ、ぷ!」
突然飛び込んできたラピードにぶつかられ、膝立ちだったフレンは体勢を崩してしまう。
派手に上がる飛沫と泡に顔を背けたフレンは、ラピードと共にバスタブに沈み込んだ。お湯を半分までしか入れていなかったことが幸いし、仰向けに倒れた状態でも少し上体を上げれば、顔までは浸からない。
激しく波立つ湯に顔をしかめながらも、裸の胸にのせられている硬い肉球の感触に、フレンは閉じていた眼を開いた。
「…っラ、ラピード……!」
「ワゥッ」
完全にのし掛かる形でこちらを見下ろすラピードに、フレンは非難の声をあげる。反射的に逃れようと体を浮かしかけるが、胸を押さえる前足に体重がかけられていて、思うように動けなかった。
波立ったお湯に大半の泡が流されたラピードは、いつもにも増してシャープさの際立った、精悍な出で立ちでこちらを見つめていた。
「お…怒ってるの? でも可愛かったから、つい……」
「ガウッ!」
「……ご、ごめん」
可愛いという単語を全否定するようにラピードに吠えられてしまい、フレンは思わず首を竦める。しかしそれでは興奮が冷め遣らぬのか、ラピードはフレンにのし掛かったままベロリと舐めてきた。
少しざらついた長い舌が首筋を這う感触に、思わず肩を震わせる。
「ん…っ、ちょっとやめ……!」
のし掛かるラピードから逃れようと身を捩るが、全体重を掛けられてしまうと逃げられない。バスタブが狭いのもあって、横に動くことすらままならなかった。
押さえ付けられたまま、ハァハァと荒い息遣いで舐められ、白い肩を甘噛みされる感触に、フレンは戦きながらも思わず頬を赤く染める。のし掛かるラピードの腹が胸元に密着し、暖かさが伝わってきた。
濡れた毛の感触と自分より高い体温に、無意識に安堵感を得て体の力が抜ける。いわゆる人肌恋しいという状態だったのだと、ラピードに乗し掛かられて初めて気付いたフレンだった。
しかし裸の腹に押し付けられる熱の塊に、フレンは体を強張らせる。
「! ラピードっ? まさか……」
「ワゥ!」
「ッ……!」
まだ萎えたままのフレンの性器に、下肢を擦り付けられて思わず息を呑んだ。ラピードの青い毛で隠れて見えないが、その下で何が起こったかは分かってしまった。
情欲の塊でもあるそれらが互いに擦れ合ったのだと意識した途端、フレンの背を悪寒に似た衝撃が走り抜けた。他の騎士に無理矢理押し倒された時のような嫌悪感ではなく、期待と興奮に体が震える。
束の間、すぐに我に帰って自分の浅ましさに恥じ、頬に血を昇らせるフレンだったが、嬉しいと思う気持ちがあるのも確かで。その戸惑いの隙を突くように、ラピードに首筋を甘噛みされると、押し返そうとした手も容易く折れてしまった。
「ゥゥ、ワフッ」
「…ぁ…っ…!」
く、と喉を反らせ、上げかけた悲鳴を呑み込むが、代わりに小さな声と蕩けた溜め息が零れ落ちる。明らかに悦んでいることが丸分かりの自分の反応に、羞恥で更に頬が熱くなった。
しかしそれを歓迎するように、ラピードが顔を上げ、フレンの鼻先をペロリと舐める。じっと見つめてくる隻眼の青さに、吸い込まれそうな錯覚を覚えた。
浴室はさほど正確な造りではないためか、隙間から程好く熱が逃げて湯だるほどの熱さではない。バスタブの湯も多くないので、身を沈めても溺れることはない。
そして何より……この部屋は角に位置し、隣が倉庫なので寝室より雑音が漏れにくい場所だった。
「……ラピー、ド」
フレンは羞恥で消え入りそうになる声を振り絞り、呼び掛ける。ラピードは肩口を押さえたまま、次の言葉を待つようにじっとこちらを見つめた。
一瞬躊躇いを覚えるも、注がれる視線に急かされて、緊張で震えるほの紅い唇を微かに開く。
「ここで、する………?」
濡れてボリュームダウンした青い毛並みを撫で、フレンは頬を染めながら首を傾いだ。思わず疑問系になってしまったが、意図は伝わったらしく、ラピードは眼を細める。
「ワゥッ」
「…んっ…!」
急に首筋へ噛みつかれ、フレンは反射的に体を強張らせた。しかしそれは本気ではなく、歯を当てるだけのものだった。牙の間から漏れる熱い吐息と、濡れた長い舌が肌を舐めていく感触に、フレンはあげそうになった声を耐える。
「ッ…!? わわ…っ」
――と、その反動でバスタブの側面に預けていた背が滑り、フレンは溜まっていた湯に落ちてしまった。飛沫を上げて倒れ込んだフレンに、ラピードは驚いたように半身を退く。
結果、バランスを崩したフレンは一人で髪までびしょ濡れになってしまった。すぐに顔を上げて溺れるのは免れたが、気管に入り込んだ湯に噎せる。
いくら水嫌いだからって放すなんてひどい、と身勝手な恨み言を抱きながらフレンが片目でラピードの方を睨むと、ラピードはこちらを見ておらず、口にくわえた鎖のようなものを引っ張っているところだった。
なんだろうと思っている間に、ラピードはそれを引っこ抜いてバスタブの外へと放り出す。ズズ……と湯の流れる音と同時に、それが栓だとフレンは気付いた。
