剣士と白魔道士






「グキャァァーッ!」
灼熱の炎に包まれ、巨大な竜が悲鳴をあげた。既に致死量の手傷を負っていたために、その攻撃は死を決定させる。照りつける太陽さえ霞む爛々とした紅の焔に全身を焼かれ、竜は鱗が爛れ落ちる痛みにのたうちながら呪詛めいた恨めしげな視線を男に投げ掛けた。
しかし金色に輝く禍々しい視線に射抜かれた男は、その敵意に嘲笑を浮かべるだけだった。傍らに立って断末魔をあげるそれを楽しげに見つめる双眸は、燃え上がる炎と同じく真紅。深みを帯びているがために血色にも窺える瞳を細め、男は成功した魔法の威力に満足げな色を見せた。
「まあまあ使えるか」
尊大な賛辞を呟き、男は抜き放っていた剣を鞘に納める。剣士を生業とするその男は本来魔法を使えないはずだが、一部の魔法は道具屋で魔法書を買えば習得が出来る。使える魔法は基本的な数種類程度だが、マスターしておいて損はない。
一般人でも使う者が少なくないくらいに普及している火の魔法なので、さほど威力には期待していなかったのだが、魔法の面での素質は悪くなかったようだ。実際に試してみて、それなりの火力を発揮した。初めて魔法を放つ感触に爽快感を得て、魔法に憧れて魔道士になる者が後を絶たない理由を理解する。
実験台にされた竜は既に跡形もなく焼失していた。元の穏やかな草原に戻ったところで、男は高い位置で結わえているダークブラウンの長い髪を翻して背を向けた。
既に対等に渡り合える冒険者も魔物もいなくなったその男――ソル=バッドガイは、いつも通り一人で古巣へと帰る。ギルドから正式にエリアマスターの称号を得ているので、一応その区域の問題はソルの管理するところによった。面倒と思う反面、そうした仕事がないと誰ともコミュニケーションを取らない自分を知っているので、ソルは今のところその役職に甘んじている。






スラムに近い、荒んだ雰囲気を醸し出すその街は冒険者の中でも特に荒くれ者が寄り付きやすいところだった。しかし日頃から騒動が起こるわけではない。大半の者はルールを心得ているため、その荒廃した雰囲気に当てられることなく、逆にくだけた態度で楽しむことが多い。そして何より戦闘の熟練者が多いのがこの街の特徴だろう。情報屋や危ない橋を渡る武器屋が多く潜んでいる、所謂穴場であるためにそれなりに腕に覚えのある輩が集う。
しかし魔物を狩る腕に問題のない冒険者が多い反面、街の入り組んだ構造に道に迷う者が多い。当初はソル自身も何度となく迷い込んで目的地に行けず終いということがあったが、今ではすっかり教える側の立場になっている。エリアマスターとしての仕事は殆どがこの道案内だというのは、少々間抜けな事実かもしれない。
しかし情報収集も兼ねて酒場の方へと足を向けたソルの行く先で、ちょうど「迷子」らしき人物が細道でうろうろしていた。さっそくお仕事である。大した事ではないが、やはりこういう役割を担う者がいなければ困る者が出るのも事実だ。
途方に暮れた様子で周りを見渡すその迷子に、ソルは靴音を立てて近付いた。死角から近付いたつもりはないが、白い頭巾を頭からすっぽり被ったその人物はこちらに気付く気配は一向にない。余程気が動転しているのかもしれない。
スカートに似た長いローブに、飾りを施した十字架のような杖を手に持っていることから、その人が白魔道士であることは遠目からも明白だったが、この街にはあまりいない職種の人間なのでソルは物珍しさに目を細めた。この街は冒険者にとって有益な情報やスキルが多いが、それは剣士や拳闘士、盗賊といった職業に偏っており、魔法使いのほとんどは素通りしていくことが常だ。修得できる魔法にも魔法アイテムにも事欠く事実を、もしかするとこの迷子は知らないのかもしれないと思いつつ、ソルは白魔道士に声を掛けた。
「おい、そこの白い坊や。迷子か?」
「ぅわ……!?」
驚かさないようにと思って一応声を抑えたのだが、その人物は十分驚いてしまったらしい。声を挙げ、慌ててこちらに向き直ってきた。
