暗闇の中に沈む古びた壁。淫らな吐息で熱を帯びた空気。激しく軋む安物のベッド。
それらすべてが、そこにいる男と女の行動を如実に物語っていた。
「ああ…っ…すごくイイ……ッ!」
赤い紅を引いた唇から、快楽に濡れた言葉がしきりに漏れる。組み敷かれ、何度も中を穿たれる感触に恍惚とした表情を作りながら、女は伸し掛かっている男を妖艶な目差しで見つめていた。
「あなたの、すごく大きい…っ。溶けちゃいそうッ!」
至福の喜びに、女は体をくねらせて称賛の言葉を吐く。そうしてもっと男のモノを貪ろうと、自ら足を絡ませて腰を振った。貪欲に奥を目指して打ち付けてくる男の動きに合わせて、女はリズムを取る。ベッドの上に広がった長い金髪が、全身の揺れに合わせて蠢いた。
その女の造作は申し分なく美しく、スタイルも並み以上に凹凸のはっきりしたものだったので、乱れれば乱れるほど美しさに凄みが増した。おそらくは娼婦の中でもっとも上等な分類の女だろう。しかし、その女の足を抱え上げて何度も突き上げていた男は、女を特に愛おしむでもなく、ただ技巧に頼った性交を行うだけだった。
痙攣にも似た快感で体の芯を震わせて歓喜にのたうつ女が、型崩れとは縁遠い張りのある大きな乳房を激しく揺れ動かしながら、絶えることなく媚びたような甘ったるい声を上げ続けるのを、男はさもうるさそうに眉根を寄せて見つめていた。
ひどく冷めた目で女を見下ろしていた男は、不意に今まで以上に女の感じるところを執拗に攻め立て始める。
「あ、ああーッ!」
あまりに圧倒的な快感に、女は甲高い声を上げて体をのけ反らせた。角度やリズムに微妙な変化を加えられて幾度も奥を穿たれる感触に、女は内股をぐしょぐしょに濡らしてしまう。いつの間にか女は余計な言葉など吐くことさえできなくなっていて、ひたすらによがり声をあげ続けた。
男の猛々しいものがズプズプと卑猥な音を立てて秘処を忙しなく出入りするたびに、溢れた出た透明な蜜がシーツに飛び散り、女を快楽の淵へと落としていく。
その意識の中で、女は絶頂へと追いやられるのを自覚した。
それに追い打ちをかけるように、男は一際激しく腰を使って、柔らかい最奥を肉棒で一気に抉る。
「ああぁぁーッッ!!」
女はとうとう嬌声をあげて、喜びに浸った意識を手放した。男根をくわえ込んだその部分が急速に収縮していくのに伴って、男は遠慮もなくその中に生暖かい精液をぶちまける。
女がぐったりとベッドに沈んだを冷めた目で確認した男は、余韻もなにもなく男根を女の中から引きずり出した。そしてそのまますぐにバスルームへと足を向ける。
見事な体躯のその男は、なぜか性交のあとにも関わらず、どこか不機嫌な表情をしていた。





月だけが空に浮かぶ闇夜の中で、ソルは何の妨げもなく移動していた。夜目の利くギアの瞳で一つの部屋を見定めると、人間にはない跳躍力でそこまで跳び上がる。誰もいないと分かっているからできることだが、もしも他の団員に見られでもしたら大変なことになっていただろう。
ベランダに降り立ったソルは、窓ガラスに手を掛けて横にスライドさせた。抵抗もなく開いた窓を疑うべくもなく、ソルは空いた隙間に体を滑り込ませる。初めからベランダの窓が開いていることは分かっていたので、一連の動作によどみはなかった。
いつの間にか明かりの消えた部屋は、ベランダから差し込んでくる月明かりだけを光源に、ひっそりと闇の中に沈んでいた。部屋の様子は数時間前と何等変わっていない。サイドテーブルを挟んで並ぶ二つのベッドは多少乱れていたが、それもソルが部屋を出る前と変わっていなかった。
「……」
