時々、時間を共にするようになってから

ソルは気まぐれに

私の仕事部屋に現れる様になった。






「はい、どうぞ」

「おう」


御座なりな返事をしながら、ソルがマグカップを受け取る。

窓の縁に腰掛けて寛ぐその姿に、一瞬私は文句を言いかけた。


だが、香ばしい珈琲のかおりに、口を噤んだ。



この穏やかなティータイムを説教で壊すのは勿体無い。




たまにはと、自分にも珈琲を淹れた私は

カップから漂う香りを楽しみながら、目を細めた。



「最近はどうなんです? 何か収穫はありましたか?」

「んなの、わざわざ聞くまでもないだろ」



ソルが、自嘲気味に軽く鼻を鳴らす。

暗に、事件などに関してはこちらの方が詳しいだろう、と言っている。


確かに、ここ最近は全体的に事件も少なく

ギアに関する騒動の報告もない。



「まあ、平和でいいじゃないですか」

「俺には迷惑だ。体がなまる」



不機嫌そうに珈琲を啜るソルに、私はくすくすと笑いを漏らした。


こうした、なんでもない会話をしている穏やかな時間が好きだ。

ソルが何者だとか、自分の肩書きが何だとか、

そういうくだらないことを気にしなくていいから

自分の感情が素直に表せる気がする。




機嫌よく私が珈琲を味わっていると、ふとソルがこちらをじっと見つめて言った。


「……坊や」

「? なんですか?」

「あんまそういう顔で笑うな。押し倒したくなる」

「……………は!?」


カップをソーサーに戻し、私は顔を上げた。

視界にはニヤリと嫌な感じの笑みを浮かべたソルがいる。


「ど、どういう意味ですかっ」

「そのまんまだ。無防備な坊やは、思わず襲いたくなる」


舌なめずりでもしそうな雰囲気のソルに、私は顔を引きつらせた。

ここが自宅ならこのまま流されても構わないかもしれない(いや本当はそれでも困る)が

今、私たちが寛いでいるのは仮にも警察機構の敷地内だ。

断じてそんな行為は許されない。



私は身の危険を感じて、カップをソーサーごと机に置き

いつでも逃げられる態勢に移った。


「なんだ、逃げんなよ。可愛がってやるぜ?」

「逃げるに決まってますっ!」


喚く私を笑って見つめ、ソルが室内に侵入しようとする。




が、その時……




「カイ様、例の書類をお持ちしました」


丁寧なノックと共に、補佐役のベルナルドの声がドア越しに響いた。



それを認識した瞬間、私は自分自身でも驚くほどの素早さで

窓を跨ごうとしていたソルに近付き、思い切り外へ突き飛ばした。


「どあッ!?」


悲鳴が聞こえたような気もしたが、私は一切を無視して

窓をきっちりと閉めてしまう。




「どうぞ」

私がにこやかに入室を促すと、ベルナルドが中へと入ってきた。


「あの……今、何か聞こえたような気がしたのですが」

「気のせいでしょう」


私は爽やかすぎる笑みを浮かべて、そう言い切った。