体の動きに合わせて揺れ動く金の髪が、真っ先にソルの目についた。次いで、白い肌にエメラルドの瞳を備えた端正な顔が、鮮やかな陽光を受けて浮き立つ様が網膜に焼き付けられた。綺麗な顔には見慣れたはずのソルだが、それでも眩しさを感じる。
杖をしっかりと握ったその白魔道士は明度の高い碧眼でこちらを真っ直ぐに射抜いてきた。
「えっ…と。な、なんでしょうか……?」
警戒心いっぱいな固い声だが、同時に声を掛けられたことに安堵しているのか目線は揺らぐことがない。その翡翠の瞳を紅蓮の瞳で見返し、ソルは特に面倒くさがらずに言葉を返した。
「坊や、迷子か?って聞いたんだが」
「え、あ……そ、そうです。この街に初めて来るので……迷ってしまいました」
正直に告白し、その白魔道士は苦笑いをこぼす。淡く色付いた唇から漏れたその声は見た目から想像したものより低く、可憐な少女かと思っていたがどうやら青年だったらしい。そういえばソルよりは低いものの身長がさして変わりない。
上背はあるくせに体の線は細く、白いローブが余っている感が否めないその華奢な男を眺め回して観察してから、ソルは顎をしゃくって行き先を聞いた。
「どこに行きたいんだ?」
「あ、はい。えっと、この街で一番大きな酒場で待ち合わせをしているんですが……何処にあるかご存知ですか?」
常人より比率の大きい目をくりっと向け、男は緊張の解けた様子で素直に聞いてくる。ソルは容貌や無愛想な態度で強面に見られがちであり、尚且つ本人も話しかけられる鬱陶しさからそのような態度を進んで取っているため初対面の相手にはあまり快く受け入れられないのだが、この男はソルに好感を持ったらしい。いや、ただ単に道案内をしてくれそうな人が現れたから、わらにも縋る思いなのかもしれない。
何にせよ、この迷子に道を教えてやらねばならない。ソルは男の言葉に、ああそれならば、と頷いた。
「行き先が同じみてぇだな。目的地まで一緒に行くか」
「え……?」
一応親切心でそう言ってやったのだが、男は不審げな声をあげてこちらを見つめ返してきた。その反応に、遅ればせながらソルは自分が不用意な発言をしたことに気付く。道案内の振りをして恐喝や暴行をする輩がたまにいて最近事件になっているのだ。男はその可能性に直ぐ様思い至ったのだろう。
そんなつもりは全くないのだが、焦って弁明するのもなんだか白々しいし、面倒だ。エリアマスターであることを明かせば一発で信頼を得られるだろうが、エリアマスターの座を狙う者も多く、あまり公にできない。この世界は魔物ばかりが敵ではないのだ。
色々と思考を巡らせるが、途端に面倒くさがりの悪癖が首を擡げてきたソルは溜め息を一つつき、興味を失ったようにその男に背を向けた。
「信じる信じないはテメェの勝手だ。嫌ならついてこなくていいぜ」
「え、あ……!」
さっさと酒場に向けて歩き始めたソルに、男は慌てた声をあげる。迷っているらしい気配が背後で窺えたが相手をわざわざ待ってやるつもりはなく、ソルは容赦なく歩を進めた。すると僅かながらの逡巡の後、男は弾かれた様にばたばたとこちらにへ走ってきた。
「ちょっと…待ってください! あの、別に、疑うつもりはなかったんですっ」
こちらが怒ったと思ったのだろう、必死な形相でそう言い、追い縋る。足を止めぬまま、ソルは背中で受けたその声に呟きを返した。
「疑うのも、ひとつの賢い防衛手段だろう。俺は別に何とも思っちゃいねぇし、テメェで勝手に判断しな」
ソルは突き放した物言いで、その男に判断を委ねた。こちらの言葉を信じようが信じまいが、それはソルにとってはどうでもよいことだ。
無愛想な態度に印象を悪くして男は足を止めるか、もしくは判断に迷うだろうと思われたが、躊躇いがだった足取りが一転し、走ってソルに追い付いてくる。
意外に思って隣に並んだ男をみると、端正な顔で微笑まれた。
「案内、お願いします」
「……ま、好きにしな」
人懐っこい、だが精巧で完璧な笑みにやや眉を寄せ、ソルは投げやりな調子で呟く。その笑顔に落ち着かないものを感じて、反射的に不機嫌な声になっていたが、男は特に気にする事なくソルの足取りに合わせてついてきた。大体はソルのような無愛想な者は好まれないのだが、男はそうは思わなかったようだ。