てっきりカイはベッドで寝ているものだと思っていたソルは、無言のまま主人のいない空のベッドから視線を外した。あの薬を飲んだカイが部屋から出ていくとは考えにくいので、もしかするとバスルームの方へ行ったのかもしれないと思ったソルは、何気なくそちらの方へ足を向ける。
しかしソルがドアに手を掛けようと踏み出した瞬間、爪先にこつんと何かが当たった。
「……!」
ソルがはっと視線を足元に落とすと、そこには探し求めていたカイの姿があった。闇の中でも映える白い肌を桜色に染めて固く目を閉じたまま、そこに横たわっている。ベッドとバスルームの狭間にカイはいたので、ベランダから入ったときにソルから死角になっていて見えなかったのだ。
ソルはその場で膝を折って、死んだように横たわっているカイを観察した。
自分の両腕を抱くように胸元に引き寄せて床に顔を半分押し付けているカイは、体を支配する熱に今も侵され続けているのか、端正で美しい顔を赤く染めていた。ほんのりと色付いたその表情は、目を閉じて宝石のような青い瞳を奥に隠していても、ひどく艶がある。薄く開いた形の良い唇からは乱れた熱い吐息が漏れていて、息を飲むほどに美しかった。
確か16かそこらの子供だったはずだがと多少首を傾げながらも、やけに色気のある線の細いカイの体を、ソルは眺めた。しかし、薄着に包まれたカイの下半身をちらっと覗き込んだとき、ソルは怪訝に思って眉根を寄せる。
「まさか、こいつ……ヌイてねぇのか?」
濡れた跡も見受けられない小綺麗なズボンを見つめて、ソルは呆れたように呟いた。それなりに強い催淫剤だったはずだが、カイはどうやら意地だけで耐え抜いたらしい。射精のあとの独特な匂いもしないので、まず間違いないだろう。
つくづく強情な坊やだなと呆れながらも、ソルは少し安堵した。やってしまったあとで流石に悪戯が過ぎたのではないかと懸念していたが、カイはそれに負けじと逆らっていたのだと分かると、なぜだか苦笑が漏れる。欲望のままに己を慰める姿よりは、こうして抗い続けている姿の方がカイにはよほど似合っている。
あくまで気高くあり続けるその青年を、ソルは抱え上げた。このまま床に放っておくには忍びない。
しかしベッドに下ろそうとしたところで、ソルは一瞬動きを止めた。カイが抱くように引き寄せていた手の中に何か握っていたことに今更ながら気付いたのだ。
とりあえず軽い体をベッドに横たえてから、ソルはカイの手元を覗き込む。闇の中で時折鈍く光るそれは――ロザリオだった。
「……」
それを見てすべてを理解したソルは、痛ましげにカイの顔を見た。カイは未だに不規則な呼吸をし続けている。それを労るように、ソルは手を伸ばして金色の髪を撫でた。
そう……少し考えれば分かることだった。カイは神を信じて朝の礼拝を怠らない、従順な教徒だ。欲望に駆られて自慰などできるわけがない。
ひどく酷なことを強いらせてしまったのだという事実に改めて気付き、ソルはカイの頭を撫でていた手を赤く染まった頬に滑らせて、柔らかく口付けた。カイはその刺激を受けて小さく呻くと、薄く目を開く。
カイは眠っていたわけではない。薬の効力に逆らうために眠ろうとしただけで、むしろ火照った体は冴えているはずだ。
焦点の定まらない目でこちらを見つめるカイに、ソルは囁きかける。
「よく我慢したな、坊や。楽にしてやるよ」
意識が朦朧としているらしいカイは、首を傾げる代わりにゆっくりと瞬きした。
穏やかな笑みを浮かべて言ったソルの言葉を上手く理解できなかったらしい。
だが、ソルはそれに構わず、カイの下肢を布越しに擦り上げて解放を促しにかかる。
「や……っ、はぁッ」
敏感な箇所を触れられ、カイは目を見開いて体をのけ反らせた。快楽に酔い痴れるかと思われた反応だったが、カイは咄嗟に身を退いて避けるような仕種をする。