「ワゥ?」
大丈夫か?と言いたげにこちらを覗き込む凛々しい顔に、フレンは少しドキリとする。冷静に対処するラピードに、もはやどちらが保護者か分からないなと思ってしまった。
濡れて張り付く前髪の間から、水位が徐々に下がっていくの見つめていると、ラピードが身を乗り出してフレンの頬を舐め始める。水滴を掬うようなそれが少しくすぐったく、フレンは笑った。
「はは…っ、もう濡れてしまってるから、別にいいのに……んッ」
笑い声をあげたところで、ぬるっと舌先が口腔に入り込んできてフレンは少し驚くが、拒むことなく自ら舌先を伸ばした。ゆったりと形を確かめるように擦り合わせていると、背筋に痺れるような感覚が広がる。
それが快感なのだと、今は冷静に認識できる。嫌悪を抱く相手と、自分の望む相手とではこうも違うかと、感心するほどの落差。身勝手な欲望のままに触れる手は、あんなにも冷めた眼差しで迎えたのに、今はこうして体温を口移しし合うだけで、蕩けていきそうな錯覚に陥る。
口の大きさと舌の長さが根本的に違うために、相変わらずラピードのキスは上手く受けられないが、自分と違う温もりに舌先で触れるのは心地よかった。一応人間基準に合わせてくれているのか、じゃれているのとは違い、ラピードの長い舌がいとおしむように上顎や舌の根を舐め上げていく。
「…っふ、…ぁ…」
まだ慣れないディープキスに息苦しくなって、思わずフレンは少しラピードを押し返した。抵抗することもなくラピードは身を退き、熱を孕んで熟れた桃のように染まったフレンの頬を舐める。宥めるようなそれに肩を少し震わせながらも、
フレンは乱れた呼吸を整えた。
はぁ…と熱を逃がすように顔を背けるフレンに、ラピードは耳や首筋を舐めあげながら、前足を肩に掛ける。
賢く優しい彼は、爪でフレンの肌を傷つけるような真似はせず、舌での愛撫を止めぬまま体重を傾けてフレンの体をバスタブの底に沈めていった。すでに大半の湯が排水構に流れていったため、程よく温かい底へと横たえられる形になったフレンは、弾む息を整えながら、覆い被さるラピードを見上げた。
「ラピード……大好きだよ」
「ワン!」
濡れた首筋の毛並みに指を通し、フレンは微笑む。表情筋のないラピードだが、それに尻尾を振って応えてみせてくれた。
思わず首の後ろに手を回して頬擦りすると、固い毛の感触とラピードの鼻息が耳をくすぐる。ふんふんと匂いを嗅ぐように濡れた鼻先を耳に当てられ、フレンは笑い声をあげた。
ラピードをこうして抱えている時が、本当に幸せだなと思う。建前も見栄もいらず、子供のように抱き締めて甘えられるのだから。
しかしラピードはそんなフレンの緩い至福では不満だったのか、両腕からスルリと抜け出てしまった。あれ、と驚いている間にラピードはバスタブの中で方向転換して、突然フレンの股間に顔を近付ける。
「え……ひゃッ!?」
ベロリと性器を直接舐められ、フレンは思わず裏返った声をあげた。内腿を震わせて強張ったフレンの反応に、ラピードが楽しげに尻尾を揺らして更に舌を伸ばす。

長い口腔内に引き込まれ、ざらつく舌が絡み付く感触に、フレンは慌てて起き上がりかけた。
「ちょっ、待……ッ、ん…く!」
急に与えられた快感に、フレンは咄嗟に唇を噛み締めて足を閉じかける。しかし既にラピードが顔を埋めていた為に阻むことはできず、ラピードの首筋辺りを内腿で挟むだけに終わった。
じゅるっと啜られる音と、柔らかない舌に擦られる感触に、フレンは射精感に似たものを感じて、頬を染めながら背をしならせる。固いバスタブの底に後頭部が擦れるが、そんな鈍い痛みなど下肢の快感を誤魔化すには全然足りず、フレンは思わず下唇を噛み締めた。
犬特有の器用な舌で何度も舐められ、甘噛みされる感触にフレンは声を耐えながら悶える。堪え性がないと思うが、こういった行為の経験はないに等しく、自分だけ先に上り詰めてしまいそうだった。
だがラピードは許可が出たのだから構うまいとばかりに、ずるっと喉奥まで性器を呑み込んで、愛撫を強くしていく。張り詰めて先走りを溢し始めた自身とラピードの口蓋が擦れ合う感触に、フレンは全身を震わせた。
「や、だ…ッ! ダメっ…ぇ、ぅあっ!?」
自分の頭を跨ぐ形にあったラピードの下肢を思わず両手で掴んだフレンは、横に向けていた視線を上に向けた瞬間、目の前に垂れ下がるものに気付いて悲鳴をあげた。
通常時は白い毛並みに覆われているラピードの性器が、勃起して中の赤い性器を半分露出させていたのだ。前にも一度見て触ったフレンだが、こんなにも間近で見たのは初めてだったために、目を見開いたまましばし固まる。
その様子に気付いたラピードが口を放してこちらをちらりと見るが、長い尻尾をぱたりと振っただけで再びフレンの性器に舌を伸ばした。再開した強い愛撫に、フレンはびくんと体を強張らせる。しかし、視線は赤くてらてら光るラピードの性器に釘付けになったままだった。
自分と同じように触ってあげれば……ラピードも気持ちいいのかな?