意外に図太い神経の持ち主らしい。いや、それとも天然だろうか。白魔道士のような回復を一手に引き受ける職業につくものは大人しくて内向的なタイプが多いのだが、男はそれには当て嵌まらないようだ。見た目はいかにも物静かな聖職者といった感が否めないが、処世術は身につけているらしい。
蛇の如く細い曲がりくねった、非常に分かりづらい道をただ黙々と歩くソルに、男は煩く話し掛けることなくぴったりと後をついてくる。男は、ソルが話し掛けられるのを嫌うことに気付いたのだろう。機嫌を損ねさせないように気を使い、そして本当の意味で偽ることのないソルを選んだという点で、観察眼に長けていることが伺える。
なかなか長生きしそうな人材だと内心で感心しつつもソルは無表情のまま、街で一番大きな酒場へと辿り着いた。
「……ここだ」
端的にソルがそう呟くと、男は酒場を一瞥してからこちらへ向き直り、鮮やかな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」
女に見紛う美貌を惜し気もなく満面の笑みに乗せ、男は礼を言った。日と月の光彩を紡ぎ合わせたような、芯まで澄み切った髪を柔らかく揺らし、軽く頭を下げる様は上品でありながら嫌味な感じは一切しない。この荒れて薄汚れた街でこのような清廉さは浮きそうなものだが、この男は不思議と悪目立ちすることなくそこに存在している。
もしかしたら、この眼のせいかもしれない。ソルは自身の紅蓮の瞳と彼の蒼碧の瞳を絡み合わせながら、ふとそう思った。
その瞳の青は、鮮やかな空の色でもなく煌めく海の色でもなかった。例えるならば、月明かりだけに暴かれる、青みを帯びた静寂な闇の色だ。満月の光が真っ暗なはずの夜に『影』を作り出す、そんな陰影の中に見る、更なる陰影。それは確か自分の記憶の中で最も美しいと思える、濃厚な『青』だった。
それによく似た色を、この男は持っている。澄んだ空気を纏っているように感じるのは、そのせいだろう。魅入られそうなその絶妙な色合いに知らず機嫌良く笑みを口端に浮かべるが、そのことに気付いたソルは殊更素っ気なく手を振って誤魔化した。
「じゃあな。まあせいぜい死なねぇように頑張りな」
「はい、ありがとうございました」
ぺこりと金髪の頭を下げ、男は丁寧に礼を述べる。それにソルが背を向けて歩き出すと、背後の気配もまた駆け足で遠ざかって行った。
酒場の扉が遠慮がちに開かれ、ぱたんと閉まる音を聞き、ソルは歩を緩めて息をつく。
「さて、これからどうするかな……」
とりあえずエリアマスターとしての道案内は果たしたので、ソルはこれからやるべきことを考えて、痒くもない頭を掻いた。
先程、習得した魔法の威力は試したばかりだし、これ以上自分より程度の低い魔物を倒しても意味はない。装備の方も希少価値の高い物を揃えているので、コンディションは問題ない。
あとは、最強の仲間を手に入れることくらいだろう。
……それが完璧に揃えば、ヤツを倒せる。
ソルはヘッドギアの影に埋もれる鋭い瞳を光らせ、冷たく笑んだ。
「そのためにこんな茶番に付き合ってんだ。しっかり礼はさせてもらうぜ……」
今はいない人物に向けてソルは低く呟き、喉の奥でくつくつと笑う。そうして、別の路地へと足を向けようとしたソルだったが、背後の酒場から聞こえてきた怒声に、動きを止めた。
「…ンだぁ?」
一方的に喚き散らすような数人の男の声が酒場から響くのを、ソルは眉を顰めて振り向き見やる。先程の男を見送ってからしばらくもしないこのタイミングに、ソルは何かあまり良くない予感を抱いた。
その確信を強めるように次の瞬間、一人の男の罵りが耳に入る。
「あーあー、わざっわざテメェを置いてきたってのによ! 戻ってくるなんてバカじゃねぇ!?」
憤ったように大袈裟に叫ぶその声は、酒場から外まで響き渡った。そして同時に、何かを蹴り飛ばしたような激しい打撃音とグラスの砕け散る音がし、きゃあッと女の悲鳴があがる。途端に、どよめきが酒場中に広がっていった。