その様子に軽く舌打ちしたソルは、全身でカイの体を押さえにかかった。細い体に力を入れすぎないように注意を払いながら、もともと薬のせいで熱を持っていたその幼いところを何度かさすってやると徐々に体から力が抜け始めた。
「ん……ぁっ」
まだどこか抵抗を見せる青い瞳が、戸惑ったように視線をさ迷わせる。
しかし体を支配し始めた快楽には抗い難かったのか、噛み締めた唇の間から時折甘い声が漏れた。それでも、白い喉を見せながらベッドに深く沈み込んだカイは、ソルの愛撫に泣きそうな顔で耐えようとする。
ソルはカイの虚ろな瞳を覗き込んでから、噛み締めすぎて血の気の失せた唇に口付けて、舌を割り込ませた。
「っふ……ん」
湿った舌の感触に驚いたのか、引き結んでいたカイの唇が緩む。そこへソルが躊躇なく舌を差し込んで深く貪ると、カイは一瞬眉根を寄せて嫌がったが、舌を絡めて吸い上げると、シーツに皺を寄せて緊張していた白い指先から力が抜けていった。
ひどく素直な反応を返すカイに我知らず笑みを零したソルは、 角度を変えて何度も口付けながら、手早くカイのズボンを下着ごと脱がした。そして剥き出しになったそこを、強く扱き上げる。
「ん、んんーッ!」
その直接的な刺激にカイはビクンッと体を跳ねさせた。反射的にこちらの手の動きを阻もうと足を閉じたが、ソルは構わず柔らかな裏筋を指でなぞる。
「ん、ふっ…ぅう!」
足閉じたくらいではこちらの動きを妨害することなどできるはずもなく、カイはなすすべもないまま膝を小刻みに震わせた。ソルがただ指を絡ませるだけでも感じるのか、しばらく弄っているとすぐにそこは固くなり始める。
しかし、完全に快感に身を任せてしまえば良いものを、カイはソルに組み敷かれたままいたずらな手から逃れようと腰を捩った。ほとんどまともな意識はないはずだが、こんな状態になってもなお頑なに禁欲を守ろうとする意志が残っているらしい。
カイの欲望を抑え付ける戒めを解こうと、ソルはカイの耳元へ唇を押し当てた。
「もう我慢する必要なんてねぇだろ。全部吐き出しちまいな」
わざと鼓膜を打つようにかすれた声でソルが囁くと、カイは潤んだ目で天井を仰ぎ見ながら熱い溜め息をついた。
こちらの言葉が理解できたのかどうか定かではなかったが、ソルが先程よりも早いリズムで手の中にあるものを扱きあげても、カイは濡れた声を漏らすだけで抵抗らしい抵抗をしなくなった。なすがままになったカイの手から、握りしめていたロザリオが滑り落ちる。湿った空気の中で、それは床に当たって乾いた音を立てた。
「あっ…んふ…ぁ」
カイはいつの間にかしがみつくようにソルの首に腕をまわして喘ぎ声を漏らすようになり、熱く潤んだところを押し付けるように腰を揺らし始めた。先走りの雫を携えたそれが限界に近付いていることに気付いたソルは、はだけさせたカイの胸元にキスを降らせながら、追い上げるように一際強くそれを上下に扱いた。
「んぅっ、あふぁっ……あ、ああーッ!」
甘い悲鳴をあげて背をくっと弓なりに反らせながら、カイは呆気なく達した。白濁の液がソルの手の中で飛び散り、零れた滴がカイの内股を濡らしていく。
ソルは汚れた自分の手をちらっと見てから、カイの方に視線を移した。カイはうっすらとこめかみに汗をかいた状態でぐったりと半分瞼を閉じているが、顔はさっきよりもますます色付いて艶かしい表情をしている。
一度達したくらいではもちろん薬の効果は切れない。むしろ刺激を受けたことにより、体は前よりも貪欲になっているはずだ。
「……はっ…ぁ」
案の定、カイはもっと快感を得ようと縋り付いてきた。ねだるように濡れた瞳に見つめられ、ソルは微かに苦笑を漏らす。
「んな目で見なくても、朝まで付き合ってやるさ。もとはと言えば俺がやったことが原因なんだからな」
