学園祭当日、大学は外部の学生や一般客の来場で賑わっていた。
その中でも出し物の発表の場として設けられた講堂からは、音楽と歓声が溢れていた。音楽関係のサークルは多く、邦楽・洋楽にとどまらず、吹奏楽や聖歌隊も含んでいる。多くのサークルが存在するだけに、それぞれの持ち時間は限られていた。
しかしだからこそ、そこにすべてのエネルギーが凝縮されている。
照明を極限まで落とし、ステージ下から照らす幾つかの紅いライトのみの中、3人の演奏者が最高の音を轟かせていた。講堂を埋め尽くすほどに盛り上がっている観客を、アップテンポのビートが更に高みへと引き上げていく。
激しく、聴く者を高揚させるハードロックの主旋律を、ソルがエレキギターで奏でる。腹の底に響くような重低音から、一気にアップテンポで高音へ。それを加速させるように、雨音のように流れるカイのキーボードが彩りを添えた。その絶妙なコラボレーションを、アクセルのドラムが最上の音質へ引き上げる。
たった3人。されど、曲は最もシャープでスタイリッシュな形へと変化する。
興奮に寒気を覚えるほどの、吼えるようなシャウト。マイクを握るソルの瞳が、獰猛に眇められた。そして低く囁かれる歌の続きは、耳を舐めるような低音の掠れ声へと移る。腰に響く、野性的なヴォイスの誘惑のあと、清廉な高音をカイが紡ぎ出す。ハードロックでありながら荒さを払った、清々しい空気が混じり始める。
ソルは熱い情熱を言葉に乗せて歌い、カイはオペラを思わせる母音のみの叫び。それらは不思議に重なり合い、異なった音同士が一体感を生み出していく。会場の空気が、共鳴のように震えた。
喉から真っ直ぐ天へと突き抜けるような二人の歌声が、最高潮へと達する。そして、一気に収束・拡散。ドラムのテクニカルな音だけが、後に残る。
スティックが目で捉えられない速度で閃き、時折緩急をつけて観客の高まったテンションを逃がさない。しばらくのドラムの独断場を経て、そこへ再び合流したエレキギターの音は、今までと全く違うテンポの音を流し込んできた。
曲が変わった。そう観客が気づいた頃には、ステージに立つカイがキーボードから手を離して、ステージを足で踏み鳴らしていた。
孤独に打ち鳴らす足のリズムに、細いしなやかな手で拍手が加わる。一定の、一見平坦でしかない原始的な音に、今度はアクセルがドラムから離れて同じ音を加える。
一人が、二人に。音は厚みを増した。
足が、ステージを力強く叩く。ドン! ドン!
手が、合間に打ち鳴らされる。チャ!
その耳慣れたリズムに気づいた観客が、目を輝かす。同じように、力強く床を踏みつけて、手を叩く者も現われ始めた。
さざ波のように会場を広がる、リズムの輪。単音から多重音へ。ドンドンチャ!と腹に響く力強い音が、会場を満たす。
目を閉じ、マイクを握ったままだったソルが、笑みを浮かべて眼を見開いた。赤茶色の瞳がライトの反射で、鋭く輝いた。


