お綺麗な顔でお人形さんのように笑うそいつを見た瞬間、虫唾が走った。
しかも聞けば15才かそこらと聞いている。ただのガキに過ぎないひ弱な少年。
こんなのを後釜に据えるなど正気の沙汰ではない。きっとジジイはもうボケちまってるんだろう。
お上品な笑みを浮かべて握手を求めるそいつを、俺は無視した。
馬鹿馬鹿しい。馴れ合いなどごめんだ。しかも子守りだぁ? ざけんのも大概にしろ。
目的のものを手に入れたら、さっさととんずらしてやる。

でもまぁ……ここまで綺麗な顔の奴を無視するってのも些か勿体無い話だ。
とりあえず味見くらいはするか。


そんなことを考えながら、ソルは無視されて困惑する少年を見つめていた。


< 01:出会い >

「戦闘能力は飛び抜けて秀でているが、協調性は全くゼロの問題児か……」
カイはこれ見よがしにハァ…とため息をついた。次いで、やりきれない気持ちを表すようにトントンと万年筆で机の表面を叩く。
「確かに有能は人材が不足しているのは事実だ。だからお前にはいてもらわなければ困る。そのために多少のことには目を瞑ってきた」
弄んでいた万年筆を放り出し、カイは椅子の背もたれに体を預けた。そろそろ傾き始めた日の光が部屋の中を赤く染め上げ、金糸の髪に艶を帯びさせる。
一枚の絵のようにも見える完成された美を持つその少年を、ソルは向かいの椅子に横柄な態度で座りながら、面倒くさそうに見ていた。その反省の色が微塵も見られないソルの態度に、カイは堪りかねたように怒りを含んだ目で睨んでくる。
「かなり甘く対応しているんだが、お前はそれを上回る勢いで規則に反してばかりいる。しかもその始末書も書いた試しがない。多少なら私が代わりに書いていたが、最近ではあまりの量に対処しきれなくなってるんだ。いい加減にしてくれ」
「今まで書いてたんなら、坊やが代わりに書けばいいじゃねぇか」
「だから、あまりの量に対処しきれないと言っているだろ!」
ばんっと分厚い書類を机に叩き付け、カイは立ち上がる。柳眉をつり上げて怒る姿もそれなりに絵にはなるなと、ソルはぼんやり思いながらただ興味なさげに見つめていた。そこまでヒステリックになる理由がソルには全く分からない。
たかだか規則の違反くらい、大したことでもないだろうに。別に団員を殴りつけたわけでもないし、器物破損も(多少はやったが)大きな被害が出るようなことは一切していない。ただ好き勝手に行動していただけだ。それで死傷者が出るようなものでもないというのに、そこまで目くじら立てるものか。
ガキの考えることは分からない。どうせこのお綺麗な隊長様は純粋培養で規則正しく生活してきたのだろう。だから自分の観念から外れたものを執拗に攻撃するのだ。
了見も知識もろくにないこの子供に命令される謂れはない。
ソルはズボンからタバコの箱を取り出し、一本を口に咥えた。
「優等生の坊やにできないことが、俺にできるわけないだろ」
「元は全部お前が仕出かしたことだ。四の五の言わずにやれ。でなければ食事は取らせない」
強い口調でそう言い、カイはこちらに近付いてきてソルの口元からタバコを奪い取った。まだ火もつけていないのに口元が空になり、ソルは眉間に皺を寄せた。
世の中には色んな人間がいる。それこそ考え方も価値観も様々だ。なのに、この子供はそれを全く知らずに他人を自分のスタイルに当てはめようとしている。
……大した経験もないくせに生意気だ。
ソルは獰猛に口端を上げ、笑った。
「始末書なぁ……。まあ、書いてやってもいい」
嘲りを含んだような口調で、ソルは言った。突然意見を翻したことに、カイは喜ぶよりも何よりも訝しげな眼差しを送ってくる。何か引っ掛かりを感じたのだろう。
その勘は、ある意味当たっていた。
ソルは近くにあるその綺麗な顔に触れ、形の良い顎を乱暴に掴んで引き寄せた。
「ただし、俺のやる気が出るように坊やが頑張ってくれたらな」
「……どういう意味だ」
鼻が触れ合うほどの距離で顔を寄せ合い、ソルが何か含むように言うと、カイは意外に冷静なままで聞き返してきた。
ソルは尚更笑みを深くした。
「簡単なことだ。坊やが女の代わりになれ」
「……!?」
「溜まってんだよ。規則規則ってうぜぇから、ろくに女も抱いてねぇ。その代わりをしてくれるっつーんなら、始末書を全部片付けてやる」
ソルが畳み掛けるように口を開くと、カイは目を見開いたまま硬直した。間近にある綺麗な綺麗な顔が自分の言葉に衝撃を受けて変化を見せるのは、なぜかたまらなく気持ちよく、ソルはくくっと笑いを漏らす。
しばらくそうした後、カイは不意にソルの手を払った。それは乱暴な仕草ではあったが、カイの青い眼は鋭さを増しているだけで、なぜか怒りや憎悪といったものは見られない。
この生真面目な青年なら烈火のごとく怒ると、ソルは思っていた。だが、予想に反して随分落ち着いた声が形の良い唇から漏れる。
「……本当にそうすれば、始末書をちゃんと書いてくれるか?」
真剣な表情で、カイはそう念を押すように聞いた。その反応にソルは僅かに目を見開くが、すぐに目を細め、獲物を捕らえるような獰猛な光を宿した。
「ああ、約束してやる。……だが、てめぇみてぇな嬢ちゃんにそんな真似できんのか?」
ソルはわざとからかうような口調で言い、舐める様にカイの全身を見つめた。嫌がるであろう事を承知の上での卑猥な視線だ。
だが、カイはそれを気にも留めず、あっさり頷いた。
「別に、お前がそうしたいならすればいい。それで仕事がスムーズに進むなら安いものだ」
表情一つ変えない。
お綺麗な顔はそのままで目の前にいるカイは、もしかすると自分の承諾したことの本当の意味が分かっていないのだろうか。
……なら、思い知らせてやるまで。
ソルは腕を伸ばし、突然カイの前髪を鷲掴んで力任せに引き寄せた。髪を引っ張られた痛みに顔をしかめるカイと強引に視線を合わし、低い声でソルは囁く。
「後で言ったことを撤回するなよ?」
「お前も約束は守れ、いいな」
二人は睨み合うように互いの視線を絡めた。





虫唾が走る。
腹が立つ。

キスどころか、愛撫もろくにしてやらなかった。大して濡らしてもいないケツの穴に思い切り捻じ込んで突きまくって自分だけ楽しむ。
痛みに悲鳴をあげるその少年の股の間から血が流れ、床を汚していった。だが、どうでもよかった。
自分は痛くない。むしろ気持ちいい。痛いのはそいつだけ。
それをイイザマだと笑いながら、気を失うまで精液を体中にぶちまけて塗りたくってやった。
次の日は案の定まともに立てないようだったが、そんなのは知ったことではない。

鍛え方が足りないからそうなる。ひ弱で綺麗なだけのお人形さん。

役に立たないやつだが、とりあえず目的の物が見つかるまでの退屈しのぎにはなりそうだ。
仕込めば娼婦の代わりにもなる。


精々、俺を楽しませろ。坊や。








END








まだ全然序章。全くひどくもなんともないです(え;)が、これからどんどんと…。