ロード・ランナー






そういえば、あの時もこんな雨だったか。
重さを感じさせない微細な雨粒は、音もなくまるで霧のように首都イリュリアの街全体を白く覆っている。霞み、陰る街は、早朝のために人影も見当たらなかった。
湿度の高い空気は、息をするたびに喉に絡み付く。その、喉の奥を塞がれるような感覚に息苦しさを覚えながらも、カイは防水加工を施したフードを手繰り寄せて街を歩いていた。
体にまとわりつく雨の匂いと暗く視界を淀ませる雲の気配に、カイは5年前の妻の姿を思い出す。
当時はまだ玉座への就任の話がのぼっていなく、国際警察機構の長官として働いていたカイは、街外れに自宅を持っていた。自身が有名人で様々な理由から狙われやすいことを自覚していたため、そうした人里離れた土地に家を構えていたのだが、それは図らずも、以前賞金を掛けられていたGEARである彼女と私用で話すには好都合の場所だった。
以前に彼女が力を暴走させた時をきっかけに『自分が何であるか知りたい』と望む彼女の思いと、カイが終戦管理局を探っている事実が、利害一致したということもあり、行動を共にして情報を交わす事が増えたのだ。……とはいえ、それ以上にカイの個人的な悩みと彼女の個人的な悩みが一致していたことも大きい。
しかしとある雨の日、空を住処とする仲間達と常に行動を共にしているはずの彼女が、ただ一人でカイの邸宅を訪れたことがあった。
職業柄、賞金をかけられている快賊団の動向を知ることのできるカイは、他国で船が目撃されたという情報を持っていただけに、彼女の突然の訪問には驚いた。
ちょうど休暇中だったカイは、生気のない彼女の声をインターフォン越しに聞き、慌てて扉を開け――彼女の姿に心臓が止まる思いをした。
少女の青く長い髪は解け、水を含んで全身に張り付いていた。体を覆うのはいつものセーラー服ではなく、大胆な水着のような戦闘服で、さらけ出された肌は血の気を失って青白い。そして雨に流されながらも目を覆うような全身の裂傷からは血が新たに溢れ続け、彼女の体を朱に染めていた。
その傷の大元が何であるかを反射的に視線で探したカイは、すぐにその理由を見抜き、心の底で気付いてしまったことを後悔した。
彼女の背中の羽根が、途中で無残に2つとも折られていた。だが、それよりも奇妙なのは彼女の白く細い手が血と羽毛にまみれていたことだ。
――自ら、背中の羽根をむしり、折ったのだと。カイはそう、瞬時に悟ってしまった。
涙なのか雨なのか最早分からなくなった滴が、彼女の顔を伝い、流れ落ちていく。いつもは光に満ちた紅玉の瞳はくすみ、焦点を失っていた。
生まれた時から共にあった、魂を宿す二対の羽根を自ら折らなければならなかった、彼女の思いはカイの想像を遙かに超えた絶望だったろう。
「――!」
反射的にあげた叫びは、胸中で反響するだけで実際は声にならなかった。しかし、カイは確かに天に向けて悲愴の声をあげていた。
どうして神は、この少女にギアという<罪>を背負わせたのですか、と。
精巧に造られた人形のように立ち尽くす彼女に、カイは無意識に手を伸ばしていた。傷ついたその細い体は、強い力に抵抗することもなく胸に倒れ込み、寄りかかる。カイは掻き抱くように、彼女を抱きしめた。
その時に明確な意識はなかったが、ただ彼女を救いたいと、守りたいと……そう感じたのかもしれない。
その抱擁が気休めでしかないことは、既に紅い男で十二分に知っていたが、カイにはそうして温もりを与えることしかできなかった。
彼女がギアであることは、何があっても変えることのできない事実だから。
彼女が死にたいと思っても、容易に死ぬことはできない。絶望し、生きる気力を無くしたとて、その強靭な肉体は彼女を生かし続ける。
そして、その恐るべき力は彼女の望みとは裏腹に働く。『兵器』としての役割を全うするように、本人の意思とは離れてすべてを破壊していくのだ。
「…っ…」