人間にとっての快楽がラピードにも通じるかは分からないが、自分も何かして喜ばせてあげたいと、与えられる愛撫に痺れ始めた脳でぼんやりと考える。
「ぁ……ッんん。はぁ……ラピー、ド……僕も触る…ね?」
嫌がるだろうかと懸念しながらもフレンはそう声をかけて、半分抜き身を晒すそれに手を伸ばした。
そっと指先を触れさせると、垂れ下がるそこがヒクリと震え、毛皮の中から押し出されるように赤い性器が更に露出する。思わず息を呑んだフレンは、再度ラピードの反応を横目で窺った。
「…ゥ…、ワフッ」
フレンのものを舐め上げながら、ラピードもまたこちらを目だけでちらりと見て唸る。しかしその態度に嫌悪や怒りは感じられず、好きにすればいいとばかりの、淡々とした雰囲気だった。
局部を舐め回される感触に息をあげながら、フレンは思いきって猛る雄の象徴に両手で触れる。包み込むように温かいそれを握ると、ラピードの後ろ足が少し強張ったがそれ以上の反応はなく、ほっと胸を撫で下ろす。以前に洗おうとした時にも嫌がっていたので、蹴られるくらいの抵抗は覚悟していたのだが、一度触れた時と同様にこうした行為ならば抵抗はないようだった。
血管が透けて見える、濡れ光るそれをフレンは辿々しく擦り上げる。元々手が濡れていたこともあって滑りはよく、稚拙な動きでも性器は熱を集めて膨らんだ。
ラピードが舐める音とフレンが性器をしごく音が、風呂場の湿った空気に反響して卑猥に響く。
「ん…ぁ、……ふっ」
追い上げるように性器を啜るラピードに、内腿を震わせ生理的な涙に瞳を潤ませたフレンは、息を乱す。こんな場所でこんなことをしている自分にどうしようもない羞恥を感じるが、ラピードだからこそ感じるむず痒いような幸福感が体の芯から沸き上がり、恥ずかしさを抑え込んで悩ましい声が溢れた。
「ゥゥ…ワゥッ、フ」
「あ、ぁ…息が掛ッ…ん…や」
ラピードの唸り声と共に、含まれた性器が舌と息の震えに晒されるもどかしい感触に、フレンはとろりとした眼で喘ぐ。みっともなく張り詰めた自身をラピードに見られ、あまつさえ舐められているという事実が平常時であれば憤死ものにも関わらず、それすら塗り潰すように強烈な快感が押し寄せていた。
風呂場特有の熱気もあり、暑いほど体温が上昇していく。もはや肌を伝うのは湯なのか汗なのか分からない。霧の掛かったような空間に、思わず溢れる甘ったるい自分の声。
でも、気持ちいいのは本当で。自慰のように理性が残る余地もなく、すべての意識が持っていかれる。自分も負けじと彼の性器を弄るが、その行為もまた快感を高める要素でしかなかった。
「ゃっ…ダ、メ…あ! も、…無理……放し、てッ」
フレン自身を喉奥まで引き込んで先端を引き絞ったり、わざと緩く歯を擦れさせたりと、ラピードの愛撫は犬とは思えないものばかりで。経験の浅いフレンは、簡単に上り詰めてしまっていた。
前足で押さえられ、開かされた太股が感じ入ってヒクヒク震える。張り詰めた自身は暴発を抑えようと、腹に当たるほど反り返ったまま先端から蜜を溢していた。
限界が近いことに、フレンは喘ぎを洩らしながらも慌ててラピードの後ろ足を掴んで引く。離れさせようと力を入れるのだが、神経がすべて下肢に集中してしまっていて、ろくに力が入らなかった。
以前に射精まで晒してしまっているが、今回の体勢ではラピードを真正面から汚してしまう恐れが強い。それが熱に浮かされながらも、最後の理性を捨てきれない理由だった。恥ずかしいうえに、そんなあるまじき事態は絶対に避けたい。
しかしそんな瀬戸際の心境などお構いなしで、ラピードは喰らいつくようにフレン自身を啜った。いつもは黙っていても察してくれるほど賢い彼なのに、こんな時だけ頼んでも聞いてくれない。
止めるどころか楽しげに尻尾を揺らめかせながら追い上げに掛かってくる愛撫に、堪らず足を閉じようとしたり、のし掛かる体を押し退けようとしたり、フレンは一通り抵抗を試みたがどれも力が抜けていて意味を為さない。
意識が遠退きそうな中、最後に為す術もなく、嫌だ、放してお願い、とフレンはプライドも何もかなぐり捨てて懇願した。
だが涙声のそれすら一蹴するように、じゅっと卑猥な音を立てて一気に吸い上げられ、残った理性が決壊する。
「ゃ、ぁッん――…ッッ!」
思わず叫びそうになった声を下唇を噛み締めて殺すが、引き絞られてフレンは呆気なく精を放ってしまった。
全身に走った衝撃に、思わずラピードの下肢を強く抱き締めて背をしならせる。
脳裏が真っ白に染まり、一瞬呼吸すら止まった。
身体中を駆け巡る快感と解放された下肢にぶるりと震え、フレンは全力疾走の後のように荒い息を吐いて悶える。達した瞬間だけはラピードへの心配も吹き飛び、きつくしがみついてしまったフレンだったが、痙攣しながら吐精する下肢の感覚に霞んだ意識が浮上し始め、ハッと目を見開いた。
「――っダ、ダメ! 離れてラピードッ!」
胸を打ち鳴らす激しい心音に動転しながら、正気に立ち返ったフレンは慌ててラピードを横へ押し退ける。力が戻ったフレンの腕は、加減もなくラピードの体をバスタブの内側面に押し当ててしまい、キャウッと小さい悲鳴があがった。
「ごめっ……ッぁ、く…!」
咄嗟に力加減を間違えたことを謝るが、まだ精を吐き出す下肢にビクリと体を震わせ、フレンはラピードに背を向けるように体勢を変えた。
