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※注意※
これは、シンの容姿がカイに酷似していたことから派生した、ギア化したカイのパラレル話です。
途中まで書いたところでGG2が発売して完全な妄想だということが確定してしまい、書くのを止めたために最後まで書かれていません。
途中から、イラストを交えてのあらすじ語りになります。
それでも宜しければ、どうぞ読み進めてください。



























罪ありきボクらの道





白い花が、メインストリートを埋め尽くす。
風に巻き上げられた花びらが、たんぽぽの綿の如く上空を舞っていた。あるいは、人々が建物の窓からまいた白い紙吹雪が粉雪のように降り注ぎ、道を白く塗り替えていく。
そこには街の人々の純粋な敬愛と、悲しみが込められていた。
ここは――巴里。
様々な歴史を刻んできた見事な石畳は今は見えず、花と紙吹雪と人で埋め尽くされている。荘厳な構えの門から伸びた赤い絨毯だけが視界に彩りを与えていた。
「何があったんでしょう?」
赤い絨毯を挟んで並ぶ、終わりのない長い人垣を物珍しげに見て、襟もとの大きく開いた白い服をまとった男が不思議そうに呟く。その一言を聞きとがめた老婆が、目尻を押さえていたハンカチーフを除け、男を見上げた。
「まさかあんた、そんなことも知らないのかい?」
「すみません、流れ者なので」
深い皺を伸ばすように目を見開いて眉を寄せる老婆に、男は目深かに被っていた白い軍帽を少し押し上げ、困ったように肩をすくめて見せた。その軽薄そうな仕草に普通ならば不快感を感じたのかもしれないが、不思議と空気を乱さない動きに、むしろ品の良さが滲み出ている。故に老婆も、目の前の出来事を語るに留まった。
「今日は葬儀をしているんだよ。聖戦で活躍された『カイ=キスク』様の、ね……」
各々に礼服をまとい、花束を持つ人だかりを見つめて老婆は遠い眼をする。そこに漂う哀愁の気配に、男も黙して前方へと目を向けた。
赤い絨毯の上を、制服を着た警官が足並みを揃えて前方からやってくるのが見える。手に白い花束を持って行進するその行列は、警察機構本部の荘厳な門を潜って長く続いていた。フランスの全警官が召集されているのか、葬儀の列は終わりが見えない。
「これはまた、随分と仰々しい……」
純粋に驚いたように、男は感想を呟く。確かに目の前の光景は、国王が亡くなったかのような壮大な葬儀であった。いくら聖戦の英雄の死去とはいえ、少し前に亡くなったクリフ=アンダーソン氏の慎しやかな葬儀を思えば差があり過ぎる。功績や任期の長さから考えれば、むしろ彼の方が大々的に葬儀が行われるべきであっただろうに。
男は軍帽のつばを白い手袋に包まれた手で押し下げ、目許に日陰を作って黙考する。その隠された表情は、澄み切った空から降り注ぐ陽光によりコントラストが増して、老婆からは窺えなかった。
だが、打てば何をも貫き通して響く硬質なガラスのような声が、不意に言葉を紡ぐ。
「やるべきことが、増えたようですね……」
どこか笑いを含んだ酷薄な物言いに、老婆は訳もなく不安を覚えた。しかし不審の眼差しを向ける前に、男は別れの会釈をして身を翻していた。
そのときに揺れ動いた男の長い前髪の合間から覗いた、顔の一部を覆う装飾に老婆は初めて気づく。
男は右眼に大きな眼帯をしていた。若い身空で体に不自由を負うとは大変なものだと案じるが、それを口にする前に男は視界から姿を消していて、結局言葉になることはなかった。
音もなく人込みに溶けていった男の残された方の眼が、熟れた果実のように真っ赤であったことが老婆の脳裏に焼きついた。
「……一体なんだったんだろうねぇ」
男のどこか浮いた容姿に老婆はそんな感想をぽつりと述べるが、しばらくしてから何事もなかったように葬儀へと視線を戻した。
今は死者を悼むことが大事。そう思い、またハンカチーフを目尻に当てた老婆は、死者の顔も知らぬままに再びさめざめと涙をこぼし始めた。
――その日の巴里は始終、フォークを入れれば容易く形を変えるデコレーションクリームのような白一色に染まっていた。






