< 02:聖戦 >





「また坊やと同じテントってか? いい加減にしやがれ」
「野獣をまともな部下達と一緒にさせるわけにもいかないからな」
文句を言いつつ、ソルは就寝用の個別テントに入ってくる。それを迎えるカイはそちらを見もせずに制服を上着を脱いで畳んでいた。
ここは聖騎士団本部ではなく、戦場だった。今回はこちらが多少優勢であったため、あまり怪我人もなく粗方のギアを屠ることができた。だが帰還するには本部に遠く、日が落ちていたため最前線からは少し後退したところでテントを張り、一日休んでいくこととなった。
全身を包む法衣は外して脇に置くが、カイは制服の下をそのままにしておいた。もちろんギアの襲撃に備えて、である。肩が剥き出しのその服の襟元を緩め、カイがさっさと寝袋に潜り込むと、揶揄るような低い声が降ってきた。
「なんだ、まともじゃねぇ自覚はあるんだな。淫乱な坊や」
テントの中に薄い布を引いただけの地面を素足で踏み締めながら、ソルは楽しげに口端を上げて囁く。先程の皮肉に、卑猥な言葉で意趣返しと言ったところか。
そうした下品な言葉は今更珍しいことでもなかったので、カイは軽く鼻で笑った。
「無節操な野獣に言われる覚えはない」
ソルの方に背を向け、カイは早々に寝る体勢を作る。いちいち付き合っていられない。
だが、ソルはこちらの方へ歩み寄ってきて、カイの耳に薄い唇を当てた。
「自分から足開いてよがりまくる坊やは、その野獣に犯られるのが大好きなんだろ。俺のをくわえ込んだまま離そうともしないで腰振ってんじゃねぇか」
わざと鼓膜を打つような低く掠れた声で囁かれ、一瞬ぞくりと体に震えが走った。それを表面には出さないように押し留め、落ち着いてからカイは強張っていた体から力を抜いた。
「際限無く犯るだけの年中盛った野獣は、すぐに涸れて役立たずになりそうだな。もう少しひかえたらどうだ?」
ぐるりと顔をソルの方に向け、カイは嘲笑うように形の良い唇を薄く開いた。間近にあるソルの紅い瞳がカイの言葉にゆっくりと細められ、獰猛で狡猾な肉食獣のような光を帯びる。
「ほぉ? んなことぐらいで涸れるとでも思ってんのか、坊やは」
まさかそんなわけはないよな?
そう言外に含み、ソルはその鍛えあげられた筋肉質の手をカイの寝袋に伸ばした。その行動を邪魔するわけでもなく、カイがじっと視線を逸らさずに紅い目を見つめていると、ソルは不意に喉の奥で短く笑い、寝袋を一気に剥いだ。
そのまま両腕を押さえ付けられ、馬乗りにされたが、カイはやはり視線を逸らさぬままソルの顔を見上げていた。
「使い物にならなくなった後で後悔しないように、今ここでその薄汚いものをねじ切ってやろうか?」
「ハッ! ほざいてろ。どうせできもしねぇくせに」
なぁ? 憶病な坊や。
如何にも馬鹿にしたような口調で嘲り、ソルはカイの制服を引き剥がしにかかった。
カイはその行動を咎めなかった。どうせできもしないくせにという言葉にも反論はしなかった。
ソルのものをねじ切ることはできない。それは力の差もあるが、ただ単にそれを失うのが惜しいだけ。今まで経験した中で一番快楽に浸れるソルの分身がなくなるのは勿体ない。
だから、この背徳の行為をやめさせようとも思わない。
「なんだ、抵抗しねぇのか?」
「抵抗するやつを踏みにじるのが好きか? 変態サディスト」
「それで反抗してるつもりか。せいぜい舌噛まないように気ィつけるんだな。全部喘ぎ声に変えてやるよ」
相変わらず睨み合いながら、二人はそのまま行為に及んだ。







