その瞬間、

私は心臓が止まるかと思った。




第二次聖騎士団選抜大会に
「ソル=バッドガイ」の名があったことには
気付いていた。


しかし、
顔を合わせる気はなかった。


アイツは目標だ。
ライバルだ。


だが、同時に
アイツが私を相手にしていないことは
よくわかっていた。


追いすがったところで何になるだろう。
アイツは私など見ていないのに。




だから身体検査で医務室に向かったとき
偶然顔を合わせてしまって

私はその場でしばらく動けなくなった。



「……坊やか」



相変わらずの無表情で、アイツは呟いた。



どうでもよさそうに。






「……もう、坊やと呼ばれるような歳では、なくなった」


かろうじてそれだけ言った私は、


逃げるようにカーテンを潜って医務室の中へと滑り込んだ。




「……」


特に何も言わず、ソルは医務室を出て行った。








赤い背中が見えなくなっても

心臓は、うるさい音を奏でていた。