「――ソルっ!!」






強く揺さぶられ、俺は眼を見開いた。視界いっぱいに、金髪と蒼い瞳が映る。
唇が触れ合うほどの距離で、カイがこちらを覗き込んでいた。その向こうには、白い天井。自分の体は、背中の感触からしてソファに寝転んでいるようだった。
「……坊、や……?」
眉根を寄せてこちらを見るカイに、俺は訝しげな視線を送る。頭の奥がズキズキと痛むのに顔をしかめながら、俺が手を伸ばすと、カイの蜂蜜色の髪が指先に触れた。
本物の、感触だ。
「なんで――」
「大丈夫ですか!? うなされてましたよっ?」
「……」
カイの心配そうな表情を見つめてから、俺は周りの様子を見渡す。
今までと同じ、カイの自宅。だが空気が重いわけでもなく、窓の開け放たれた部屋は明るく、清々しい。吹き込む風が、いたずらにカーテンを揺らす、のどかな昼の光景だ。
窓際に飾られた花も、枯れる気配など微塵も見せず、綺麗に咲き誇っていた。
それはいつもの、当たり前の光景でありながら、ひどく懐かしいもののように俺の眼に映った。
「……ちと、夢見が悪かった」
「え……?」
「気にするな」
不思議そうにこちらを見るカイに、俺はそっけない言葉を返した。やっと意識の覚醒した俺は、気だるい体を起こす。
いつの間にか、ソファで眠ってしまっていたようだ。
今ままでの出来事が夢だと分かって、内心安堵した。だが、俺の重苦しい気分が晴れることはない。
あの夢の内容は、実に的を射ていたからだ。
煙草が云々というのは、一つの可能性に過ぎない。どんな形であろうと、ギアである俺が傍にいることで、カイを害する可能性は無数にある。
あまりに今までが穏やか過ぎて、心地良くなり過ぎて――それを忘れていた。
いつの間にか、カイがいるのが当り前のようになっていた。ここへ来るのが、普通になっていた。
――なんて、思い上がりだろうか。人間になったつもりでいやがる。
「ソル……? どうしたんです?」
虚空を見つめたまま止まる俺に、カイが首を傾げて訊ねてきた。髪を揺らしてこちらを見る、間近にある端正な顔に俺は視線を移す。
一瞬、カイが冷たくなって動かなくなる様を脳裏に描いて、背筋が震えた。
その自分の反応に、俺は自嘲の笑みを貼り付ける。
「坊や」
「なんです?」
「ヤらせろ」
「……は?」
唐突な俺の言葉に、カイは鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに、眼を瞠る。
だがそんなのはお構いなしで、俺はカイの腰を抱いて引き寄せた。不意だった為に、カイは抵抗する間もなく俺の方へと倒れ込む。
そのまま体の位置を入れ替えてソファに倒して圧し掛かると、驚いた表情だったカイが流石に我に返って、眉根をつり上げた。
「ちょっと……! なに考えてるんですか!」
「あ? 声に出して言って欲しいのかよ? お前の×××舐めまくってイかしてから、×××に指突っ込――」
「ちょ、なッ!? だ、黙れこの馬鹿ーっ!!」
卑猥な言葉を淡々と口にすると、カイは顔を真っ赤にして俺の体を押しやろうと腕を突っ張ってきた。それを容易くいなして、俺はうるさい口をキスで塞ぐ。
んー!と抗議の声を喉の奥で上げるが、無視して体をまさぐると、細い体はソファの上でびくりと震えて体温を上げた。
「なあ、大人しく喰われろよ」
「っぁ、こら! いきなりなにし……ッ、は…ぅ」
「今更出し惜しみすんなよ」
――最後くらい。
強張る体を撫で回しながら、俺は本音をキスでかき消した。今ぶちまければ、折角のお楽しみが半減になる。それは俺としても、あまり嬉しくなかった。
「ソ、ル……? ぁ、…っやぁ…!」
俺の表情に何かを見たのか、カイが一瞬怪訝な顔をするが、無遠慮に下着の中へ手を入れると艶のある顔で声を上げた。
感じやすい体を煽って誤魔化し、俺はカイを本格的に落としにかかる。
滑らかな肌に手を滑らせて、甘さが漂いそうな髪に鼻先を埋めると、予想に反して爽やかなシトラスの香りがした。
きっとこの香りを嗅げば、どこにいてもコイツのことを思い出してしまうのだろうなと思い、俺は苦笑を口端に貼り付けた。









END