「……」
ああ、そうか。
カイは虚ろな目で天井を見つめながら、唇を微かに動かして声を発しないままに呟いた。
そこは古びた立て付けの悪い安宿の一室。窓から差し込む夜明けの光が、ベッドに横たわるカイの体を照らし、冷えたままの体をじんわりと温めた。埃が溜まったその不衛生な床には、水が入っていた容器だけが転がっている。
ああ、そうか。
二度目の同じ呟きに、カイの唇は動かなかった。だが代わりに、表情をなくして幾らかやつれた顔で静かに微笑んだ。
そうだ。私はソルが好きだった。
声に出せば刃となって自分の肺腑を抉る名前も、胸中で囁けばなんと甘いことか。自ら関係を断ち切ったはずの男の背を思い出し、カイの心臓は痛みと悦びを両方抱えた。
それでも、好きだった。
三日間水だけしか喉を通らなかったカイは、苦痛とも言える眠りの狭間で、昔を思い出していた。自分があの男を好きなり始めた、初々しいあの頃の心。いつの間にか色あせ、傷だらけで血を流していたが、それでも根底にあるものは何も変わっていなかった。
好きだ。……今も、昔も。
カイは昇る日を見つめながら、涙を流した。胸も体も突き刺さるように痛い。けれど自分の心の奥にある感情は消しきれなかった。
好き。好きだけれど、心臓が潰されるように痛い。その痛みも現実を見るのも怖いけれど、やっぱり好きだ。
カイは次から次から溢れる涙をそのままに、目を閉じた。ずっとまともに眠れることがなかったのだが、今はひどく眠かった。長い睫を備えた瞼が完全に下り、最後に零れた涙がシーツを濡らしていった。
やっぱり好きだった。それは変わらない。それがよく分かった。
だから、またあの人を追うんだ。
今度こそ本気で追いかけるんだ。
好きだから。一緒にいたいから。ともに歩みたいから。
次に目覚めたら、追い掛けに行くんだ。

カイはそのまま眠りについた。







「おい、もう寝たか?」
「充分効いてるはずだ」
複数の男の気配が、カイの眠る一室に忍び込んだ……。



END





そういう引っ張り方をするなー!という叫びが聞こえてきそうです; すみませんっすみませんっ!!
そしてやたらと強姦が多くてごめんなさいッ(平謝り)

もしよければ……次のシメまで御付き合い願えたら……と思います(怯)。