ソルはそう言うと、解放の後で萎えてしまったカイのものに再び指を這わせた。
粘り気のある液体を絡ませたまま擦り上げると、カイは恍惚とした表情を作って体を寄せてくる。
その様子を見て、ソルは素直に可愛いと思った。普段がクソ真面目でうるさいだけに、これだけ素直で従順だと可愛げがある。
だが、それらはすべて薬のせいだ。別に相手が誰であろうと、こうして性器を弄られればカイは濡れた声をあげただろうし、喜んで腰を振ったことだろう。快感を与えてくれるならば、本当に誰でも良いのだ。
そう思うと、ソルの心はざわついた。
これから先、カイは誰かにこの無防備な表情を見せるのだろうか。薬の助けなどなしに、艶かしい表情を見せるのだろうか。そして何をされても構わないと思うのだろうか……。
「……」
ソルは唐突に、愛撫を施していた手を止めた。与えられる快感が途切れたことに気付き、カイは泣きそうに顔を歪ませる。
だが、ソルはそこに触れようとはせず、それよりも下に手を這わせた。
「! あっ、やぁ…ッ…!」
後ろを弄られる感触に、カイは驚いたように体を跳ね上げる。今までとは違う刺激を受けて、咄嗟に腕を突っ張って嫌がった。
しかしソルは圧倒的な力でもってカイを捩伏せ、よくほぐれてもいない小さな穴に中指を突っ込んで、中を引っ掻き回した。
「んあっ…ぃ、ああぁ!」
カイはさらさらの金髪を振り乱して、異物の侵入を拒否するように悲鳴をあげる。第二関節まで埋まったソルの指を外に押し出そうと、そこはぐいぐい締め付けてきたが、もとさらやめる気などないソルは、白濁の液を絡ませたまま指の腹で内を押し広げた。ソルが中の柔らかな感触を楽しむように指を鍵形に曲げて掻き混ぜると、カイは体を小刻みに震わせて泣いているとも喜んでいるともつかない声を漏らし始めた。
「んぅぅ…ああぁ…ふ、ぅあ…っ」
長い睫を震わせて目尻に涙を溜めながら、カイは僅かに自ら足を開くような仕種をした。中の具合が随分良くなったのか、二本目の指もそこは容易く飲み込んでいく。
ソルは自分の下半身も反応を示し始めているのを自覚しながら、カイの薄い胸に舌を這わせて、紅い小さな膨らみに歯を立てた。敏感なカイはそんな刺激にも面白い程に反応して、細い体を震わせながら熱い息を吐く。
まるで女のような感度の良さだが、カイは男であることに変わりはない。手で鷲掴むこともできない薄い胸や、筋肉だけが薄く張る脂肪のない骨張った体も明らかに女でないことを示しており、快感に煽られてそそり立つものは完全に男を主張している。なのに、ソルはそんなカイに欲情せずにはいられなかった。先程抱いた娼婦には突っ込むまでろくに感じなかったというのに、今組み敷いている青年にはしがみつかれるだけで気分がいい。この明確なまでの差がどこから来るのかソルにはよく分からなかったが、長年乾いていた心の一部が満たされるような感覚に、ソルは薄く笑みを浮かべた。
「足、もうちょっと開きな」
ソルはそう言いながら、なすがままになったカイの足首を片方掴み上げて、腰を浮かさせる。そして秘部に埋めていた指を引き抜き、取り出した己のものをそこへ押し当てた。
「いくぜ? 坊や」
「っは、ぁああーッ!」
言葉とともにソルが強引に腰を押し進めると、カイは目を見開いて汗を散らしながら、絶叫に近い声を出して体を強張らせた。ソルのものがグプッと音をたてて充分に濡れた秘部に完全に埋まるのを確認すると、ソルは柔らかなカイの中を自分勝手なリズムで突き始める。カイはその反動に体を波打たせながら、涙を流した。
「は、ぅあ…ぅん…っ」