狭いバスタブの中で縮こまるように身を丸めたフレンは、ひくひくとみっともなく震える自身を握り、押さえ付ける。温かい液体が溢れる生々しい感触に赤面しながらも、ラピードに全部掛けてしまうような事態にならずに済んだことに安堵した。
食い縛った歯の間から熱い吐息を逃がし、早く自分を落ち着けようとギュッと眼を閉じる。
「っは…――ぅッ!?」
しかし、吐精が治まるまでと身を固めていたフレンは、不意に臀部に濡れた感触を受けて肩を揺らした。一体なに!?と眼を見開くと、縮こまる自分の下肢の向こうから青いタテガミが覗いていた。
いつのまにか、向きを変えたラピードがフレンの足元へ移動し、臀部に顔を近付けている。狭いバスタブの中で、青い尻尾が楽しげに揺れているのが太股の向こう側で見えるのが、何か異様な光景に思えた。
「なにして……ぁ、やぁッ」
驚いて身を固くするフレンに構わず、ラピードの長い舌が割れ目をベロリと舐め上げる。生暖かい感触に思わず体は逃げを打つが、すぐにバスタブの側面に頭をぶつけてしまい、身動きがとれなくなった。
逃げ場をなくして縮こまるフレンの太股に前足を掛け、ラピードは構わず長い舌でそこを舐め上げてきた。何か美味しいものでも舐めるように何度も舌を這わされ、ぴちゃぴちゃと濡れた音が響く。
なんでこんなところを…と真っ赤になりながら疑問を抱いたフレンだったが、割れ目の奥のすぼまりを濡らすように唾液を絡ませるラピードに、理由を唐突に理解した。
ここに……入れたいんだ、ラピードは……。
どこをどうして男同士が事を成すのか分かってもいたし、それを覚悟していたはずなのに、やはりどこか現実のものとして捉えきれていなかったのかもしれない。改めて事態を認識して、フレンは緊張に下唇を噛み締めた。
しかし行為を続けること事態に、躊躇いはなかった。ラピードの望みは分かっているつもりだし、フレンももっとラピードに触れたいと思っている。
だから、自分が覚悟を決めなくてはいけないのだ。フレンはそう決意を固め直し、強張る体を動かした。
ラピードは懸命に唾液で濡らして秘孔を解かそうとしてくれているようだが、それだけで交われる状態になるわけがないというのはフレンでも分かった。女性のようにそれ自体が濡れるわけもなく、本来は排泄の為の器官であるそれは、当然固く閉ざされている。ある程度は無理に抉じ開ける必要があるだろう。
犬を相手に、というのは書庫で調べられなかったが男同士のセックスやアナルセックスなどの資料は探せばないことはなかった。人目を忍んで本を探す自身の姿といえば、情けないの一言に尽きたが……。
ともかく、人間のような器用な動きをする手を、ラピードは持っていない。魔物も薙ぎ倒す鋭い前足で引っ掻かれようものなら、血を見るのはこちらであり、当然それを避けるにはフレン自身の手で……ということになる。
「ぼ……僕がやるしかないんだよね……」
「……ワゥ?」
途端に火照ってきた頬に顔を引きつらせながら、フレンは無情な現実に泣き出したい気分で呟いた。直面している問題に気付いていないらしいラピードは、真っ赤になって葛藤するフレンに不思議そうな声をあげる。
恐らく説明すればラピードは言語の隔たりも超えてフレンの言葉を理解してくれるだろうが、性的な事柄に免疫のあまりないフレンにはそんなことを口に出すのも抵抗があるし、理解が得られたところで問題が解決するわけでもない。
しばらく奥歯を噛み締めたまま、うー…と唸っていたフレンだったが、ようやっと観念して恐る恐る体を動かし始めた。体勢を変えようとする動きに何か意図があると汲んでくれたらしいラピードは、邪魔にならないように少し離れてくれる。
フレンは逃げ出したい気持ちを奮い立たせて、なんとか仰向けになった。縮こまっていた背を伸ばすと、ゴンと鈍い音を立ててバスタブの側面に頭が当たるが、今は沸騰しそうな恥ずかしさで痛みも感じない。
明るい照明に目を細目ながら、フレンは立てた膝をゆっくりと開いた。ラピードに恥ずかしいところを見せるような格好は、まさに憤死ものだが、行為を続けるには仕方ないことだ。……とはいえ、流石に正視に耐えなくて、顔はあらぬ方向を向いてしまっているのだが。
「な……慣らさないと、無理だと…思うんだ…」
「ワフ」
「だ、だから……ちょ…ちょっと、待ってて…くれるかい?」
「ワゥンッ」
湯だった頭でなんとか考えた言葉で呼び掛けると、ラピードは一吠えして尻尾を振った。そして、その場にお座りをして、こちらを見守る姿勢を取る。
いや…あの…、見られてると……ますますやりづらいんだけど。
何か嫌な汗が浮かぶのを感じつつ、とりあえず苦笑い。しかしラピードは、変わらず精悍な顔でこちらを見ているだけだった。ゆらゆらと動く尻尾は、むしろ期待を込めているかのようにいつもより揺れが大きい。
「…っ…」
ああ、ままよ。半ば自棄でフレンは目をつむり、自分の下腹部に手を伸ばした。
腹部に散った、生暖かい精液が指にぬるっと絡み付く。構わずそのまま下ると、固くなった自身に触れた。先程射精したばかりなのに、もう次の期待に震えている様が我ながら浅ましい。
奥歯を噛み締め、フレンは更に奥へと手を伸ばした。湿った茂みを越え、なぞった先にある割れ目を辿る。
「ワゥ」
控え目な鳴き声と、唾液で濡らされた一点でフレンの指先が止まるのは同時だった。まるでそこだと知らせるようなタイミングは、ラピードなりの至極真面目な親切心だったのかもしれないが、それははっきりと恥部を見られている証であり、よりフレンの羞恥心を煽るだけだった。