しゃくりあげるような、嗚咽が胸元から聞こえた。腕の中の彼女は震え、カイの腕にしがみついている。カイはその青い頭を撫で、天を仰いだ。
雨は変わらず降り続き、水滴は終わることなくカイの秀麗な顔を濡らしていた。


――賞金首のジェリーフィッシュ団がある街で停泊中、原因不明の大規模な爆発に巻き込まれたという知らせは、休暇中だったカイのもとまで届いていた事実だった――。












ランチタイムに賑わう、とある表通りに面した食堂で、一人の青年がテーブルに突っ伏すようにして食事をしていた。
別に気分が悪いというわけではない。むしろその旺盛な食欲により、フォークで料理を口に運ぶのも煩わしく、口を近づけて掻き込むように食べ物を放り込み、胃に収めているというだけだった。
だがふと、皿に半分埋めかけていた顔を上げ、シンは目を瞬かせた。
「あれ?」
先ほど口に入れたばかりの鳥肉を咀嚼することはしっかりと怠らぬまま、シンは周囲を見渡す。折角の端正な顔を頬張った肉の形で歪めて台無しにしながら、シンは賑わう食堂内を一瞥して首を傾げた。
「オヤジ……どこ行った?」
いつの間にか、保護者である赤い男の姿が見当たらない。シンが食事に熱中している間に、席を立ってしまったようだった。
反射的にテーブルの端を見、シンは「あ…」と声をあげる。置かれていた伝票には、いつのまにか支払い済みの印が押されていた。ソルが先にまとめて食事代を支払ってしまったのだろう。
「……やばっ。置いて行かれる!」
思わず椅子を後ろに倒す勢いで、シンは腰を上げた。食事中で叫んだために、口の中のものが若干周囲に飛び散って他の客から顰蹙の眼差しを受けたが、気にしている場合ではない。
ソルは連王からシンの保護を頼まれていることからシンを完全に見捨てて行くことはないのだが(そう思うと父嫌いのシンには癪だが)、ともかく基本的に自分本位で行動するソルはシンの面倒を積極的に見ることはなく、シンが自ら追いかけなければ置いて行かれてしまうことが多い。
もちろん、全く目の届かない距離まで離れればソルは恐らく引き返してシンを見つけにくるだろうが、そうしたときに「遅ェ!」の怒鳴り声とともに拳が飛んでくるであろうことは、想像に難くない。この場合はいいのか悪いのか分からないが、ソルはシンがギアの血を継ぐことから、体罰に関しては全く遠慮がなかった。
何はともあれ、追わなければ。脅迫観念に駆られ、シンは傍らの旗に似た棍と少ない荷物を手に取って立ち上がった。
しかし悲しいかな、視線は本能に従って目の前の食べ物に釘付けだ。食べかけの照焼チキンにポトフ、シーザーサラダ、クロワッサン……等々、見つめ出したらきりがない。
シンは「う〜…」と唸りながらも、なけなしの理性でそれらから視線を引き剥がし、歩き出した。盛大に後ろ髪を引かれる思いだが、ソルに置いて行かれることを思えば仕方のないことだった。
食欲は大事だが、ソルはもっと大事。親から離れて早4年経つシンにとっては、ソルと母親が自分の世界の中心だった。
だが今は何よりも、この場に一人取り残されることが嫌で堪らなかった。なぜならここは、腹立たしさばかり込み上げる、イリュリア連王国の首都だったからだ。
絶対嫌だ、近付きたくないと主張し続けるシンを無視して、ソルは昨晩この街に踏み行った。理由を問うと、大物の賞金首が現れるという情報を掴んだからだという。
最初は狩りを理由にイリュリアへ行って、無理矢理シンを連王に会わす気ではと警戒していたのだが、実際にここまで来て、ソルは宣言通り王の城には近付く気配を見せなかった。
母には会いたいが、父には会いたくない。そのシンの心を汲んだのかどうかは定かでないが、とにかくソルは本当に首狩りを目的にイリュリアまで足を運んだようだった。
だが、だからといってシンにとってこの街が居心地の良い場所であるはずはない。
ここは、自分の存在を認めてくれない街。幼い頃に逃げるようにこの地を離れた時、自分はこの国に拒まれたのだと強く感じた。