美しい眉を寄せて真珠のような涙を零しながら声を漏らすカイを見て、ソルはカイの前にも手を添えた。自分と同じように昂らせようと、ソルはその一回り小振りなものにゆるゆると愛撫を加える。カイはそれに一瞬息を飲んだように喉をひくっとさせたが、ソルが断続的に奥を突きながらも丁寧にカイのものをなぞってやると、ただでさえ艶かしいカイの表情は快楽に蕩けてより一層美しくなった。
食い千切らんばかりに締め付けていた蕾も随分柔らかくなって、程良いくらいになる。しかし快感に満たされ始めたはずの細い体とは裏腹に、カイはなぜか不安げに瞳を揺らめかせていた。
「ぁ、は…あぁ…んっ」
閉じることを忘れた艶やかな唇から絶え間なく喘ぎを漏らしながら、カイは恐る恐るこちらに手を伸ばしてくる。まるで、何かに縋りたいと感じながらも拒絶されやしないかと不安がる孤独な子供のようなカイを見て、ソルは苦笑しながらその白い手を取った。
指先を飾る、桜貝のような爪に軽く口付けてから、ソルがその腕を引き寄せながら自らもカイの上に覆い被さると、カイはやっと安心したように微笑む。
そんなカイにソルは柔らかく口付けた。戯れるように隙間から舌を差し込で歯列をなぞると、カイは雛鳥が親にねだるように口を開いてくる。熱く柔らかい舌に自分の舌を絡めて吸い上げながら、ソルはカイに惹かれる理由がなんとなく分かった気がした。
カイは見ていると、どこか危なっかしいのだ。確かにやること為すことすべてが正しくてこの上なく手際が良いが、それはカイの能力であって内面を表すものではない。カイの本質はその奥に隠れている。皮肉にも、際立って美しい外見や人よりも勝った能力が、カイの脆さを覆い隠してしまうに余りあったのだ。だからカイの周りを取り囲む人々は、本当のカイを知らず、この危なっかしくて傷つきやすい子供を、まるで神の遣いか何かのように尊敬の目差しで見るのだ。
だが、ソルは違う。長い年月を生きたせいで、人の外見や能力に惑わされなくなっていたので、カイがただの強がっている子供にすぎないことをすぐに見抜いてしまっていた。そしておそらくカイも同様に、ソルが人の本質を見抜く目を持っていることに気付いたのだろう。だからソルの前でだけ、カイは年相応な姿を晒した。
「…ったく、難儀な坊やだぜ」
ソルは文句を言いながらも、楽しそうに笑った。そして、しなやかなカイの体に腰を打ち付け、探り当てた弱いところを執拗に攻め立て始める。泣き濡れた顔を悦びに蕩けさせたカイは、ソルにきつくしがみつきながらも、その律動に合わせて自ら腰を揺らした。
ソルが中に突き入れたときは蕾を緩めて誘い込み、引き抜こうとするときは名残惜しげに引き絞るという高等テクニックを無意識に使いながら、カイは圧倒的な快楽に呑まれて、とうとう嬌声をあげた。
「あ…っ…ぁはあぁんッ!」
「……ッ」
一際高く鳴いてカイが達すると同時に、ソルもカイの中に白濁の液を注ぎ込んだ。カイの放ったものが腹を生暖かく濡らしていったが、ソルはそれをさして気に止めず、まだ埋め込んだままの状態で再び腰を動かす。一旦萎えた己のもので間も置かずにカイの中を何度か擦り上げると、カイのものはすぐに反応して上を向き始めた。
「あぅ…ふっ、ん」
カイは嫌がるそぶりもなく、素直に喘ぎを漏らす。僅かながらコツを掴んだのか、カイは余計な力を抜いてこちらの動きに合わせるように腰を揺らした。
「案外、淫乱だな。坊や」
苦笑しつつソルはそう呟いたが、再び熱を持ち始めた自身に気付き、人のことは言えないかと思い直す。
「……いいぜ。気が済むまで付き合ってやる」
口端を上げて、ソルは楽しそうに笑った。それを見たカイも、恍惚とした表情の中で微かに笑ってみせたようだった。
そうして薬の効果が切れてカイの意識が飛ぶまで繰り返し行ったその行為の中で、もしかすると自分は案外カイを気に入っているのかもしれないな…とソルは思った。





ソルの朝は遅い。
