アナタの隣が幸せ



平日でも賑わうストリートを歩きながら、ロックは手元のメモに視線を落としていた。それを上から覗き込む隣のテリーは、あからさまに不満げな表情を浮かべる。
「なあ、ホントに晩飯の材料だけ?」
「ああ。だって余分な金、持ってないだろ。テリーは」
家を出る前にも散々聞いてきた質問を繰り返すテリーに、ロックは顔も向けずに返した。
何の話かというと、ロックの誕生日プレゼントについてだ。何が欲しいかと聞くテリーに、じゃあ晩飯の買い出しに行くから支払い宜しくと、ロックは迷いもなく答えたのだった。
それは飯代であってプレゼントじゃないと反論するテリーを無視して、ロックは街中まで来ていた。なんだかんだ言いつつもついて来てくれるテリーの行動は予想済みで、ロックは当たり前のように近くの店を指す。
「まずあっちのディスカウントショップで先に日用品買うから。で、タイムセールに入る頃にマーケットの方に行くから、テリーは荷物持ちね」
「……オーケイ。分かったよ」
有無を言わさぬ指示に、テリーも流石に肩を竦めて了解した。こうと決めるとロックがてこでも動かない性格なのは、もう今までの付き合いで分かっている。
しかし観念しつつも、何かプレゼントらしいものを贈って喜ばせたいという思いは諦められず。
「なあ、ケーキも買おうぜ」
「あんまり甘いもの好きじゃないから、いいよ」
「じゃ…じゃあ、ステーキとか」
「最近、肉ばっかだろ。また太るぜ」
「……シャンパンで、パーッと盛り上がって」
「俺、未成年なんだけど?」
すべての意見を冷たい眼差しでばっさり切られ、テリーは笑顔のまま固まる。まさに取りつく島なし。
可愛いげのない…と思いながら、テリーは拗ねたように唇を尖らせてガシガシ頭を掻く。半端に伸びた金髪がくしゃくしゃに乱れた。
それを横目で見たロックは、視線を逸らせながらも隣のテリーにだけ聞こえる声で呟く。
「『物』はいらないよ。……夜に、シテくれればそれで十分」
「――え」
雑踏の中でも、やけに鮮明に聞こえた言葉。意外過ぎて脳が理解できず、テリーはしばし口を開けたままフリーズした。
幻聴?なんて疑問も一瞬抱くが、そっぽを向くロックの耳が赤く染まっているのに気付き、そんな疑いも綺麗に消える。
思わず緩みそうになる唇を引き締め、テリーは前を歩く青年に近付いた。
「じゃあ、フルコースでサービスしなきゃな」
「! て、手加減はしろよ!?」
満面の笑みでそう言ったテリーに、ロックは真っ赤になりながらも慄いたように叫んだ。
牽制の言葉も、テリーには馬耳東風。照れ屋な彼をめいいっぱい可愛がってやろうと、心に決めるのだった。




END









ロック、誕生日おめ!
しかし超短い…ごめん;