充分に濡らした髪にシャンプーの液を垂らして、カイが丁寧に洗い始めると、さっきまで自分の言うことなど聞きもしなかった自分勝手で強引な男は、無防備に背を晒したまま大人しくなった。
「目はちゃんと閉じててくださいね」
されるがままになっているソルに少し気を良くしたカイは、殊更優しい声音で注意を促しながら、指の腹で地肌を柔らかく何度もこすった。そして隅々までシャンプーが行き渡るようにしっかり馴染ませていく。だが、髪が尋常でなく長いのでなかなか一苦労だ。それでもきっちり泡立てて洗うと、仄かな花の香りが鼻腔をくすぐっていった。
「ついでだから背中も洗いますよ?」
一応声は掛けたものの、カイは返事も待たずに泡立てたスポンジで広い背中を洗う。浅黒く焼けた肌を力強くこすっていると、ソルがちらっとこちらを見たような気がした。しかし何も言う気配がなかったので、気付かなかったふりをして洗うことに専念する。
「……よし。それじゃあ洗い流しますから、耳を塞ぐんだったら塞いでおいてください」
お湯の温度を調節しながらカイはそう言ったが、ソルは微動だにしなかった。耳の良いソルが聞こえていないはずはないので、カイはそのまま適度な温度のシャワーを浴びせる。
長い茶色の髪から乳白色の泡が押し流され、排水溝へと向かっていった。カイが髪の奥に指を潜り込ませて何度も濯ぐと、次第にぬめりが取れてきて髪が指に絡み付くようになる。一旦シャワーを止めてリンスを手に取り、カイはそれを茶色の髪にのせていった。何度も両手で髪を挟み込んで馴染ませたあと、再びシャワーを浴びせて軽く濯いでいく。
泡がまだ所々残っている逞しい背中もきちんと洗おうと思って、カイが何気なく指を這わせると、一瞬ソルの肩がびくっと震えた。
「ソル……?」
「……」
不審に思ったカイは、ソルの顔を覗き込む。しかし、ソルは黙ったままいつもの無愛想な顔で一点を見つめているだけだった。すぐに気のせいかと思い直し、カイは作業に戻る。
すべてさっぱりと洗い流し終わり、泡が残っていないか確認してから、カイは薄く微笑んでぽんとソルの背を軽く叩いた。
「ソル、終わったぞ」
「……ああ」
雫がしたたり落ちる髪を鬱陶しそうに後ろへ撫でつけながら、ソルはこちらに振り返る。
「坊やも洗ってやるよ」
「え? あ、いや私は別にいらな……ひゃッ!?」
突然ソルに腕と腰を掴まれ、カイは裏返った声をあげた。強い力に逆らう間もなく抱き寄せられて、そのままぐるっと向きを変えさせられる。
「ガキは遠慮するもんじゃないぜ?」
笑いを含んだ声がすぐ耳元で聞こえて、カイは思わずぞくっと身を震わせた。それに慌てたカイはソルから離れようとしたが、背後から腰をがっちり抱き込まれてしまって逃げられなくなる。
「ちょっとっ、ソルッ! 私はいらないって言って……!」
「いいから大人しくしてろ」
有無も言わさぬ力でソルに壁へ押し付けられたカイは、タイルの冷たさに思わず身を縮めた。
「ソ、ソル! 本当にいらないから放して……っ」
「うっせぇな。黙ってろ」
威圧的な言葉を投げ付けられたかと思うと、いきなり泡立ったスポンジが背中に押し付けられた。そして肩を押さえられて身動きが取れないまま、ごしごしと洗われる。
何を言ってもどうせ聞かないんだろうな…と諦め半分な気持ちで仕方なくカイが大人しくしていると、機械的に洗いながら徐々に位置を下げていたスポンジの動きが、不意に止まった。
「……?」
不審に思ったカイがソルの方を振り返ろうとした瞬間――腰に巻いていたタオルをいきなり剥ぎ取られる。
「なッ!? ソ……ひっ!」
驚きに声をあげたカイは、ぬるっとスポンジがお尻を撫でていく感触に思わず悲鳴を漏らした。カイは慌ててソルの手を払おうとしたのだが、逆に両手首を後ろ手に腰の辺りでまとめられてしまう。
「ソル! こら、放せ…っ」
「ちゃんと隅々まで洗ってやるから心配すんな」
