〜もしもソルが犬だったら〜
「おい。まーた、仕事かよ」
「ちょっと……重いですって、ソル!」
どっしりと頭から背中にかけて圧し掛かる飼い犬に、カイは抗議の声をあげた。
しかしその様子さえ楽しんでいるのか、犬のソルはますます体重をかけてくる。
図体の大きいこの犬に力押しされるとカイには分が悪く、ろくに動けなくなってしまう。
「オラ、どうした。この程度で身動き取れねぇのか? モヤシっ子」
「う、うるさい! …というか、本当にどいてくれ、ソルっ。仕事に行けない」
わざと顎をかくかく動かして脳天に振動を与えてくるソルを、
カイは後ろ手で叩いて退けと訴えた。
だがソルは相変わらず、だらりとカイに圧し掛かったままだ。
「たまにはサボれよ。つまんねーだろー? 仕事なんてよー」
「私には責任というものがあるんだ、無茶を言うなッ。大体、お金を稼がないとお前のご飯もなくなるぞ!」
どさくさに腰を抱き込んでくるソルに、慌ててカイは叫んだ。
すると、食べ物に目がないソルはピクリと茶色の耳を動かして目を瞬く。
「そりゃダメだ。おい、坊や。さっさと行ってキリキリ働いてこい」
「……お前という奴は……」
あまりの身替りの早さに、カイは思わず呻いた。
一体どこで、育て方を間違えたんだろう……。
かなり本気で、カイは頭を抱えてしまう。
今更ながらペットを飼ったことを後悔していると、カイの背から重みが消えた。
「まあ、気ぃつけて行けよ」
「……!」
笑いを含んだその言葉と共に抱き寄せられ、ぺろりと唇を舐められた。
不意打ちで目を瞠ったカイがソルを見つめ返すと、不敵な笑みを浮かべたまま至近距離から視線を絡め、
啄むようにキスをしてくる。
ゆっくりとしたその行為を甘受してしまってから、
カイは自覚して顔を赤らめた。
「お前という、奴は……っ」
「なんだ? 見送りのキスが不満か、ご主人様?」
人を食ったような笑みを浮かべる犬に、カイはもはや何も言えなかった。
だらりーんとした大型犬ソルを書いてみたかった、という…。
飼い主が大変です(笑)