俗・さよなら 冥土害先生







ピー…チチチッ。
小鳥のさえずりが聞こえる、どこにでもあるのどかな森。
だが、その日その場所にはおいては、とてものどかとは言えない雰囲気だった。

少し拓けた野原の真ん中で、首を180°捻って倒れ伏すメイド服の巨漢が一人。
その傍には、正反対に見目麗しい金髪のメイドが一人。しかし浮かべる表情は笑顔でありながら、何故か背筋が凍るようなものだった。

――完全に、殺人現場にしか見えない。

どこからともなく火サスの曲が流れてきそうなそこに居合わせたシンは、顔面蒼白だった。
ガッチリと手を掴まれた状態で逃げられないシンは、目の前の美人メイドに笑顔で迫られる。

「私が再教育して差し上げます。いいですね? シン」
「……は、…はい…」

何故か先のやり取りで、教育に燃え出した美人メイドの言葉に、シンは顔を引きつらせて頷く。
ここで頷かなければ、後ろに転がる死体が、我が身となりうる。

「良い返事ですね。ではまず、今までどういった生活をしてきたか話してください」
「……え?」

先程より雰囲気の和らいだメイドに、シンは意味が分からず問い返した。不思議そうな隻眼の眼差しに、美人メイドは極上に笑みを向ける。

「確かに教育はソルに一任していましたが、そこに間違いがあるのならば、元凶に仕置きをせねばなりませんから……ねぇ?
「ちょ……ええ…っ!?」

にこにこ笑いながら、メイドがシンの手を握る力を強める。細く白い陶器のような滑らかな手だが、今は怖い。振りほどける自信がない。

「ったく、テメェには人を労る心がねぇのか?」
「……!」

しかしそこへ、突然男の声が割って入った。目の前のメイドが瞠目する。
シンも驚いて声の方を見ると、ちょうどメイド服の巨漢が立ち上がって、事も無げに曲がった首を元の位置に捻っているところだった。

人間じゃねぇ、こいつ……。(涙)

シンも人間ではないが、これはもっと違う意味で自分を超越しているように思えた。
へし折られた首もあっと言う間に元通りになった、死んでも死なない男、メイドガイはのしのしとブーツを踏みならしながら近寄ってくる。

鬼気とした形相でシンに迫っていた美人メイドは、復活した男の方へと視線を向け、柳眉を歪めた。

「一体、何の話ですか」

絶対零度を思わせる美人メイドは怪訝な顔で意味を問い返すが、その細腕にはどこからともなく取り出したフライパンを握っている。再び葬った方が早いだろうか、と考えているのが目に見えて分かる態度だ。

襲撃準備が完了していることに気付いているのかいないのか、美人メイドの傍に立ち、メイド服男は腕を組んで不気味な笑みを発した。

「クックック……。なんでも暴力で解決か? お前の教育も大して変わらんぞ」
「……! お、お前には言われたくない!」

至極真っ当な指摘に、美人メイドは痛いとこを突かれたのか、少し顔を赤くして言い返した。だがメイド服男の意見に激しく同意だったので、シンも陰で頷く。

「私は、シンに暴力を振るうつもりはありません! きちんとした生活のあり方から、文字の読み書き、計算の仕方まで教えようと……!」

必死に言い募る美人メイドの言葉に、シンは思わず『うげっ』と潰れた声を上げた。それはつまり、自分が好きでもない勉強をやらされるという宣言だったからだ。

「ふん。それくらい、俺でも教えられる」

苦虫を噛み潰したような顔のシンをスルーして、メイド服男は自信満々にそう言った。ぴくりと片眉を上げた美人メイドは、探るような光を青い瞳に宿して、壁のような巨漢を睨み上げる。

「ほう? あなたのような無駄に大きいだけの役立たずに、何が教えられるというのです?」
「デカいのは認めるが、役立たずじゃねぇだろ。毎回、これで朝まで可愛がってやって……」
誰がシモの話をしろと言った

勘違い発言に、さっそく美人メイドのフライパンが呻りをあげた。

……。

1分間空けて、メイド服男は額から血を流しながら、何事もなかったように平然とした顔でバケツを取り出した。

「まずは洗濯だ。近くの川で服を洗う」
「へっ? ……ああ、うん」

いきなり自分の方にバケツを差し出され、シンは戸惑いながら頷く。白い仮面の間から血が滴っているのが気になるが、シンは敢えて目を逸らせてバケツを受け取った。

「意外にまともですね」
「それがテメェの望みだろ」

驚いたように感想を口にする美人メイドに、メイド服男は口をへの字に曲げて言葉を返す。
シンも話題がまともになったことに、少し胸をなで下ろした。勉強ではなく、まずは生活指導だったので、まだついていけそうだ。

そう思った矢先、メイド服男は拳をパキパキ鳴らして、不気味な笑い声を上げた。

「クックック…。つーわけで、まずは洗うべき服を剥ぎ取る
「……え」
「よく見ておけ、シン!」

シンの疑問の声など華麗にスルーして、言うが早いか、メイド服男は目の前の美人メイドの服に手を掛けた。


「!!!?」


美人メイドの、声にならない悲鳴が響き渡った。
シンも思わず、限界まで目を見開いた。咄嗟に声も出ない。


下着だけを残し、一瞬でメイドは服を引っ剥がされていたのだ。


なんとなく予想していた通り、ブラジャーとレースのパンツは眩しいくらいの純白さで、シンの目に焼き付く。そして白いストッキングを止めるガーターベルトが、肌の白さと相まってなんとも艶めかしい。

あまりに刺激的な目の前の光景に、シンは熱くなった鼻を慌てて押さえた。液体の流れる感触に焦り、上を向く。

「こ……の……っ…!」

美人メイドは事態を理解し、フリーズから解けて体を怒りに震わせた。まあ、怒るのもごもっともだ。
だが、メイド服男は剥奪したメイド服を見てから美人メイドへと視線を移し、不機嫌そうに息を吐いた。


「ムゥ? まだ技術が足りんか。下着も全部取れんとは……」
「〜〜〜〜!!!」


メイド服男の致命的な一言に、美人メイドは豊胸が揺れ動くのも無視して、フライパンを振りかぶった。
憤怒の表情で、美人メイドが怒りの咆哮を上げる。




「絶望した! お前という存在に絶望した!」






その瞬間、『ひぐらし』が展開されたことは言うまでもない。







END





もはや、何から謝れば良いのでしょうか。

…え? もう謝って済むレベル超えてる?


はい……そうですね……。ごもっともです。 orz