事の発端は、一週間前に遡る。
突然の異変は普段と何も変わらぬ平凡な日の、平凡な会議の後だった。
部下からの伝言を聞き、カイは今まであまり足を踏み入れなかった地区へと向かった。
警察機構の上層部には『元老院』と通称される組織が存在する。警察内だけでなく外界に影響力のある人物が数名参加しているらしいが、実際のところは分からない。表にも出ない謎の多い組織だが、これは役職というわけではなく、同好会に似た集まりのため明らかにする必要がないからだろうと思われる。
しかしメンバーが重鎮ばかりのせいか、そこで出された意見は陰で多大な影響を与えた。
そういった癒着の元となる不透明な存在など、正しい警察の姿にはあるまじきことだとカイは思うが、それを糾弾するだけの力はなく、また正体が分からないために誰に対して抗議すればよいのかも分からなかった。
結局は古い因習を黙認していたことになるが、今まで何ら関わりがなっただけに、あまり気に留めていなかったというのが正直なところかもしれない。
しかし今日、カイは突然その元老院から呼び出しをされた。理由は不明、ただ顔を出せとのことだった。
「……何か、悪い予感がしますね」
カイは指定された場所へと足を向けながら、言い知れぬ不安に思わず顔をしかめる。今まで何ら関わりのなかった組織からコンタクトを取られれば不審に思うのは当然であるが、だからと言って誰かに触れ回って事を大きくするのも気が引けた。
一応側近のベルナルドや周囲の者に行き先は告げてきたが、忙しい時期の急な呼び出しだったために他の者は手が空いていない。何があったとしても助力はあまり望めなかった。
「いや……馬鹿だな私は。この敷地内で何をするというのやら」
自分の大げさすぎる考えに、カイは一人乾いた笑いを漏らす。呼び出しの理由が何にせよ、表立って反抗しているわけでもないカイを、この敷地内で元老院がどうこう出来るわけはない。
たとえ、カイが警察機構に対して不信感を抱いていたとしても。
「……急ぎましょうか」
首を振り、邪推を追い払ったカイは足を早めた。遅刻をして悪い印象を持たれてしまっては損だろう。
しかしそうして、敷地内の外れにある今は使われていない教会へと急ぐ途中、飛び去る白い鳥が数羽、カイの目に留まった。
「……」
ふと思い出した昔の出来事に思いを馳せたカイは、半ば無意識に唇から音のない言葉を紡ぎ出し始めた。









