もしもソルが子供だったら







「おい、坊や」

……………。

……?


突然街中で掛けられた声に、カイはワンテンポ遅れて反応した。

一瞬、自分に話し掛けられているのかと顔を上げたが、その半瞬後に違うと思い直したのだ。
自分を『坊や』と呼ばわるのは約一名だけであり、その声が該当者と違う声質だった。低めで不愛想な声音ではあるが、声変わり前の子供の声だ。

「おい、何ぼさっとしてる。こっちだ、こっち」
「なに……………え?」

苛立しげに再度、声を張り上げられてカイはびくりと反応し、周囲を見渡して――下を向いた瞬間に凍りついた。


……なんだ、これ。


声をかけた人物は目の前に居た。が、自分の目線より下にいたので気づかなかったのだ。
当たり前だ、10歳前後の子供だったのだから。いやそれよりも……その子供の姿の方が異様だった。

赤い鉢金は大きすぎて付けられなかったのか首にぶら下げ、いつも恥ずかしいくらいに上の方で留められている赤いジャケットは、ちょうどジャストサイズになって素肌の上に身に着けられている。

こまっしゃくれた感の否めない赤い目に、逆立った長い茶髪。

カイはぶるぶる震える指で目の前のそれを差して、強張る唇を無理矢理こじ開けた。


「……ソ、ソソソソ…ソル?」
「それ以外、何に見えるってんだ」


驚愕するこちらを馬鹿にするように、子供は鼻を鳴らす。その仕草に、確かに彼の人とのデジャヴを感じ、カイは顔面を蒼白にしてよろめいた。

「こ、こんなことがあるはず…………あ、そうか。夢かー」
「現実だ。ゲ・ン・ジ・ツ」

目を逸らせてあらぬ方向を見るカイに、ソルが半眼で鋭い目差しを送る。即座に否定され、カイは冷や汗をかきながらギギギッと視線を戻した。

「ギアって変態動物だったんですね。サナギから孵ったばかりですか……」
「アホか。素体が人間なんだから変態するか。……つーか、まともに話聞けよ」

勝手に自己完結して終わらせようとしているカイの脛に、ソルは引きずっていた封炎剣の柄をぶつけた。
小さくなってもギアとしての馬鹿力は健在なようで、カイは激痛にうめいて思わずしゃがみ込む。

ほぼ目線が同じになったところで、ソルは痒くもない頭をばりばり掻きながら溜息とともに理由を語り始めた。

「原因はあのイカレ医者だって言やぁ、とりあえず納得はするだろ」
「…………確かに」

非常識・不可解が服を着て歩いているような、とんでも医者を挙げられ、カイは顔を引きつらせてソルに同意した。
確かにこんな非現実的なことを、あの医者はいとも簡単に可能にしてしまいそうである。

「一戦やったのですか?」
「ああ。俺が狙ってた首が、奴の患者だったんでな。匿いやがるから、叩きのめしてやろうとしたら……バトルの衝撃で建物が崩壊した。んで、そこらにあった薬品を頭から被っちまったってわけだ」
「……なるほど」

カイは苦笑いを浮かべつつ、納得した。
ソルのかいつまんだ説明で十分なほど、例の医者は色々とキテレツだ。そういうこともありそうだと、思ってしまう。
痛みは引いたがそのまま片膝をついたまま、カイはしばし黙考してから口を開いた。

「で、結果としてはどうなんですか?」
「ぁん?」
「賞金首は捕まえたのか、ファウストさんはどうなったのか、あなたは元の姿に戻れるのか……等々」
「……ああ。賞金首はかばってくれた医者に悪いと思ったのか、自首しに行った。当の医者は大して怪我はしてねぇが、診療所が潰れて泣き崩れてた。……で、俺は大体一週間で元に戻るらしい。以上」
「……そうですか」

質問に簡潔に答えるソルに、カイはただ頷く。
とりあえず先の騒動は納まっているらしいことは分かり、カイは一安心した。
しかし目の前にソルがいることを改めて考えると、今後のことに頭を悩ませなければならなさそうだ。

「それで、あなたがここに姿を現したということは……元に戻るまでうちに来る、ということですか?」
「察しが良くて、助かるぜ」

カイの推測に、ソルはニヤリと子供らしくない笑みを浮かべて見せる。
あっさり肯定されてカイは思わず深々と溜息をついてしまったが、気を取り直して立ち上がった。

「じゃあとりあえず、その恰好をなんとかしましょう。サイズが全く合っていませんしね」

ズボンの裾を折って上げ、ベルトで無理矢理ウエストを絞っているソルの姿を見ながら、カイはそう提案する。
それにソルは一瞬渋い顔をしたが、事実なのは確かだったので「ヘヴィだぜ…」と愚痴をこぼすだけに留まった。