明らかに面白がっている声でソルが囁いたかと思うと、柔らかいスポンジが後ろの秘部にグッと押し当てられた。そんなところを人に触れられたことなどあるはずもなく、カイは強引に奥へと入り込もうとしてくるスポンジに竦み上がる。なんとか逃れようと腰を捩るが、体を押さえ込まれているので大して意味をなさななかった。
「どうしたぁ? そんなに腰振ってよ」
「ち、違う! そんなんじゃな…ぅっあ…!?」
急にそのスポンジがほぐすように穴の周辺をマッサージし始めたので、カイはあまりの驚きに体を跳ねさせる。柔らかいスポンジはボディソープをたっぷり含んでいて、嫌なくらいに滑りが良く、恥ずかしいところを洗われているにも関わらず、カイは正直少し気持ちが良かった。だがソルの手つきはなんだか卑猥で、執拗にそこばかりをこすり、ボディソープを塗り込んでくる。
何かアヤシイその動きにカイが抗議しようとした瞬間、スポンジとは違う何かが、ボディソープでぬるぬるになった穴にズブッと押し入ってきて、カイはあられもない声をあげた。
「ぁあああっ! は…んぅッ。な…なに…っ!?」
明らかにスポンジではない何か固く骨張ったものが、ほとんど抵抗なく自分の中に埋まっていく感触に、カイは身を震わせて息を吐いた。その何かが、滑りの良くなった内側をいたずらに引っ掻いて中を押し広げる感触に、それがソルの指だという信じ難い事実にやっと気が付く。
「や、ぁ…うっ! 嫌だッ、ソルやめろ…!」
卑猥な音を立てて内を探ってくる指に容赦なく弄りまわされ、カイは不快感と微妙な快感を味わいながら、拒絶の言葉を吐いた。しかしカイの中で何かが疼き始めていることを、ソルはとっくに見抜いていたようだった。
「本当にやめてもいいのか? ん?」
ソルに耳元でそう囁かれたかと思うと、いきなり硬くなりかけていた前をぎゅっと掴まれる。
「や、ぁあっ! うぅ…くッ。やめ、ろ…っ」
カイは涙目になりながら、背後から抱き着くように抑え込んでくるソルを睨付けた。腕は解かれていて自由になっていたのだが、後ろからソルが全身で壁に押さえ付けてくるので身動きが取れず、熱くなっているそこを揉みしだき始めたソルの大きな手を外せなかった。ゆるゆると上下して巧みにこちらを追いあげてくるその手の動きに抗おうとしながらも、カイは耐えきれずに熱い息を吐いく。後ろからは指で内を弄られ、前からは執拗に愛撫を加えられて、あまりの快楽に目眩を覚えた。背筋を這い上がってくるその甘い痺れに芯を犯されながら、カイはこの抗い難い誘惑に身を任せてしまいたいと本気で思い始める。
「ぁ、は…っ。ソ…ル…ッ」
「坊や…」
ソルが低くかすれた声で呼んだ。気のせいか、いつもより熱っぽく聞こえる。
不意に耳元で息を吐くソルが更に近付き、舌を差し入れてきてたので、カイは思わず首を竦めた。だがその厚みのある舌は全くお構いなしに、たっぷりと唾液を載せて触れてくる。わざと淫靡な音を立てられ、カイは頬を染めたまま泣きそうに顔を歪めた。
しかしそれ以上に下肢へ与えられる愛撫は苛烈化し、後ろの蕾にはいつの間にか二本目の指がくわえ込まされていた。恥ずかしく吃立した前のものも、先走りの雫で濡れそぼってしまっている。
自分の恥ずかしすぎる反応に顔から火が出そうだったが、後ろの弄られている箇所より少し上の辺りに熱く硬いものが当たっていることに気付き、ソルも同じ反応を示しているのだと分かった。
「坊や、挿れるぞ」
ソルが耳元で呟いたか思うと、埋め込まれていた指を引き抜かれる。その動きに伴って内側が擦れ、快楽に支配されたカイは名残惜しげにソルの指を締め付けた。
完全に指が抜けたのを見計らったように、ソルは腰に巻いていたタオルを無造作に落とす。そして剥き出しになった大きく太いものを、カイの秘部に押し当てた。
しかし、散々弄りまわされて淫らに疼くそこを貫こうと、火のように熱いものが押し入ってきた途端、カイの中で最後の理性が舞い戻ってきた。
「やめろっ、放せ! この変態!!」
カイは振り向き様、怒りまかせにソルの大きなものに思い切り爪を立てた。