薄暗い部屋で、ソルはヘッドホンを弄りながら思わず舌打ちした。
「チッ……。もうガタがきたか? 音が飛びやがった」
窓もなく、照明もろくにない煩雑とした狭い部屋で机に長い足を投げ出した格好のまま座るソルは、いまいましげにコードで繋がったコンポを見つめる。
きちんと修理したはずの旧時代の音声再生機――CDプレイヤーの音飛びに、ソルは最愛の曲に浸る時間を邪魔されて不機嫌に眉を寄せていた。いくつかある拠点でも、一番物資の揃ったこの部屋に久方ぶりに帰ってきて思う存分QUEENに浸れると思ったのに、プレイヤーの調子が悪いようだ。
名曲「We Will Rock You」がポンポンとぶつ切りにされて耳に流れてくるのに耐えられず、ソルは唸りながらヘッドホンをむしり取る。そして横にあるコンポに手を伸ばそうとしたところで――ソルは動きを止めた。
「……!?」
顔を上げたときに視界に入った、棚の上に設置しているモニターが真っ赤に点滅しているのに気付いたのだ。その異様な機械の反応に、ソルは驚きで瞠目する。
それはソルが造った、周囲の法力を感知する機械だった。万が一この拠点が狙われた時に、逸早く察知するためのものなのだが、それが今は画面を埋め尽くすほどの赤い点を映し出していた。
囲まれている……!?
モニターの示す事実に思わず顔を引きつらせたソルは、コンポに伸ばそうとしていた手を翻して、封炎剣を鷲掴んだ。
一気に戦闘態勢を取って、外へと続く扉に体を寄せる。
……だがそこで、ふと疑問に思う。何故これだけの数の法力反応に、ギアである自分が気付かなかったのか?
ソルはその引っ掛かりに眉根を寄せ、扉を警戒しつつももう一度法力感知機へ近付いて、詳しくデータを見直した。
「……なんだ? この微量な法力……」
おかしいと思ってよく見ると、モニターは感知できる最小限レベルの微量な法力を表示していた。この単位は、市民が家電で使うくらいの法力量であり、ギアや法力兵器などには遠く及ばない低レベルの反応だ。
しかしここは深い森の中。法力家電が原因と考えても、周辺には木と野生動物くらいしかなく、人もいない地でこれだけの数の法力反応は十分に異常である。
地殻変動か、あるいは遠い地で起きた何かの影響か。ソルはそんな推測を立てながら、とりあえず外の様子を確認しようと近くの窓に身を寄せた。かなりの埃が降り積もったその窓ガラスを慎重に手で拭い、向こう側を覗き見たソルは、目にした光景に目を見開く。
なんと、外の雄々しく茂る木々に、視界を白く埋め尽くすほどのハトの大群がとまっていた。しかも一様にしてハトはこの建物を取り囲むように陣取り、じっとこちらを見つめている。
ぱっと見、雪でも降り積もったようなその鈴なりな光景に、不気味さを覚えてソルは顔を歪めた。だがその驚異的な視力の良さで捉えた、ハトの目の色が青であることに気付いて、その正体を悟る。
「伝令鳩……!」
思わず口端を上げ、ソルは呟いた。白いハトの正体に気付くと同時に、今までの異常現象に合点がいったのだ。
伝令鳩とは法力で編み上げた思念体であり、主に遠く離れた相手に伝言を伝えるために使われる。鳩と名は付くがその外観は術者によって様々な、実体のない幻影だ。実体がない故に物を運ぶことはできないが、音声や映像を送ることができる。
そして本来は、古来より使われていた伝書鳩同様に、目的の相手にメッセージを運べば役割を終えて自動的に術者の元へ帰る、もしくはその場で消滅するものだ。
しかしこれらの伝令鳩は、おそらく目的であるはずのソルに、一定の距離を保ってそれ以上近付こうとはしない。何より伝言だけならば一羽でこと足りるものを、これほどまでに数を揃える理由がない。
「一体何のつもりだ……坊や」
外に陣取る鳩の群れを見つめながら、ソルはこの場にいない青年を詰るように呟いた。真っ白な鳩の目がターコイズのように鮮やかな青い目を持っていることから、これらを寄越した術者が誰であるか分かったのだ。
聖騎士団にいた頃、ソルは何度かこの伝令鳩に、痛い目に遭わされたことがある。朝のミーティングをさぼって寝こけていたソルに怒ったカイが、大音量の怒鳴り声を鳩に持たせて脳内に叩きつけたりなど、本来とは程遠い使い方をされていたが。
その時に嫌というほど見た、青い目の鳩。
ソルは苦虫を噛み潰したような顔で、外の鳩の群れを窓越しに見つめた。カイが何も考えなしにこれほど大量の伝令鳩を、伝言も付けずに寄越すなど考えられない。
なんだ。嫌な予感がする。
鳩の微量な法力を拾い、赤く点滅し続けるモニターを横目に、ソルは鳩が動きを見せるのを待った。デスクの上に放り出したままのヘッドホンからは、無数の法力に影響を受けて、途切れ途切れになったQUEENの曲が流れ続けていた。







嫌な予感ほど、的中する。
カイは一様に無表情な男達に囲まれ、自分の感の良さを恨んだ。そして、標的にされるだけの理由を相手に与えてしまった自分の迂闊さに、内心舌打ちする。
そこは会議をする場などではなく、罪人を糾弾して裁く、審判の場であった。
荘厳な十字架の掲げられたその教会で、すでに2時間が経とうとしていた。使われなくなって久しい建物だが、行き届いた手入れによりステンドグラスから差し込む光は、聖書の冒頭にある創造の光を思わせるほどに神々しい。
しかし張り付けにされたキリスト像の前の祭壇に立ち、こちらを侮蔑の眼差しで見下す男達は場違いなほどに淀んで見えた。
「これは質問ではない。尋問だ。黙秘は許されない。正直に答えたまえ」
不遜な態度でそう仕切る男を見、カイは思わず口元を歪める。自分を取り囲む男達は皆、それぞれの業界で大御所と言われる者たちばかりだった。
よくぞここまで各要人を同時に収集できたものだと思うが、それだけ今日の審議が重要だということなのだろう。
……いや、世界の上に統べる者として、最大の見世物だったのかもしれない。
「先日世間を騒がせた賞金首のギア、確かに死亡したとの報告でしたね? カイ=キスク長官」
「はい」
「では、この写真の者は何ですか?」