再び襲う、逃げ出したい気持ちに思考がぐるぐるなりながらも、やると言ったのだからやり通す!と意地で奮い立ち、フレンは指をそこへ捩じ込んだ。
「…っく…ぅ!」
自分の中に異物が入り込む感触と、指先が熱い肉壁に沈む感触を同時に味わい、思わず顔が歪む。ラピードの唾液で濡らされていたため痛みはないが、異物感があってどちらかというと気持ち悪い感覚だった。
指を入れたまましばらく固まってしまったフレンだが、早く慣らさなければと動かすと、圧迫感が増す。
「ふぐ…ぁ…っ」
異様な感触に足を震わせながら、フレンは固く目をつむって広げるように指を回した。ぎこちない動きが、いびつに隙間を押し広げていく。
「! ひゃ…ッ!?」
羞恥に耐えながらの作業に集中していたフレンは突然ぴちゃりと濡れた感触を受けて驚いた。思わず背を浮かして手元を見ると、ラピードが顔を埋めて指と秘孔の狭間を濡らすように舐めていた。
その感触に思わずこれ以上ないほどに顔を赤らめると、ラピードは顔を上げて隻眼を向ける。
「ワゥ!」
「あ……ありが、とう…」
尖った耳を立て、任せろと言わんばかりに威勢良く吠えるラピードに、フレンは本気で死にたいと思いながら、なんとかお礼を口にした。
繋がる準備を手伝おうとしてくれているのは、分かる。分かるが、余計に羞恥を煽られるこちらの心情は残念ながら分かって貰えていないようだ。
女性と関係を持ったことは一応あったフレンだが、どちらかというと男でありながら相手のペースに流される方で、あまり能動的に動いたことはなかった。それ故に、自分で行為を進めることに抵抗が強い。
しかし自分がやらねば進まないという現実に、葛藤しながらぎこちなく指を動かすと、ラピードが再び顔を寄せて舐めてきた。
敏感な肌を這う舌の感触に腰を震わせ、フレンは顔を背ける。とてもじゃないがこの状況は、正視に堪えられなかった。目を閉じ、熱を逃がすように息を吐く。
風呂場の湿った空気が、代わりに喉へと絡み付いた。
そう簡単に緩むものではないが、ラピードの唾液で滑りがよくなったところへ指をもう一本捩込み、隙間を広げていく。水を飲んでる時のような、ビチャビチャと激しい水音がタイル張りの部屋で反響し、鼓膜からも犯されていくようだった。
「…は…ッ、…んぁ」
内股が痙攣を起こす度、ラピードの柔らかな毛並みと擦れて、走るほの甘い刺激に背をしならせる。くちくちと粘着質な音を立て始めたことそこは、大分緩くなり、指を動かしやすくなっていた。
慣れなのか、異物感もさほど感じなくなったので恐る恐る指を引き抜くと、ラピードの唾液とフレンのものから滴った先走りが混ざった透明の液体が糸を引いた。濡れそぼった自分の手を持ち上げて見てしまったフレンは、そのさまに熱を上らせたが、太股にのしかかった重みにハッと目を見開いた。
「ワンッ」
爪を引っ込めた前足を掛け、ラピードが伸び上がるように青い痩身を乗り上げてくる。力加減をしているのか、体の大きさの割には軽く感じる負荷が、フレンの腹筋を押さえた。
覆いかぶさる大きな体を、驚いたまま受け止めたフレンは、近付いたラピードに顔を舐められて我に返る。
「クゥーン…?」
いいか?と尋ねるように、ラピードが鼻で鳴いた。乗り掛かったまま了承を待つ姿に、フレンは思わず苦笑を浮かべた。擦れ合う下肢は熱く固かったが、ラピードはそれ以上は何もせず、長い尾をゆらゆら揺らしているだけだった。
必要な時にこちらの意思を汲んでくれるのは、昔から変わらない。自分には勿体ないくらい、彼は聡明だ。
素肌に触れるしっとり濡れた毛並みの擽ったさは、温かくて何故か安心する。腕を回せば、泥だらけで駆け回った小さい頃と同じ存在感が伝わってきた。
お互いに成長してそれぞれ別の道を歩むことになったが、こうして接すると不思議と時間の隔たりを感じなくなる。鋭く射抜く青い隻眼を見つめ返し、フレンははにかんだ。
「いいよ、大丈夫だから」
「……ワゥッ」
首元の豊かな毛並みを撫でて促すと、ラピードに口元をペロッと舐められる。擽ったさに笑みを零すが、少し身を起こしたラピードと下肢が擦れ合って思わず肩を震わせた。重たげな雄の象徴が、位置を探るように肌を這い、熱の尾を引いていく。
羞恥と期待に思考をじりじりと焼かれながら、フレンは震える手でラピードを導こうとした。性別も本来繋がるべき相手とは違うし、異種族ということもあり、どう準備したところで困難であろうことは想像に難くない。それはラピードも感じていたのだろう、フレンの手を嫌がらず、促されるままに濡れた秘孔へと進んだ。
しかし入口に先端が埋まりかけた瞬間、ラピードが急に動いた。内蔵を押し上げられるような衝撃に、水揚げされた魚の如く、フレンの身体が跳ね上がる。
「! ッぁ、ひ――!」
一気に押し入ってきたラピードの圧迫感に、フレンは悲鳴をあげた。突然の強引な挿入に不意を突かれ、意識がスパークする。
媚肉を割る痛みと熱に目を見開いて喉を引き攣らせるフレンの肩に、ラピードの爪が食い込んだ。鼻にシワを寄せ、少し目を細める表情は、ラピードも中が狭くて苦しいのかもしれない。
しかしそれ以上にえぐられるような痛みに晒されたフレンは、バスタブの側面に当たるのも構わず強張った足をばたつかせ、目の前のラピードにしがみついた。
反射的に痛みから逃れようと、力任せに抱きしめたために一瞬毛が逆立つが、すぐにラピードは慰めるように舌を伸ばしてきた。