カイが口に含んだものに軽く歯を立てると、それは僅かに硬度を増す。根元から両手で強く擦り上げ、くびれたところにじゅっと吸い付くと先端から透明な液が溢れる。
カイは、自分が与える刺激でそれが育っていくのが楽しくて仕方なかった。
「んっ…ふ」
「フッ…。そんなに美味いか? えらく熱心にしゃぶるじゃねぇか」
ソルの大きな手が、股間に顔を埋めるカイの金髪に触れる。その大きな手が意外に優しい仕種で髪を梳くのを、カイは知っているのでそれを払ったりはしない。
普段は何があろうと決して触れ合うことがないため、こうした何気ない接触は心地好い。
「はッ…ふ…」
口腔を占めるその肉棒を一度吐き出し、息を整えてからカイは再びそれを口の中へと導いた。こちらまで侵食されそうな熱い塊を頬張り、カイはリズムを付けて頭を上下させ、高めにかかる。ソルは多少の刺激で達したりはしないことをよく分かっていたので、自分が覚えたテクニックを総動員させる。
中から迫ってくる熱を押し上げるように、片手で根元をきつく絞めつけて何度も上下させ、その動きに合わせるように先端へ齧り付き、些か乱暴に食む。そういう刺激の方がいいのか、途端に熱い肉棒が一回り大きく成長した。口で頬張ったままそれに舌と歯を擦り付けるようにして刺激し、徐々にその動きを早めていきながら、空いたもう一方の手は重たげな袋へと伸ばし、ゆるゆるとマッサージを施す。
先端から溢れた透明の液体と唾液が混じり合い、口端から滴り落ちていった。
「……なかなか、上手くなったじゃねぇか……」
熱を帯びた吐息を吐き、ソルが快感の度合いを示すようにカイの頭を強く押さえる。
上手くなったというその言葉に、カイは変わらず口で愛撫を施しながら、胸中で当然だと呟いた。何度となく体を重ね、尚且つソルの指導を受けているのだから当たり前だ。なによりカイは、一度教えられたことを確実に覚えていっている。自分から進んで新しい体位を教えてもらうこともあるほどだ。
これらの技は、自分が唯一持つ切り札だと、カイは考えている。千も万も敵を屠る力を持っていても、それだけでは組織をまとめることも組織の上位にい続けることもできない。
聖戦と仰々しい呼び名を付けても、結局行われているのは上層部にとって邪魔な者を排除することだけ。ギアも人間もない。牙を巧妙に隠していかなければ、いつ首を飛ばされるか分からない。
カイは薄く微笑み、ソルを上目使いで見つめた。この男は良くも悪くも自分勝手にしか動かず、他人の事情には無関心である。つまりはカイがこんな行為を頻繁にしていようと口外する心配がない。そういう意味で信頼はできるのだ。
どうせ一所に長く居座るような男ではあるまい。聖騎士団にいる間は、精々利用させてもらおう。
カイは極限まで高まったその熱く硬い肉棒の先端にかりっと歯を立てた。途端、白濁の液体が飛び出してカイの喉へと流れていく。どろどろとしたその苦い液体に顔をしかめながらも半分は飲み干し、残りはわざとそれから口を離して顔にかかるように仕向ける。相手の顔を自分の精液で汚すことが、男の快感を増させる要因になることをカイは知っていたからだ。
「ふぅ…。随分上達したじゃねぇか、坊や」
達して満足したらしいソルは体から力を抜き、口端をつり上げて笑った。カイはそれを、汚れたままの顔でじっと見つめて口を開く。
「自分だけ楽しむな」
「…ったく、完全に免疫つけやがったな」
「うるさい。さっさと私の方もしてくれ」
カイはいっそ傲慢とも取れる態度で先を促した。先程の行為でカイ自身も緩く反応していたからだ。
だが、ソルがカイの下肢へと手を伸ばそうとして――途中で止めた。
「……チッ。こんな時にまた来やがったか」
「もしかして……ギアか?」
ソルが苦虫を噛みつぶしたような顔で舌打ちしたので、カイは行為を止めた理由を察した。ソルはギアの気配に誰よりも聡い。
カイに肯定の言葉こそ掛けなかったが、ソルは近くにあったタオルをカイの顔に押し付けてから、自分の身なりを整え始めた。タオルを寄越したのは、顔が汚れているから拭けと言うことらしい。
服装に大した乱れもなかったソルはさっさと法衣を着込み、剣を握ってテントの外へと出た。その後を、遅ればせながらも服装を整えたカイはついていく。下半身は多少反応していたままだが、走れなくなるというほどまでに高ぶってはいない。ギアと戦っている内に恐らく収まるだろう。
「続きはしばらくお預けだな」
複数のギアの気配を察し、ソルが低く笑った。テントの外に身を乗り出し、澄んだ外気に触れながらカイは無言のままその言葉を聞いた。



精々、私を犯すがいい。ソル。
すべて私にとって糧となる。



カイは内心の笑みを決して表情には出さなかった。










END



腹黒〜(笑)。いきなりで、退かれた方もいたのでは;
本当に好き勝手に書いてるな、私……。


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