「…ッ!」
渾身の力で爪を食い込まされたソルが、強烈な痛みに身を退いた瞬間、カイはソルを押し退けてシャワー室から飛び出した。手近にあったバスタオルを火照った体に巻いて、カイは更なる逃げ場を求めて走り出す。しかし、後ろからソルに腕を強く掴まれて引き止められた。
「おいっ。待て、坊や…!」
痛みに顔をしかめながらも、ソルはこちらをまっすぐ見つめてくる。その瞳が何よりも雄弁にソルの真剣さを物語っていたが、カイは知らぬふりをしてソルの手を邪険に振り払い、鋭く睨付けた。
「うるさい黙れッ! お前はそこで反省していろ! こんな…こんなことをいい加減な気持ちでやるなんて……最低だ!!」
「……!」
知らずカイの目に涙が滲んだ。急速に歪む視界の中で、驚いたように顔を強張らせているソルを残して、カイはその場から逃げ出した。
濡れた体にバスタオルを巻いただけの姿で廊下を走りながら、カイは冷静さを取り戻した頭で、これでよかったのだと必死で自分に言い聞かせた。ソルに触れられただけで喜びを示すこの体が、あの行為を最後まで望んでいたことは自分が一番よく分かっていたが、それを許すわけにはいかなかった。これ以上決定的なことをされたら歯止めが効かなくなってしまう。
曖昧な距離を保てば、きっと曖昧な別れがやってくる。いつの間にか姿を消したあいつを、そういえば最近見てないな…と思うだけで、きっと明確な痛みを伴わずに済むだろう。どうせいつかは別れがやってくるのだ。それなら痛みを感じない方がいいに決まっている。後戻りできない関係になって、いつか来るソルとの別れに恐怖する日々など送りたくない。でも……。
「きっと逃げてばかりじゃダメなんだろうな…」
カイは自嘲の笑みを漏らして独りごちた。
そう、いつまでも逃げられるはずがない……。痛いほどよく分かっていたが、今はもう少し冷静に物事を考えたかった。
いつの間にか素足で廊下を渡りきったカイは、寝室に足を向けた。そして明かりも点けずにベッドに潜り込む。
「ソルの馬鹿…」
バスタオルを体に巻いたままシーツの中に埋もれて、カイはぽつりと言葉を零した。
ソルが一体どういうつもりであんなことをしたのか分からないが、カイには迷惑でしかなかった。そこにソルの気持ちがなくとも、求められれば自分は必ず答えてしまう。そうなっては、お前なんて大嫌いだと嘘を吐くことさえできなくなってしまうだろう。
最後の砦である拒絶の言葉も無視して容易く踏み込んでくる男を憎く思いながらも、やはり愛おしく想う自分に軽く溜め息を付いて、カイは静かに目を閉じた。
痛みですっかり萎えてしまったモノには、見事に爪の痕が残っていた。しかし幸か不幸か尋常でないギアの回復力によって、もうそれほど痛みは感じなくなっている。
痛いのはむしろ……胸の方だった。
手は出すまいと決めていたのにも関わらず、結局その誓いを破って手を出してしまった。その挙句にカイを傷つけてこんな結果を招いてしまったことに、思わず自己嫌悪に陥る。
こんなことなら初めから一緒にシャワーなんぞ浴びなければ良かったと、バスタブに腰を下ろしたままソルは心底後悔した。最初はカイの存在を意識しないように努力していたのだが、カイに指先で触れられた途端に我慢ができなくなり、後はひたすらなし崩しにカイの体を求めてしまっていた。カイの意志など御構いなしに繋がろうとしたのはあまりに無神経だったかもしれない。幾ら煽られて反応を示していたといっても、カイは拒絶の言葉を吐き続けていたというのに……。
「……」
ソルは何をする気にもなれず、シャワー室からのそりと出た。体と髪が濡れたままで下着を着けてズボンだけを履いたソルは、そのままバスルームを出て自分の荷物を探す。このまま出ていくのが一番いいだろうと思いながら部屋を見回していると、ふとカイに投げ付けられた言葉を思い出した。
「いい加減な気持ち、か……」