奥まで埋めたものを引く気はないようだが、それ以上動く気もないようで、ラピードはじっとしたままフレンの顔や首筋を舐め始めた。顔を挟むように前足を伸ばしたラピードはフレンに抱きしめられたまま、ぴちゃぴちゃと音を立てて、鎖骨や顎、耳の裏まで丹念に舐め上げていく。
「ふッ…は…、ん」
滴るような水音に、ぬめる舌の感触。くすぐったさを越えてゾクゾクする痺れに、フレンの唇から自然に吐息が零れ始めた。合わせた胸から伝わる早い鼓動と、ハァハァと零れるラピードの息遣いにも、興奮の度合いが伝わってくる。
自分以外の熱が埋まっている奇妙な感覚に慣れ始め、痛みが収まってきたのを感じたフレンは、閉じていた目を薄く開いた。すると、口元を舐めてきたラピードと間近で視線がかち合う。
大丈夫か?と心配そうに語りかけるその青い瞳に、フレンは先程の強引な動きがわざとだと気付いた。人間ほどはっきりしていないが、犬の性器もカリのような部分は太く、入りづらいのだろう。そこを通すために、やや強引に押し込んだようだ。
キューン…と鼻にかかった寂しげな声をあげながら、ラピードが懸命に舐め回してくる様が、乱暴な真似をして悪いと謝っているようで、胸を締め付けられる。
大丈夫だよ、と呟いてフレンは青い毛並みを優しく撫でた。
「動いていいよ……ラピード」
「クゥーン…?」
「大丈夫、もう痛くないから」
「ワウゥ……」
先を促すが、逡巡するようにぱたっと尻尾を振ってラピードはこちらを見つめてくる。強がりを見抜こうとするような鋭い眼差しに内心後込みしつつも、安心させるようにフレンは微笑んだ。
完全に痛くないわけではないが、一番通過するのが困難な箇所は過ぎているので、感じるのはあくまでも鈍い痛みと圧迫感だけだった。本来の機能とは違う使い方をするのだから、多少血を見るのは仕方ないとすら思っていただけに、一時の痛みだけで済んだのだから僥倖だろう。
大丈夫だという言葉は信じられたのか、ラピードは尖った耳をぴくぴくと動かして気遣わしげな眼差しを向けつつも、フレンの顔を挟むように前足を置いて上体を起こした。つられて埋まっていた熱が競り上がり、フレンは反射的に呻く。
自分にのしかかっている大きな体を抱き直し、フレンはラピードの動きに合わせようと、強張りかけた体から力を抜くように努めた。
「ハァ……ん…、なんか……変な、感じ…っ」
「ワゥ」
具合を探るような、緩く擦り上げる動きにフレンは吐息を零す。気持ちいいとかそんなことを感じる余裕は全くないが、自分の中で別の熱が行き来する感触が生々しくて、不思議な感じがした。処女の女性が初めての性交に、快楽よりも痛みを強く感じると聞いたことがあったが、なるほど確かにこれは慣れるまでは違和感の方が強い。
それでもラピードが気を遣ってくれている為、痛みは最小限で済んでいる。殊更浅くゆっくりと行き来するラピードの動きに、フレンは次第に熱の存在が馴染んでいくのを感じた。染み入るように同化していく愛しい存在が、感動で胸を熱くさせていく。
繋がっていること、熱を分け合っていることが、何よりも嬉しかった。自分の中にラピードが入っているという事実が、擦り上げてくる熱を緩やかに快感へと変えていく。
「ん…っ、ん…ぁ」
「ゥウ…ッ」
徐々に速度を上げ、突き上げられる衝撃に身体が揺れる。熱を帯びた吐息が、反り返った白い喉から零れた。
ラピードも息を荒げて、フレンの顔を舐め上げる。鼓膜まで犯されるような濡れた音と、下肢を揺さぶる律動に、フレンは体中が熱を帯びていくのを感じた。はっきりとした快感ではないが、ラピードの熱をより感じたくて無意識に足を絡めて縋り付く。
「ぁ…、あッ…ラピ、…んぅ」
「ハッハッ……ワゥ!」
「ッ、ぅあ――っ」
勢いを増したところで一気にえぐられ、フレンの背筋が反り返った。急に走った、今まで感じたことのない痺れに体が強張る。
なに……これ?
電流が頭から爪先まで走ったような、痛みと間違うほどの強烈な快感。引きずり出されたような射精感に、一瞬達してしまうかと思ったほどだった。抑えることも出来ぬまま、フレンは瞳を涙で潤ませて荒い息を吐く。
いわゆる前立腺に当たったのだとは分からないラピードは、突然の顕著な反応に戸惑い、身を引きかけた。しかし身動いた為に、その一点をもう一度擦られて、今度はフレンの唇からはっきりと嬌声が漏れる。
「ぁっ…んぅッ! …ゃ、…ダメだそこ、は……っ」
思わず幼子のように首を振って、フレンは腰を引いて逃げようとした。強すぎる快楽はなんとか保っている理性までも一気に壊してしまいそうで、恐怖心を煽られる。
だが、フレンの変化の真意を読んだらしく、ラピードは逃げ腰のフレンの肩に前足を掛けて押さえ込み、一気に突き上げてきた。
「ぁぁああ――ッ!」
硬いバスタブの底に頭が当たるのも、気に掛けていられなかった。中を押し上げられる衝撃と強烈な射精感に、留めようと足掻いた理性は容易く瓦解して、意識が白む。二度目の射精に及んでいたのだと自覚したのは、下腹部を濡らす液体の感触に気付いてからだった。
肩で息をしながら、フレンは弛緩した体を投げ出す。火照った体からは汗が滲み出て、気だるさで意識がぼやけていた。
ダメだと言ったのに、ピンポイントで狙ってきたラピードを、フレンは涙目できろりと睨み上げる。
「……ラピードの、馬鹿……っ」
「クゥーン」