「……。少女…のように見えますが、羽根が生えていますね。ギア…でしょうか?」
「まるで、この化け物を初めて見るような口振りですね。……しかし、顔色が悪いようにお見受けしますが」
「気のせいでしょう。もともと肌が白いので、そう思われてしまうことがありますから」
「……ほう?」
無表情のまま呼気の乱れも出さずカイは答えるが、これはもはや質問ではなかった。
先に予告された通り、尋問に他ならない。
元老院は、ディスィーの生存を確信している。もしかすると、どこにいるかも把握しているだろう。
正直なところ、カイはこの事態をどこかで予想していた。いくら空賊に引き取られたとはいえ、あの少女が常に空にいるかというと、そういうわけではない。
あの目立つ羽根を生やし、尻尾を出したまま街を少しでも歩けば、いずれ耳に届くだろうとは懸念していた。ソルのように、せめて外見だけでも人間に紛れ込める出で立ちであったならばもう少し、上の目を誤魔化すことができただろうが……それを今更彼女自身に責めたところでどうにもならない。
それよりも、今の問題は別のところにある。
元老院の真の狙いが、ディズィーではないということだ。少女を追わずに、わざわざカイひとりを呼び出したことで、明白だ。
……狙いは、私か。カイは、体に緊張を走らせた。
しかし、……時すでに遅く。

足元に走る、強大な魔法陣に寒気を覚える。いつの間にか取り囲むように法術師が幾人も陰から現れ、『英雄』を捕らえるための大掛かりな罠を発動する。
「!」
方陣から抜けようと跳躍しかけたカイの体に、無数の鎖が巻きつき、地に縫い付けた。弾こうと放出した法力は、悉く別の魔法で吸収され、無効化される。
流石に多勢に無勢すぎた。縛られたカイが怒りを露わに前方を見据えると、祭壇の前に立つ男はこちらにブラックテックである銃を突き付けていた。
「英雄はかつての宿敵・ジャスティスに受けた古傷をこじらせて死んだ……なんていう筋書きはどうだろうね?」
「――ッ!」

薄ら笑いを浮かべながら男は躊躇なく引き金を引き、飛び出した鉛玉はカイの胸部を貫いた。
「死体が出ぬよう、次元牢へ放り込みなさい」
吹き飛び、方陣の上に仰向けで倒れたカイを見ながら、男は法術師に命令をする。指示通りに、法術師たちの呪文により魔法陣の呪が瞬時に書き換えられ、周囲の柱に書き込まれた力も引き出して次元の歪みが作られた。
血塗られ、ぼやける視界。急速に冷たい闇へと沈んでいく意識の中、カイは僅かに消費し続けていた法力の手綱を手放した。




――真っ白な鳩が、一斉に飛び立つ。
文字通り、空に溶けていく無数の鳩は美しくもあり、夢か幻のように儚くもあった。
「坊や……?」
ソルはそれを、呆然と見上げていた。