あの罵倒は的を射ているようで、実は違うことをソルは知っている。確かにカイはソルの言動をあやふやに感じているのだろうが、それはわざとそうせざるをえなかっただけに過ぎない。はっきり気持ちを告げることは必ずしもカイを幸せにするとは限らないのだ。それどころか余計に苦しめることになるだろう。
結果が目に見えているだけに、ソルはカイに対して不誠実な態度で臨むしかなかった。
だが、今回ばかりは亀裂が大きい。このまま会わなくなれば……一層ひどい状況になるかもしれない。
「……やっぱ謝るか」
ソルは荷物を探すのをやめて、一言謝罪するためにカイを探し始めた。しかし見つけても、果たしてまともに聞いてくれるかどうか分からないというのが正直なところだが、一応謝っておくにこしたことはない。
泣き寝入り……というと少し間違っている気がするが、ともかく気持ちを落ち着けようとするなら、おそらく寝室だろうと目星をつけてソルが中に入ると、予想通りにカイがシーツに埋もれて眠っていた。自らの体を抱くように眠るカイは、金髪の頭を半分出して、顔までシーツを被っている。
「坊や……」
ソルは空いているスペースに腰を下ろして、カイにやわらかく声を掛けた。しかし完全に眠っているのか、反応はない。
困ったように口を真一文字に引き結んだソルは、そっとカイの頭に触れた。心地好く指の間を流れる金糸の髪を弄んでみるが、カイは身じろぎ一つしない。余程深い眠りなのだろうかと訝しみながら、いたずらに髪を掻き揚げると、滑らかな額が露になった。
しばらくその透けるような白い肌に見惚れていたソルは、何気なくカイの額に唇を寄せる。
「お前には反省という言葉がないのか」
怒ったようなカイの声が聞こえて、ソルは思わず動きを止めた。いつの間にかシーツから目だけを覗かせたカイが、こちらを睨んでいる。
余計にややこしい事態を招いてしまった自分の行動に内心舌打ちしながら、ソルは顔を逸らせた。
「……さっきは悪かったな。まさか坊やが本気にするとは思わなかったが、確かにあれは笑えねぇ冗談だったよ」
あらかじめ用意していた言葉を、ソルは澱みなく口にする。まるで勘違いしたカイが悪いのだと言わんばかりの内容には正直心苦しかったが、この際仕方がない。
しかしそんなソルの心中を察することができるはずもないカイは、困惑に彩られた顔をシーツから出した。
「……冗、談?」
「当たり前だ。男なんて初めから相手にするわけねぇだろ。……お前がぎゃーぎゃー騒いで面白かったから、からかっただけだ」
「……」
ソルが追い打ちの言葉を並べると、カイは怒るよりも先に傷ついた顔をした。その表情が内心こたえたが、ソルはあくまでも平静を装って立ち上がる。あまり長居してはカイの気持ちをますます暗くしかねないので、いますぐこの場を去ることにする。
「……ま、流石に俺も冗談が過ぎたと思ってる。今回は俺が全面的に悪かったよ。……じゃあな」
平坦な調子で重ねて謝りながら、ソルはカイの顔を見ずにひらりと手を振って、ドアに向かおうとした。
だが、カイに腕を強く引っ張られて止められた。
「じゃあなって……一体どこへ行く気だ、お前は」
呆れたような顔で言いながら、カイは上体を起こして真っ直ぐにこちらを見上げてきた。まるで何事もなかったように強い調子で話すカイに、ソルは腕を取られたまま戸惑った。
「別に……どこへ行こうと俺の勝手だろ。手ェ、放せ」
「悪いが放せないな。こんな時間にお前を放り出したら、絶対野宿で済ますに決まってる。お前は風邪なんてひかないだろうが、今日は私が客人として招いているんだ。泊まっていけ」
凛とした口調で言うカイは、まさにいつも通りのカイだった。ついさっきまでどこか弱々しさを抱えていたカイはどこにもない。
当たり前のように説教モードに突入したカイの様子に腑に落ちないものを感じながらも、ソルはカイを突き放そうと言葉を選ぶ。
「俺は客なんかじゃねぇよ。勝手に上がり込んできただけだぜ」
「それでもお前が居ることを認めたのは、他でもない私だ。だからつべこべ言わずに泊まっていけ」