脱力してしまっていうことを利かない体はそのままに、フレンが非難の眼差しを向けると、ラピードは鼻にかかった鳴き声をあげてペロペロと顔を舐め回してきた。許せと言う様に、ご機嫌取りをしてくるラピードにムゥ…と眉を寄せて、フレンは顔を背ける。
「……もうちょっと、ゆ…ゆっくり…頼むよ」
「ワゥ……?」
「い…一緒が、いいんだ。気持ちよくなるのも……一緒がいい」
小さな子供のように、ぎゅうっとラピードの体を抱いた。恥ずかしくて顔が向けられなくて、青い毛並みに顔を埋める。
ラピードはスンスンと鼻を鳴らし、少し意味を図りかねる様子でされるがままになっていたが、フレンが先を促していることが分かったのか、埋めていた固い熱をぐっと押し込んできた。内部の擦れる感触に、フレンは身震いする。
探るように何度か突き入れられ、自然に短い喘ぎが漏れた。擦り合わせる様な動きから、徐々に揺さぶられて熱が競り上がる。
ラピードの荒い息が耳元を掠めるのを、フレンはぶるりと震えながら受け止めた。じわりと全身を支配していく快感が、心地よい。
しかし、律動が早くなってきた時だった。叩き付けるような衝撃と共に、異質な感触が訪れて、フレンの体が跳ね上がった。
「――ッハ、ぁあ!?」
太い性器が潜り込んできただけでなく、何か別の一回り大きいものが入口を押し広げ、ねじ入ってきたのだ。強烈な圧迫感に、フレンは悲鳴をあげる。
下手をすれば裂けるか否かというギリギリのラインだったが、身体が弛緩していたために、その塊は一瞬で中に収まってしまった。
「ぁ…ふ、なに…これッ?」
一番狭い入口をかろうじて越え、押し込められて止まったその熱の塊の正体が分からず、フレンは浅い息を繰り返しながら困惑の色を強める。性器の形が変わった? それとも別の何か? いや違う、自分が彼のそこを見たときにあった該当しそうなものは……。
まさか……睾丸?
自分の下腹部に埋まるその体積や位置から察するに、重たげにぶら下がっていたそれしか考えられなかった。その事実に行き当たって、フレンの思考が一時停止する。
そういえば犬は交尾するときに、結合部が繋がったままになるというのを聞いたことがあったような。雄と雌の体がお尻を合わせたまま反対を向いても離れないというのは、犬好きの人の間ではそこそこ知られている知識だ。
正確にはフレンの中に押し入ったものは亀頭球と呼ばれる、ぺニスの根本が膨張したものだが、それを知らなくても繋がっているための楔として入れられたことは、フレンでも分かった。
「……!? ぁ…、うそ…ッ。大きくなって……!?」
中に埋まったそれが、更に膨張し始めたのを感じて、フレンは青ざめた。今よりもそれが中で大きくなれば、抜けなくなるのは想像に難くない。下腹部がこぶの形に押し上げられていくのを感じて、フレンは本能的な恐怖に駆られた。もっと犬の交尾について調べるべきであったと今更後悔しても、後の祭りだった。
「ワンッ、ワゥウッ!」
驚いて必死で逃げを打つフレンの体を前足で押さえ込み、ラピードが一喝するように吠えた。訳が分からずにパニック状態に陥っていたフレンは、その声にびくりと肩を震わせる。
思わず怯えた眼差しを彼に向けると、ラピードはフレンの顔を覗き込み、静かに舐め始めた。
落ち着けと言うように宥める愛撫に、フレンはしばらく固まっていたが、次第に強張った体から力を抜いていった。
そうだ、ラピードが自分に害が及ぶようなことはしないはずだ。たぶん……大丈夫。
体の構造の違いや受け入れる場所が違うことに、完全に不安は拭えないが、聡明なラピードが動くなと言っているのだから恐らくそれで正しいのだろう。
しかし中を押し広げて膨らむそれに本能的な恐怖もあり、何も出来ないまま体を預けていると、膨張したそれが内部のある一点を圧迫し始めた。
裂けるのではという恐怖感から一変。腹を内側から押し上げられるような刺激に気付き、フレンは驚きに目を見開く。
「ぁ…、ぁ……ぁあ…ッ!?」
それが及ぼす想定外の衝撃に、思わず声をあげてのけ反った。電流のように全身を駆け抜ける痺れに、ズンと腰だけが重くなる。強すぎる快感に意識が白んだフレンは、痙攣して恐慌状態へ陥った。
膨らんで内側を押し上げ始めたこぶは、ちょうど前立腺の辺りに位置していた。
当然体積を増したそれに押され続ける形となり、フレンに強烈な快感を与えたのだ。しかもそれは、一瞬触れるのとはわけが違う。
膨張と比例して増していく快感に、フレンは信じられない面持ちでビクビクと体を震わせることしかできなかった。思わずラピードの筋肉質な背に爪を立てるが、そんなもので誤魔化しきれるものではない。気付いた頃には、萎えていたはずの自身が再び熱を持って蜜を零し始めていた。
「ワウ……クゥン」
逃れようもない快感に晒され続けて悶えるフレンの顔を、ラピードは変わらず宥めるように舌で愛撫する。大丈夫だからと言いたいのかもしれないが、当のフレンは堪ったものではない。
「ッ…! ぁひっ…んあぁ…ッ。や、…これ……やだっ…ラピー、ド…!」
耐えようのない強烈な射精感に、フレンはラピードの体を抱いて首を打ち振る。
こぶの膨らみは中が裂ける前に止まってくれたが、ずっと前立腺を刺激され続ける状態に、神経がおかしくなってしまいそうだ。理性を快感で白く塗り潰されたフレンは、開きっ放しの唇から悲鳴に近い嬌声をあげることしか出来なかった。
「ワォォンッ」
「ひッ…ぁあ!」
体裁も構っていられず乱れるフレンの上で、ラピードが突然動き出す。更に固い熱を押し込むように数度突き上げられ、腰が跳ねた。前立腺を圧迫されているだけでも堪らないのに、そこで身動かれたら狂いそうだ。