ギアだから。人ではないから。そんな理由から、何の害意もない者の存在を認めない街など、こちらから願い下げだ。シンはそう、胸中で吐き捨てる。
店内の喧騒や市場の賑わい、走り回る子供の歓声……どれもこれも、イライラする。
シンは長い旗を倒して狭い店の扉をくぐり、外へと出た。太陽はいつの間にか、真上に鎮座している。市民のにぎやかさは収まるどころか、ますます活気づいていた。
さもうるさげに眉間に皺を寄せ、シンは目をすがめて周囲を見渡した。ソルの気配だけを探りたいのに、街の人間が多すぎて方向が絞れない。うるさい黙れ、そんな悪態をつきながら、シンはしばらく周りを見つめた。
……なんとなく、こっちのような気がする。ただの直感で根拠などないが、シンは左の方へと顔を向けた。
シンがソルと同様にギアであることから、近い距離ならば「仲間」だと気配で認識できる。その独特の感覚を拾おうと、シンは周囲の音を意識下でシャットアウトして目を閉じた。
左目はまぶたを閉じても、太陽の光で透けた血管の色でほの赤い色が見える。だが眼帯で封じられた右目は、完全な闇だった。
その暗闇の中で探るように眼球を動かし、シンは周囲を「視」る。何度か右へ左へとさ迷ったあと、遠くで赤く灯る小さな光を見つけた。
――――居た!
シンはパッと目を見開き、すぐさま身を翻した。比較的離れた場所だったので、その距離感を忘れないうちに走り出す。
ソルが居る位置を目指し、シンは人通りの多い道をかき分けて進んだ。ぶつからぬよう人を避け、時々押しのけ、先を急ぐ。
そうして角を曲がり、裏道へ入ったところから途端に人通りが減り、進行を妨げるものがなくなった。シンは機を得たりとばかりにスピードを上げ、歩幅を広める。風が顔を叩き、旗をたなびかせた。
何度も道を曲がり、細い道へと入っていったシンはソルの気配が近づいてきたことに、表情を輝かせる。
だが、もうずぐそこだと思い、道を曲がった瞬間だった。
「ぅわッ!?」
「――っ!」
曲がり角の向うから現れた人物に、シンは思い切りぶつかった。
ヤバイ!と接触する寸前に気付きはしたものの、既にスピードに乗りすぎていて止まれる状態ではなく、正面から激突してしまっていた。
後ろへ吹き飛ぶように尻もちをついたその相手に、バランスを崩したシンは伸しかかるように倒れ込む。
「ごめ…ッ、悪ィ! 大丈夫か!?」
痛みに顔をしかめつつも、シンは顔を上げ、すぐさま体を浮かした。大きなローブを羽織り、白いフードを被った相手は体の線など見た目では到底分からない格好だったが、体が当たった時に華奢な印象を受けたので、自分の体重で潰してしまいかねないと感じたのだ。
だが、全力で体当たりしてしまったのに、相手はさほどダメージを受けた様子も見られず、それどころか――フードの下から覗く口元が、笑っていた。それに気付いたシンは、驚きに目を見開く。
「……このくらい、大したことはありませんよ」
そう言い、相手は何事もなかったかのように淀みなくシンの下から体を退き、立ち上がった。
男と分かる、低めの声。しかしそれは凛としていて、不思議と真っ直ぐに空気を貫く音だった。
「――!」
この声、どこかで……。
瞬間、シンは自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。相手の素性も知れず、特に明確な意識はなかったのだが、ひどい胸騒ぎに襲われた。
この男は、自分の根底に関わる何かだ、と。
呆然とするこちらをよそに、男はローブの埃を払って、片膝をつくシンを見下ろした。そして、笑みをたたえたままの薄紅い唇を、ゆっくりと開く。
「もう少し、周りに注意を払いなさい。……でも、元気があるのは良いことです」
「――お、前…ッ」
淡々と、だが慈しむような、ひどく優しい声音で言葉を掛けられた。思わずシンは何かを叫ぼうとして、しかしそれ以上言葉にはならず、口を開いたまま硬直する。
お前は、まさか……!