「……おい、坊や……?」
「大体そんな格好で外に出ようなんて非常識だ。髪だってちゃんと乾かさないとダメだろう」
母親のように厳しく嗜めるカイは、徐に羽織っていたバスタオルを取り去り、ソルの体と髪をそれで拭き始める。カイは飛び出して行ったときと同様にバスタオルの下には何も身に付けておらず、心の準備もなしに至近距離で艶かしい裸体を見せ付けられたソルは、狼狽えた。
「……お前、その格好なんとかしろ。襲われてぇのか?」
理性がぐらつきそうになるのを抑えながらソルが言うと、カイは怪訝な顔をする。
「別に男同士なんだから関係ないだろ。……大体、男に興味なんてないと言ったのはお前の方だ」
「……」
カイに鋭く指摘されて、ソルは黙り込んだ。何かこれ以上言うと墓穴を掘りそうなので、黙秘権を行使する。
しかしそれが更に泥沼へ嵌まる原因となった。
「ともかく、だ。もう夜も遅いし、泊まっていけ。幸いあと一人くらいは寝られるスペースがあるんだから」
強情なカイはソルが黙っているのをいいことに、勝手に一人で決め込んでソルの腕を引っ張った。
油断していたソルはカイの方に倒れ込みそうになって、危ういところで回避する。
「…っぶねェだろっ。いきなり引っ張んじゃねぇ!」
「なにを怒ってるんだ、お前は」
思わず罵倒してしまったソルは、不審げな目差しを向けられて言葉を詰まらせた。着実に墓穴を掘りつつある自分を自覚する。
調子が狂うのは柄にもなく動揺しているせいなのだろうだと思い、ソルは体に掛けられたバスタオルを取って、カイの頭に被せた。
「わっ!?」
「んじゃ、遠慮なく泊まらせてもらうぜ」
いつも通りの自分本位な行動を取ることに決めたソルは、カイの横に体を滑り込ませる。一人用のベッドで二人並ぶと流石に狭いが、構わず寝転んだ。
タオルを剥ぎ取って顔を覗かせたカイは、ソルが泊まっていく気だと分かって安心したのか、穏やかに微笑んでそのまま体を横たえる。
「坊や……服着ろ」
「え?」
白く滑らかな肩をシーツから剥き出しにしたままのカイを横目で見ながら、ソルは呆れたように言った。
だが、カイは無言のままごろりと向きを変えて、こちらに背を向ける。
「嫌だ。面倒臭い」
「……あ?」
几帳面なカイにしては珍しい発言に、ソルは眉根を寄せた。しかしそれに気付いた様子もなく、カイは背を向けたまま不機嫌な声を出す。
「誰かさんが余計な騒ぎを起こしてくれたおかげで、疲れた。だからもう寝る。おやすみ」
「お、おい……?」
まさか本気でそのまま寝る気かと慌てたソルが声を掛けたが、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきたので、思わず額を押さえて溜め息をつく。
「ヘヴィだぜ……」
どう考えても今夜は熟睡なんてできないなと思いながら、ソルはとりあえず目を閉じた。
ちなみに数時間後――。
無邪気な寝顔を晒したまますっかり熟睡してしまったカイによって、ソルは抱き枕にされていた。
裸の胸に柔らかく当たるさらさらの金髪と、腰の辺りにまとわりついてくる滑らかな肌に喉を鳴らして欲情しながらも、ソルは柔らかな肌に食らいつきたい衝動を必死で抑え込んでいた。
(……くそっ、拷問だ……)
そうしてぶつぶつと悪態をつきながらも、朝までカイに手を出さずに耐え忍びきったことは、この男にとってまさに快挙と言えることだったかもしれない……。
END
え〜と……御覧の通り、未遂事件でした(笑)。つーかあそこまでいっちゃったら果たして未遂と言うのかどうか……(汗)。しかもカイ視点ならともかく、ソル視点で書くと旦那の間抜けさが炸裂してしまってて困りものです…とほほ。
本当は短髪より長髪のソルが好きな私が、(オフィシャルでどうかはともかく)自分の書く小説の中では地毛なんだと確定したいがために書いた話だったんですが……とんでもない展開になってしまいました☆ 書いた本人が一番驚いてます(爆)。