その後は、子供服を買って着せてから、晩御飯の材料を買い揃えて帰宅した。
差し迫った仕事がなかったことから、カイはベルナルドに半日休みを申し出たのだ。


すでにとっぷりと日が暮れ、丸い月が夜空を支配する頃。

カイは、コーヒーを飲もうと目の前を通過する子供に手を伸ばした。

「……おい」

行動を阻まれてむっとしたような気配に構わず、カイは笑みを浮かべながらソルを抱き寄せる。抗うのが面倒なのか、あるいは呆れているだけか、ソルの抵抗はなくカイの両腕にその体は収まった。
薄い筋肉がしっかり付いた背をまるごと抱きしめると、そのサイズの小ささと細さを改めて感じる。そしてまだ成長途中の柔らかさを持つ肌に、子供らしさを感じた。
風呂から上がって解かれたままの長い茶髪に鼻先を埋め、カイは一人満面の笑みを零す。

「てめぇ……いい加減にしろよ。これで何度目だぁ?」
「ごめん。でも可愛くって、つい」

目の前をちょろちょろ動かれると、捕まえたくなるんだよ。


抑えきれない笑いをクスクス漏らしながらカイがそう言うと、ソルが思いきり不機嫌なオーラを発した。実はこうして意味もなく抱き寄せては縫ぐるみのように抱きしめる行動は、優に片手分の回数は超えている。
流石に、度重なる子ども扱いにソルは腹を立てたようだ。しかしそんな態度すら子供の反抗期のようで、カイには可愛く思えた。


「……そうだ、坊や」
「ん……?」


ふと、何かを思いついたようにソルがこちらを肩越しに振り返る。それに、カイは愛しい者をめいいっぱい愛でられる喜びに浸りながら生返事を返した。


ソルの目が剣呑に光っていることに気付かずに。


「宿泊の礼、まだしてねぇな」
「…………え?」


一瞬、言葉の意味が分からずにカイは目を瞬いた。
――が、即座に嫌な予感を覚えてカイが顔を上げようとした途端、突然腕を捻り上げられてしまった。

「痛たたたっ! …って、うわッ!?」

無防備なところに思い切り力を入れられて、カイは悲鳴をあげながら反射的に抱きしめていた腕を解く。その隙を狙い、ソルは腕を払って振り返り、カイの体を勢い良く突き飛ばした。
心構えもなく衝撃を受けたカイは、為す術なく座っていたソファの背に体を打ち付ける。突然のことに驚いている間に、今度はソルがカイの上に馬乗りになり、ソファに縫い付けてしまっていた。

見た目が子供なだけに油断していたが、その力は元と大きな違いはなかった。








「ちょ…ちょっとっ、ソルッ!? いきなり何を……っ」

「宿代はちゃーんと毎日、払ってやるさ。
体でな

はあぁーーーーッッ!!? なんで、そうな………っひぁ!?」


唐突な宣言に驚愕する間もなく、カイはソルに局部を握り込まれて声をあげた。
すでに何度も体を重ねているだけに、ソルはカイの弱点を知り尽くしている。
スラックス越しでありながら的確で容赦のないソルの愛撫に晒されて、カイは咄嗟に抵抗する力を削がれてしまった。


「やっ……あ、あッ! ソ…、やめ…ッ」
「なんだよ、遠慮せずに受け取れ。宿代」
「どこが……ッ、! ひぅっ!」


全力でカイは暴れようとするが、その出鼻をすべて巧みに挫かれてしまい、結局抵抗が出来ない。
しかしカイも、はいそうですかと諦めるわけにはいかなかった。


児童ポルノ禁止法に引っかかる……!!(泣)


自分が警察なだけに死活問題なカイは、たとえ中身が150歳以上でも今のソルに身を委ねるわけにはいかないのだった……。










リクエスト頂いた、子供ソルでした★
ベタな展開ですみません…。

…って、なんかイイとこで終わってないか!?とか思われそうな感じですね。


ははは…、続きは……まあ……低確率で現れたり。
でも恥ずかしいから、探 さ な い で 。







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「もしも、○○が○○だったら」という感じで
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できればソルとカイに関連するものでお願いいたします。