そのあまりに有名すぎることを知らない団員はおそらくいないだろうし、それを敢えて言及するような無謀な人間ももちろんいなかった。
約一名を除いては。
「ソル! 早く起きろっ。朝礼に遅れるぞ!」
突然耳元で怒鳴られたかと思うと、ソルは被っていたシーツを奪い取られた。半ば睡魔にやられたままの頭で、ソルは自分の眠りを妨げた人物を睨み上げる。
そこにはいつもの如く、説教ばかりする金髪の青年が腰に手を当てて怒ったような表情で仁王立ちしていた。
そう、それはいつもの如く……。
「……!?」
ソルは唐突にその異常に気付いて跳ね起きた。上半身を起こしたまま、隣の青年をまじまじと見つめる。
それはあまりにもいつも通りすぎる朝だったのだ。昨夜あんなことがあったというのに、カイは当たり前のようにソルを起こしに来て、遅刻するだろと横でうるさくわめき立てている。
いつも通りであることが異常だった。
「おい、坊や」
違和感を抱えたままソルは口を開いた。が、すぐにどう言っていいのか分からなくなって、次の言葉が出てこなくなる。
聖騎士団の制服をきっちり着込んだカイは、珍しく言いよどむソルを見て、怪訝な顔をした。
「どうかしたか?」
「……お前、昨日のこと覚えてるか」
ソルは結局、率直に聞いた。それ以外に聞きようがなかったというのが本当のところだが。
しかしカイはソルの言葉を受けて、ますます不思議そうな顔をした。
「昨日? 未提出の報告書をお前に催促しに行ったことなら、はっきり覚えてるが」
「いや、そっちじゃねぇ。昨日の……晩だ」
「晩?」
カイはソルの言う意味が分からないというように首を傾げた。
「何かあったか?」
「……」
ソルは沈黙せざるをえなかった。信じられないことに、カイは平然とそう言ったのだ。
暗に、何もなかったと……そう言ったのだ。
ソルがなんとも言えない複雑な表情でその事実を受け止めていると、カイはさっさときびすを返してドアに足を向けた。
「くだらないこと言ってないで、早く支度しろ。みんな待ってるんだからな」
念を押すようにカイはそう言うと、そのまま部屋を出ていってしまった。取り残されたソルは、半ば呆然としながら金色の髪が見えなくなるのを眺めていた。
「……」
可能性がないとは、確かに否定できないことではあった。それなりに強い薬だったので、副作用として記憶が一部吹き飛んでもおかしくはないだろう。一緒に飲ませたウィスキーとの相乗効果でそうなったとも考えられる。だが、それはなんだか理不尽な気がした。
自分はカイを貫いたときの感覚を覚えており、抱き合いながら同時に絶頂を迎える悦びを覚えているのに、感覚を共有したはずの相手は何も覚えていない。
それはあまりに理不尽だった。
だが、ソルはカイにそれを思い出させることはできない。いや、してはならない。
抱いてから始めて自覚した自分の感情は、あまり性質の良いものではなかった。
少なくとも、ギアである自分が決して抱いてはならない感情だった。
昨日のことを無理にでも思い出させることは、いつかカイ自身を自分の事情に巻き込みかねないことを意味している。
「……」
ソルは不意に低く嘆息した。そして、まだどこかやりきれなさを抱えたまま、のろのろと着替え始める。
皮肉にも、カイに触れたことで気付かされたその感情のせいで、ソルはもう二度とカイに触れることができなくなってしまったのだった。


END



『実はカイちゃんのお初はすでに奪われていた』という話でした。いや〜だって、聖騎士団時代に何もなかったなんておかしいっしょ(笑)。結構前からこの話は考えてて、冒頭部分は書き始めていたくらいだったのですが、今までの話にはあえて伏線を引きませんでした。一話完結型にできるだけ近づけたったので…。