胸中で悲鳴のように叫ぶが、実際に声にはならなかった。喉の奥で引っ掛かるそれを吐き出そうと、シンが懸命になっている間に、その男はするりと横を通り抜け、別の路地へと入っていってしまう。
「待……ッ!」
なんとか吐き出した制止の言葉だったが、まるで幻であったかのように、既に男の姿は跡形もなく消えた後で意味を成さなかった。気配さえ掻き消えた角を振り返り、シンは腰を浮かせたまま動きを止める。
まるで目の前を舞って行った木の葉のように、唐突で呆気ない遭遇と別れにリアクションする暇さえなかった。
4年ぶりに再会した、実の父親だというのに。
いくらここがイリュリアといえど、まさかこんな裏路地でしかもあんな格好で一人で行動しているなど、普通はあり得ない。シンの実父であるカイ=キスクは、イリュリア連王国の国王なのだから。
しかしあの声と気配は、シンが幼少の頃に見た父親のものと一致していた。……いや、記憶自体はさほど鮮明ではなかったが、何よりもそれを超えた直感が、彼が父だとシンに知らせていた。
「一体……何だってんだよ」
言いたいことは山のようにあった。だが、目の前にした途端、何も言葉が出なかった。そしてカイもまた多くは語らず、あっという間に去ってしまった。
元気でよかったと……慈愛の言葉はあれども、まるで他人のように接した父に対して、今更ながらシンはふつふつと怒りを沸かせる。
結局、息子よりも臣民かよ……!
王の立場ばかりを優先して自分をないがしろにしていたカイを思い出し、シンは盛大に顔を歪めた。
「……なんで、ここにいる」
「! オヤジ……ッ」
苛立ちながら腰を上げたところで、向うの路地からソルが姿を現した。ソルの気配を追ってここまで来たのに、一瞬ソルが現れたことにシンは動揺する。予想外の人物と出会ってしまったことに気を取られて、失念していた。
慌てて少ない荷物を拾い上げ、シンはソルに近づいたが、何故か不機嫌そうな顔で迎えられた。
「俺が戻るまで、食堂で待ってろって言ったはずだが……」
「……え! マジッ!?」
盛大なため息とともに告げられた言葉に、シンは愕然とする。そんなの聞いてないぞと反論しようとして、そういえば前菜のパスタに舌鼓を打っていたとき、何かソルが言っていたような気がする……と、シンはおぼろげに思い出す。その時は料理の旨さに意識がトリップしていたので、何を言っていたかは全く思い出せないが……。
断腸の思いで料理を残してソルを追ってきたというのに、ただの自分の空回りだったとは!
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよォ!」
「だから、言ったっつったろーが」
呆れ果てたように、ソルが絶叫するシンを半眼で見つめる。しかしそんな呆れの眼差しなどよそに、シンはうわー、勿体ないことしたー!と頭を抱えた。今頃食堂に引き返したところで、もう料理は片付けられて残ってはいまい。
「おい、さっさと行くぞ」
うんうん唸るシンの横を無情にも通り過ぎ、ソルは歩き出す。それに、待ってくれよと言いかけて、シンはつい先ほど同じ場面を繰り返したことに気付いた。
カイが現れた路地から、ソルもまた、同じように現れた。つまりそれは、二人が会っていたということではないだろうか……?