―― We will we will rock you !! ――


瞬間、会場は爆発したように歓声で湧いた。























すべての事の終わりに、楽しかったはずの部室は空虚な色を孕んでいた。
再び3人で演奏することはないと分かっていても、自然と部屋に集まってしまったカイとアクセルは、手慰みに楽器を弄りながらどちらともなく溜息をついた。
「これから……どうしましょうか」
「どうしよっかね〜……?」
気持ちが沈んだままのカイの問いかけに、同じく呆けたままのアクセルが気の抜けた返事を寄越す。心地よい白昼夢が如く、最高のステージだった昨日はもう過ぎ去った。
まだ学園祭は続いていたが、周囲と同じようにお祭り気分を味わえないのは、そこにいるはずの人が欠けているせいだろう。
ソルがよく座っていた薄汚れたパイプ椅子へと目をやり、カイはきゅっと眉根を寄せた。
「私は……もともとロックは好きじゃありませんでした。音楽だって、ピアノを少しかじったくらいで……。なのに、こんな短い時間で私の嗜好は変わってしまった」
「カイちゃん……」
「ズルイですよね。人をか掻き乱しておいて、突然いなくなるなんて……」
人の賑わう喧騒を遠くに聞きながら、カイは静かに呟いた。責めるような強い口調ではなく、抑揚のない平坦な声音だった。ただ、事実を声に出して確かめたかっただけなのかもしれない。
自分に言い聞かせて、納得させて。そうしなければ、また自分の足で前へ歩くことは出来ない。
深く、深く、溜息を吐いて、全ての空気を出し切ってから、カイはゆっくりと顔を上げた。
「さて、過ぎたことで今更何を言っても仕方がありませんね。今後のことを考えましょう」
しっかりとした口調でそう言ったカイの表情には、もう翳りはなかった。その変化に、視線を合わせたアクセルは軽く目を瞠る。見目の良さもあるが、こういう芯の強さがもっともカイの魅力的な部分だと、改めて思わされる瞬間だった。
「…そだね。ここでうだうだしてても始まんないし」
「ええ」
「とりあえず最初の問題から、なんとかしよっか。……このままサークル維持する? それともやめとく?」
「……そうですね……」
最初にして、最大の難問にカイも考え込んで下を向く。アクセルの口調はあくまで軽いが、この問いの答えは大きな分岐点になる。
リーダーとして作曲をこなしていたソルがいなければオリジナルの新曲は、当然演奏できない。しかしインディーズとしての活動は諦めて、大学のサークルとしての活動だけならば、カバー曲で十分だ。楽器はギターを欠くことになるが、無しで演奏するかもしくは新たに練習して弾けるようになるか、手段は幾らでもある。
折角バンドを結成したのだ。大学生活くらい、走り続けていたい。カイは強く、そう思った。
「サークル、続けましょう」
「――俺もそれに賛成だな」
カイがアクセルの方へと顔を向け、そう結論を出した瞬間だった。間髪入れずに滑り込んだきた、かすれたバリトンの声。
椅子に座るアクセルの向こうに、長い茶髪を後ろに流した男が立っていた。それを認めて、カイはエメラルドブルーの瞳を限界まで見開く。
「ソル――ッ!!?」
「ええ!? 旦那ッ!?」
カイの驚愕の叫びに、アクセルは慌てて首を巡らせてソルの姿を捉えた。
思わず絶叫と共にひっくり返りそうになるアクセルと、口を開けたまま硬直するカイの反応に、ソルは口を歪めて満足そうに笑う。
「なんで……なんで?」
「俺は諦めが悪くってな。……遠い親戚で適任の奴が見つかったから、全部押し付けてやった」
「え……っ!? 全部押し付けったって、それ……」
不遜な態度で事もなげに理由を語ったソルを、カイは混乱の期した顔で見つめる。あれだけ思い詰めていたというのに、この展開は何なのだろうか。
状況が呑み込めずに固まる二人に、ソルは腕を組んで面倒くさそうに説明する。
「事が急だったから、遠い親戚まで当たってなかったんだよ。……でもやっぱ俺もバンドが諦めきれなくてな、最後の最後まで粘ってみた。そしたら、今は隠居してる元社長の奴が、軌道に乗るまでサポートしてやっても構わんって言ってくれたわけだ」
「……じゃあ、ソルは……大学もやめなくて良くなった……?」
「ああ、そういうこった。……卒業まであと半年くらいだが、また世話ンなるぜ」
カイの恐る恐るの問いに、ソルはニッと笑う。その肯定の言葉に、カイの顔は驚きのそれはゆっくり微笑みに変わった。
「……おかえりなさい、ソル」
「おう。ただいま。……カイ」
手を差し伸べ、満面の笑みを浮かべるカイに、ソルは少しはにかみながら返事をした。










END










ポップンミュージックのアイスというキャラを見てから、どんどん妄想が発展していったバンドGGパラレル話でした。
このアイス、新しい方の衣装がカイとよく似てるんですよ。そしてホットDというキャラは、アクセルによく似てます(しかし)。

なんか部長とか新入部員とか、そういうお題がかな〜りどっか行っちゃってる点が本当に申し訳ないですが…;

コンセプトとしては、ソルを大学生らしくちょっと青臭く、カイをまともな青春時代送った一般の青年風にというのがありましたが……出来たかどうかは定かでないです。
そして最後までヤらないというのもあったのですが……シてないのにエロ度が上ってるように感じるのは私の気のせいかしら;;

歌はクイーンのGET DOWN MAKE LOVEを使用。ちゃんとフレディの歌ってる曲ですよ(笑)


…ちなみに、最終的に仕事押し付けられたのはスレイヤー氏です(哀)。そして、ソルの義兄はザットマンだったり、ね…(爆)