エイプリルフール
「連王を辞めてきました」
相変わらずの賞金稼ぎの旅、突然私服で現れたカイがそんなことを言った。
一緒にいたシンが意味が分からずにポカンと口を開けて阿呆面を晒しているが、言われたソルは顰め面で返す。
確かにいつもの王の服を脱ぎ捨てたカイの姿は言葉通りに思えるが、荷物もろくに持たない軽装にはあまりに違和感がある。
渋面のままソルはしばし逡巡し、ふと思い当たる事柄に気付いた。
「エイプリルフールか」
「正解。本当はただの半日休暇です」
指摘をすると、カイは存外あっさり嘘だと肯定した。……随分と呆気ない。
「面白味も驚きもねぇ嘘だな」
「確かにそうだな。来年はもう少し捻ったものにしよう」
「……次もやるのかよ」
くだらない、とソルは首を鳴らして溜息をつく。
しかし笑顔で会話するカイを見て余計に混乱を招いたのか、シンは口をぱくぱくしていた。
「…う、…嘘かよっ!? びっくりするじゃねぇか!」
「おや。シンは少し信じてくれたみたいですね」
「! し、信じるわけないだろ、テメェのことなんかッ!」
カイが嬉しそうに返したものだから、シンが思い切り反発するように叫んだ。シンの素直になれない性格を知ったうえでのカイの発言は、わざと嫌われるように持っていっているのではないだろうかと、ソルに疑問を抱かせる。
「……4月1日ってのは、一般的に嘘をついていい日ってことになってんだ」
「え、マジ!? じゃあ俺、腹いっぱいになるくらい肉喰いてぇよ、オヤジ!」
「お前のそれは、ただの願望だろ」
エイプリルフールを説明したつもりが、全く意味の分かっていない発言に、ソルは呆れ返る。しかしそれにのるように、カイはどこか食事にでも行こうかと言い出した。
ちょうど昼時だからとそれに同意し、3人は街へと歩き出した。
その道中、カイの嘘を反芻したソルは顔をしかめる。
(連王、辞めてきた…か)
それは果たして、カイの願望だったのか、自分の願望だったのか。
突き詰めたところで状況が何ら変わることはないと分かっているだけに、その疑問は心の奥へと葬った。