伝令鳩の群れの一件に、カイ=キスクの身に何かあったのだとソルは確信した。意味もなくあんなことをするはずがない。
カイの出勤状況などを調べた結果、入院中という扱いになっていた。だが、どうして入院したのか、容態がどうであるか、いつまで入院するかなどの詳細が全くと言っていいほど分からない。
不審だと感じたソルがスラム街の奥にある情報屋を訪ねた時だった。大きな空間の歪み――正確には、空間に干渉する特殊な法力を感じ取る。
空間を操る紅い楽師を脳裏に浮かべたソルは、何か関わりがあるかもしれないと思い、力場の方へと足を向けた。
辿り着いた先は、寂れた診療所の一室だった。訝しげに見回していたソルの前にワームホールが口を開け、そこから二つの影が吐き出される。
「ヤブ医者……!?」
見覚えのある、逸脱した長身の医者の姿に、ソルは目を瞠る。自称名医と名乗る彼は、医学の範囲を超えて時空歪曲さえやってみせる能力者であることを思い出し、ソルは法力の発生の理由に納得した。
だがそれよりも、医者に抱えられている一人の人間の姿に気づき、ソルは息を呑んだ。白い騎士服を真紅に染めたカイが、その腕の中にいたのだ。
「何しやがった!? テメェ……!」
「ち、違います違います。空間をこじ開けた形跡があったので調べたら、彼がこの状態で漂ってたのです」
ソルに封炎剣を向けられ、紙袋を被った医者は首を横に振った。そしてカイの体を寝台に横たえ、傷口を指し示した。
上半身を真っ赤に染める原因となった胸部の傷を見たソルは、それがブラックテックの銃撃によるものだと気付き、医者の言い分を信じざるを得なくなった。同時に、カイが鳩を使って自分に知らせようとしたことの一端を見た気がした。
銃の存在を知っているカイが綺麗に真正面から弾をもっらていることや、腕に縛られた跡が残っている他は外傷らしきものがないことから、警戒しながらもむやみに攻勢へ出れなかったカイの状況が読み取れる。恐らくは以前から彼が疑念を抱いていた、上層部から受けたものだろうとソルは推測した。
「銃痕によって心臓が傷ついていますが、まだ生きています…が。あと2、3時間ももたないでしょう」
目にも止まらぬ速さで輸血を繋ぎ、呼吸器をあて、外傷を塞いだ医者は、黙って見下ろすソルにそう告げた。
まさか、あの迅雷と称えられた英雄が、こうも呆気なく死の淵に追いやられるとは。
ソルは死んだも同然に目を閉じたままのカイを見つめ、しばし黙考した。
「……口が利けるまで、回復させられるか?」
「それは無理です。よしんば出来たとて、命と引き換えになります」
「どっちにしろ死ぬってんなら、やれ。叩き起して、聞かなきゃならんことがある」
ソルの固い命令に、ファウストは紙袋の下で顔をしかめる。だが、なんであれカイと縁の深いソルが意味もなくそんなことを言うはずはないだろうと考え、ファウストは強制的な回復手術を試みた。
麻酔を施して肺と心臓の活動を安定させ、血流が脳に行き渡るように輸血を増やし気管を広げる。そして脳に微量の電流を流して、意識を無理矢理叩き起こした。
ファウストが呼吸器を外すと、カイの瞼がうっすらと開いた。

「坊や……聞こえるか」
「……」
失血によって半ば以上機能を失っているカイは、眼を開いたもののそれ以上の動きを見せない。だが、ソルは構わず声をかけた。
「テメェは生きたいか? それとも、このまま死にたいか?」
ソルの無情なまでの問いかけに、カイの瞼がひくりと痙攣する。ファウストはソルの意図が読めずに、彼の厳しい横顔を見た。
無言のまま、ソルはカイの答えを待つ。聞こえているかすら定かでない中の問いかけに、カイはしばらく何も動きを見せなかった。
「…た…い」
ひゅっと喉を空気が通り抜ける音がして、半開きのカイの唇から、ざらついた声が漏れた。蒼い瞳が焦点を結ばないまま、天井を見上げる。
「生き…たい。……まだ……真実を、見て……ない」
常の彼の声を聞いたことがある者なら耳を疑うだろうと思われるほど、掠れて弱々しい声。だが、ソルはその言葉にカイの意志の強さを見た。
「わかった。後悔するなよ」
カイに何があったのか、詳しくは分からない。だが、この末路を無念に思っていることは痛いほど分かったソルは、カイの意向に沿うことにした。
それは自ら、禁忌を冒すことに他なかったが……。
「おい、ヤブ医者! こいつに俺の血を輸血しろ。傷口には、俺の細胞を使え」
「な、何を言ってるんです!? 正気ですかッ」
「ごちゃごちゃうっせぇ! 流石に死体になっちゃあ、ギア細胞も再生できねぇんだ。早くしろ!」
ソルの一喝に、ファウストは苦い表情をしつつも言う通りに針を持つ。生きてほしいという気持ちはファウストも同じであったが、ソルのやろうとしていることは果たして正しいことなのかどうか。
答えは見えぬまま、ファウストはソルの腕を取った。








