「坊や、こっちだ」
「え……?」
きょろきょろ周りを見回している坊やに、俺は声を掛けた。
翡翠の瞳がこちらを振り返る。
「あ、そこにいたんですか」
俺を視界に留めた途端、
繊細な顔のラインが柔和に綻ぶ。
その、変わらない態度に、僅かながら安堵した。
「気配くらい、読めるだろう」
「故意に消してるくせに……。嫌味か、それは」
「坊やがまだまだだってことだろ」
適当に軽口を叩きながら、俺は先を歩く。
「あ、ソル! その…待ち合わせまでして、一体今日は何を…?」
追いすがる坊やの気配を背後に感じ、
俺は躊躇いつつも口を開いた。
「……いや、別に。飯でもどうかと、思っただけだ。例の大会で怪我させた借りがあるしな」
「……」
俺の言葉に、坊やが沈黙する。
ギアとして暴走したときの恐怖を思い出したか?
それとも俺自身が恐ろしくなったか?
反応次第では今後の態度を変えるべきだと思っていた俺は、
坊やの方を振り返った。
坊やは、なぜか、微笑んでいた。
「もう、顔を合わす事もないか、それとも口止めに殺されるかと思ってたから
嬉しいよ。こうしてお前と会って話せるのは」
まるでこの瞬間が最高に幸せな時間だとでも言うように、
坊やは笑っていた。
俺はしばし混乱した頭で、やっとのことで言葉を紡いだ。
「物好きなガキだ……」