「待てよッ、オヤジ!」
「……ぁあ?」
突然、怒ったように声を張り上げたシンに、ソルが怪訝そうに振り返る。これだけの近距離で、シンとカイが接触したことに気付かないなど、感覚の鋭いソルにはあり得ないことだ。知っていながら空とぼけるソルに、シンは苛立って叫んだ。
「俺は、イリュリアの手先になるつもりはねぇからな! 今回の賞金首、どうせアイツが絡んでるんだろ!?」
そうだ、カイが意味もなくソルと会うはずがない。大方、賞金首を狩るようにソルに頼んだのだろう。だからソルはシンが嫌がっているにも関わらず、この地にやってきた。
「……何の話だ」
「とぼけんなよ! どうせアイツに……カイ=キスクに頼まれたんだろ!」
無表情で問い返すソルに、シンは旗をゴツ!と地面に打ちつける。ソルのカイをかばうような言動が腹立たしかった。
ソルはシンがどんなにカイを嫌い、罵倒してもそれを肯定した試しがない。強い否定もないが、少し不機嫌そうになることから、ソルはカイを認めているのだろう。それがシンには、癇に触って仕方がなかった。
だから余計に許せない。カイがソルをいいように使っていることも、それをソルが容認していることも。ましてや自分の国に都合の悪い者の始末を、ソルと息子のシンにさせるなど、国王としても父親としても恥ずべきことだ。
シンの燃えるような眼光を放つ碧眼に、ソルはごまかせないと感じたのか、少し顔をしかめて息を吐いた。
「……気付いたのか」
「さっき、ぶつかったからな。気配と声で分かった。なのに……俺なんか目もくれずに、どっか行きやがった……!」
ソルの短い問いかけに、シンはそう吐き捨てる。それに、ソルは意味もなく逆立った頭を掻き、しばし逡巡した。
「……確かに今回の賞金首は、坊やの…カイの都合もある。だがどちらにせよ、裏で暗躍してる凄腕のスナイパーだ、各国から指名手配されてる。いまだに顔が割れてない分、難易度は高いが文句なく高額の賞金首だ」
「金額の問題じゃねぇよ! なんで俺達が、アイツの尻拭いなんかしてやらなきゃならねぇのかって話だっ」
もはやシンには、ソルの言葉は言い訳にしか聞こえなかった。そしてシンは、カイの助けになるであろうことは一切したくなかった。ソルがどう理屈をつけようとも、憎んでいる相手にどうして協力など出来るだろうか。
シンの怒りに満ちた表情に、ソルは沈黙する。互いに睨み合ったまま、しばらく静寂がその場を支配した。
そうして油断ならない目で睨み据えるシンだったが、不意に吐き出された、ソルの大きな溜息によって沈黙は破られる。
「……わかった。じゃあテメェは、何もするな」
「え……?」
ソルが如何にも面倒そうな顔つきで、突然そう告げた。それに、思わずシンは怪訝な顔をする。
とっさに意味が分からず、眉をひそめてシンがソルを見ると、ソルの赤い両目がこちらをまっすぐに射抜いた。渋々といった態で、ソルは噛み砕くように言葉を重ねる。
「闘いのうえでは後学に適してるだろうから、ついて来い。だが、見るだけだ。お前は何もするな」
「! な、なんだよ、それ……。お、俺だって頼まれたって、手助けなんかするかよ!」
何もするな。そう言い放ったソルの意図を計りかねて、シンは若干動揺したまま、売り言葉に買い言葉のような反応で肯定していた。
大声で言い放った自分の言葉に思わず、あ…と内心戸惑うが、既に後の祭りだ。
ソルはシンの返事に、軽く鼻を鳴らして口端を上げた。
「なら、ついてこい。そろそろ奴らが動く頃だ」
「え……、あ、ちょっとッ!? どこ行くんだよ!」
シンの叫びなどまるで無視して、ソルが背を向けて歩き出す。慌ててその後を追いながらも、無理矢理丸め込まれた感が否めず、シンは釈然としないまま走り寄った。
何もするなとは、一体どういうことだろうか?
手を貸さないことに関しては、自分もそれを望んでいるので構わない。だが、それに釘を刺すソルの真意が分からなかった。
これから、何が起こるのだろう……?
漠然とした不安を抱えながら、シンはソルについて暗い路地裏を後にした。






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