その日、人間としてのカイ=キスクは死んだ。
















「生きて再び、この地を踏めるとは思いませんでした。嬉しい限りですねぇ…」

薄っすらと妖艶に笑い、青年は祭壇に立つ男を見つめた。視線を向けられた男の顔が、見る間に強張っていく。
それもそのはず。自らの手で葬り、次元牢にまで押しやったはずの男が、姿を変えて目の前に現れたのだ。
しかも今、ちょうどこの青年の葬儀をやっている最中なのである。敷地の外で読み上げられる、告別の言葉が遠くに聞こえた。
「う……嘘だ……ッ! カイ=キスクは死んだ……!」
「ええ。確かに、カイ=キスクは死にました。……しかし、SIN<シン>という名で生まれ変わったんです。残念でしたね」
顔を引き攣らせる男に笑いかけながら、SINは自らの右目を指し示す。そこには大きな眼帯が付けられていた。
以前の彼にはなかったそれに、男は言い知れぬ恐怖を抱く。
「SIN……<罪>と名付けた由来、特別にお教えしましょうか?」
にこやかに笑って問いかけながら、SINは男へと近付いた。男は首を横に振りながら後ずさり――後ろが壁であることに気づく。
慌てて横へ逃れようと身を捩った男に、SINは一足飛びに近付いた。そして壁に手を突き立て、行方を阻む。
恐怖で動けなくなった男に、SINは覗き込むように顔を近付けた。白い手袋に包まれた手で、眼帯を毟り取る。

「――ッッ」
その下から現れた青年の瞳に、男は息を呑んだ。片方だけ緋色に染まったその瞳には、忘れもしない紋章が浮かんでいる。
G E A R .
「さァ……。罪の雷<いかずち>を受けてもらいましょうか」
凍てつくブルー・ローズの微笑みを浮かべて、SINは死の宣告を告げた。













「……収穫はあったか?」
「いえ、あまり。分かったことと言えば、カイ=キスクの死は始まりに過ぎない、ということでしょうか」
仰々しい葬儀の参列から離れた人通りの疎らな道で、SINは待っていたソルに近付いて答えた。
特に目新しい情報がないと聞いて、ソルは短くため息をもらす。
「これから起こることへの、布石というわけか」
「そんなところでしょうね」
凭れていた壁から背を放し、歩き出すソルにSINは小走りで追いつき、頷いた。隣に並ぶ気配に、ソルは居心地悪げに、肩へかけていた荷物を背負い直す。
「…で、お前はついて来んのか」
眉間に皺を寄せながら問うソルに、SINは一瞬目を見開き、くすりとわらった。
「何を今更。こんな体にしておいて、責任も取らずに逃げる気ですか?」
「人聞き悪いこというな。テメェが決めたことだろう」
「でもあの時、ギアにするとまでは言ってなかったでしょう?」
「……それ以外、手段なんかねぇだろうが。棺桶に半身浸かってるようなやつ、こっちに引っ張り戻すのは」
SINの詰問に、ソルは憮然とした表情で返す。その拗ねたような物言いに、SINは楽しそうに涼やかな笑い声を立てた。
「ふふ……冗談ですよ。これは、私が決めたことです。あなたはたまたま、手を貸したに過ぎない。……後悔はしていませんよ」
街の外へと続く石畳の道を歩きながら、SINはどこか吹っ切れたような、清々しい表情で歌うように告げる。楽しそうですらあるその様子に、ソルは顔をしかめ、呆れたように息を吐いた。
「ホントに分かってんのか、今の状態が。……お子様は気楽でいいな」
「失礼ですね。もう子供扱いはさせませんよ。なんなら、ここで本気の勝負でもしてみます?」
「やめろっての。街を壊滅させてぇのか、テメェは」
人間の時ですら、ギアに引けを取らない格闘センスを有していた青年がギアと化した今、本気を出してソルと手合わせすれば、戦いの舞台となる街が消し飛ぶであろうことは想像に容易い。
なんとも厄介な相手に手を差し伸べてしまったものだと、ソルは盛大に溜息をついた。
「……で、どこまでついてくる気だ。お前は」
「どこまでも」
ソルの再度の問いに、SINは笑って即答する。それに目に見えてがっくりと、ソルは肩を落とした。
――だが、さほど悪い気がしないのは、何故だろうか。







END














約1年以上経って、やっと形になりました。カイのギア化話の追加小説です。
もうすでに小説の形にすらなれず、崩れてますけど;;
GG2の発売前に書けたらよかったんですがね…はは(乾笑)。

しかし何の偶然か、ディズィーをネタに元老院から、いびられるという展開は同じでした。
小説形式の部分は過去に書いたままで何も弄ってないので、確かです。
伝令鳩というのも、話の都合上で勝手に作ったものだったのですが、まさかのミニオン化(笑)
なに、この気持ち悪いシンクロ率;;

ギア化…というかギアス化してる(笑)カイですが、こちらの方が幸せそうに見えるのは何故なのやら;