「や…っ、ひ…ふぁッぁあんっ」
団長だとか男だとかそんなプライドなど、突かれる度に押し寄せる快楽で、容易く砕かれてしまう。狭いバスタブの中で、感じすぎてピンと伸びた爪先がしきりに当たるが、構っていられない。
ハッハッと息遣いも荒く、腰を叩き付けるラピードを掻き抱き、フレンは抑えられない嬌声をあげ続けた。射精まで至らないが身体と意識が連続で達し続けるドライオーガズムは、フレンを半狂乱に陥れる。硬く反り返って腹に当たる自身の雄から、泣き濡れたようにだらだらと蜜が零れていた。
「――ッあぁぁ!」
そして一際強く、突き上げられた瞬間だった。中へ叩き付けるように、熱い液体が流し込まれる。
高ぶった自分よりも更に熱いそれに、内臓が波打つように痙攣した。濡れた刺激を、ラピードの体を抱きしめてやり過ごそうとしたフレンだったが、中に射精されたのだ自覚した途端に、自分も精を放っていた。熱い自分の体液がかかり、腹筋が引き攣る。
「っ…はぁ、…は…ッ…はぁ」
「ハッハッハッ……ワゥゥンッ」
大きな波が引くように強い快感が消えて、代わりに気怠い疲労がじんわりと全身を支配した。促されるまま、フレンは熱でぼんやりしながら脱力していく。しばしの間、荒い息と自然に漏れる喘ぎとが、しばしの間浴室の中を満たした。
気が付けば、汗なのか唾液なのか愛液なのか分からないくらい、口元から下肢までべったりと濡れていた。湿度の増した浴場の空気が、酸素を求めて喘ぐ喉に絡みつく。
しかし、一息ついたと思った矢先だった。中に再び熱い液体が叩き付けられる感触に、フレンは眼を瞠った。
「……え……っ?」
ラピードの性器は、変わらず埋められたままだ。最初の精液は膨らんで栓をするこぶに阻まれ、中に留まったままだというのに、その上から更に注ぎ込まれた感触にフレンは混乱する。
どういうことだろうと戸惑ってラピードを見上げると、青い隻眼がじっとこちらを見つめ、ぺろりと頬を舐めてきた。優しい愛撫のようなそれは穏やかだが、フレンの肩を抑える前足には依然として力が入ったままだ。
――まさか、一回くらいでは……終わらない……?
律動は止まったが、断続的に中に放たれる精液の熱さに、フレンはくらりと意識を傾けた。固さの変わらないラピードの性器が、フレンの不安を強める。
犬の射精が大体15分間ほど続くものだとは知らず、フレンは注ぎ込まれ続ける精液に、お腹が破裂するのではないかと顔を青ざめさせてしばし耐えるしかなった――。





前足で組み敷いたフレンは、未だ事態が呑み込めずに困惑したまま、中を満たす精液に頬を染めて喘いでいた。
楔に縫い止められて体を奮わせる様が、成人男性とは思えない色香を放つ。全てを注ぎ込むまでの間、舌を伸ばしてフレンの胸の飾りを舐め回してやると、金の髪を乱して声をあげた。普段クセの強い髪はしっとりと濡れて上気する頬や額に張り付き、睨む青い瞳は潤んでいて、背徳感とともになんとも言えない独占欲を満たす。
可愛い、と思いながらラピードが白い首筋を甘噛みすると、フレンは背を弓なりに反らし、強く抱きしめてきた。種族の違いで困惑することが多々あっただろうに、それでも従順に受け入れようとする姿がいじらしい。
柔らかな中の感触を堪能しながら、ラピードはフレンを決して放すまいと思った。今の行為ではなく、これから一緒に歩む人生においてだ。
今はまだ世界が混乱に満ちているが、いつか収まった時に改めて口説きに来よう。そう決めながら、ラピードはしばしの快楽の海に溺れた。











翌日、ユーリ一行は早速各地へ復旧作業の手伝いに向かうことになった。その為、早朝から城門前に整列した騎士団長代理のフレンと皇帝ヨーデル、そして騎士団一同に見送られる。
簡単な挨拶を交わすユーリとフレンに、ラピードは静かに近付いた。足元で止まり、長い尾を振るとフレンが朝日に映える笑顔を向けてきた。
「ラピードも、宜しく頼むよ」
「ワン!」
屈み込んで頭を撫でる手に眼を細め、ラピードは応える。その返事ににこりと笑ったフレンの表情は、作り笑顔と違って柔らかく幼かった。
思わず衝動で、伸び上がってフレンの唇を舐めると、フレンは一瞬驚いて頬を染めたが、周りの目があることに気付いてすぐに表情を引き締めた。
あまりに一瞬のことでほとんどの人間は気付かなかったようだったが、立ち上がりかけるフレンの後ろに立つユーリの眉間に皺が寄っているのを発見してしまう。
……悪いな、相棒……。
申し訳ないような思いはあるものの、今更フレンを譲る気はなく、ラピードが表情を変えずにユーリを見上げると、彼は徐々に引き攣ったような笑顔を作った。
「あとでちょーっと話があるんだけど、いいよな。ラピード?」
「……」
晴れやか過ぎて怖いものを感じる笑顔を向けるユーリに、ラピードは半歩下がった。流石に、易々と事は運ばないようだ。
見えない火花を散らす両者の間で、フレンは少し不思議そうに首を傾げていた。







END




……長い! 長すぎる!
久しぶりに長文のエロは辛かったです;
普通のエロなら適当に割愛するんですが、獣姦となると色々特殊なんで、中間を抜くわけにいかずノーカット。
一応調べたので事実と大きくはズレていないはずですが、ラピードの人間並みの賢さあってのファンタジーだということはご了承ください。
実際はそんなに簡単ではないようですよ;;