ソルは躊躇っていた足を完全にそちらへ向け、速足で歩き出した。その行動に自分でも驚くが、止める気は起こらない。気になるものは、この目で確かめなければ気が済まないタチなのだ。
それに今は特別優先するべきことがあるわけではないのだから……と言い訳じみたことを考えつつ、ソルは来た道を引き返して酒場へ向かった。
秘め事を隠すかのように据え付けられた頑丈な扉を開くと、陰気な雰囲気を醸し出す暗いバーが、目の前に現れる。古びた木製の建物に、無造作に丸テーブルと椅子がいくつか置かれただけの飾りけのなさだが、広さだけは十分にあった。そして冒険者の情報交換の場所として活用されるだけあって、人の多さも半端ではない。
酒を飲んだり談笑したりと思い思いのことをしている人々の中で、その騒ぎはすぐに目についた。周りの人も何事かと、そちらに視線を向けている。
まさかな…と思いつつもソルが懸念していた通り、遠巻きにされている騒ぎの中心には、先程の白魔道士と他の冒険者達が居た。白魔道士の言から察するに、対峙する男達は仲間の冒険者達のはずだが、彼らは一様に嫌悪の眼差しで白魔道士を睨みつけている。
「てめぇ……あんな反則技やっといて、ノコノコ顔出すんじゃねーよ! 俺らまで同類扱いされンだろがっ」
「そうだよ。まさかあんな無茶な改造してるなんて、こっちだって思わなかったんだから! 仲間にする件はナシだからねッ」
盗賊の男と聖騎士(パラディン)の女が、かなりの剣幕で口々に叫んだ。それに怯えるように、白魔道士は後ずさって距離を取る。その足元に転がっている酒樽は、恐らく最初に怒鳴られた時に蹴飛ばされたものだろう。
突然の騒ぎに周りの人々も驚いているようで、視線を集めていた。好奇心と敵意の眼差しに晒され、白魔道士の青年は眉尻を下げてうつむく。
「不愉快な思いをさせて、すみません……。でもあれは……私がそうしたのではなくて、勝手に……」
「勝手にあんなことになるなんて、それこそないに決まってるでしょッ!? あんた、いい加減にしなよ!」
青年の小さな反論に、女聖騎士は噛みつくように鋭く叫んだ。その剣幕に青年は慌てて口をつぐむ。
ことの原因は部外者のソルには窺えないないが、話の流れは大体分かった。ソルは野次馬と化している他の冒険者の合間をぬって、青年の背後に立つと会話に割って入った。
「要は、あんたらはコイツを仲間から外したい……ってことだろ?」
「なんだ、テメェ…ッ!?」
突然現れたソルを睨みつけ、盗賊の男が声を荒げる。盗賊と女聖騎士の後ろにいるエルフ族の男や妖精の少女も、難色を示す表情を向けてくるが、ソルは構わず続けた。
「話がまとまんねぇようだから、仲裁に入ってやろうと思っただけだ」
「余計な世話だ! 偽善者ぶった部外者は引っ込んでろッ」
ソルの平静な言い分が頭にきたのか、盗賊の男は口汚なく罵った。周囲の野次馬も一部は盗賊の男に同調したのか、「ヒーロー気取ってんじゃねぇよ、うぜぇな!」等とソルに好き勝手な言葉を投げつけてくる。
周囲も巻き込んで一気に騒然となるのを、ソルは肩をすくめて受け流すが、青年はこういった誹謗中傷の嵐に慣れていないのか、戸惑った様子で隣のソルを見上げた。さほど身長差はないものの、サファイアのような目で不安げに見つめられると落ち着かないものがある。
ソルは軽くため息をついてから、盗賊の男と女聖騎士を順に見つめた。
「改造とか聞こえたからな。規律違反なら上に報告するのが筋ってもんだろ。この辺りは一応、俺の管轄だしな」
「……!」
如何にもだるそうな態度で、首をゴキリと鳴らしながらソルがそう言うと、女聖騎士が表情を変えた。こちらの、暗に言わんとすることが分かったのだろう。
震える指でこちらを指し、女聖騎士が叫んだ。
「あんた……、もしかしてこの街のエリアマスター!?」
「察しがいいな。……ま、そういうことだ」
わざとほのめかしたのだが、白々しく相手に華を持たせてソルは薄く笑う。肯定の言葉に、今度は違う驚きで周りがどよめいた。
エリアマスターはそれぞれの街や区域の守護者的存在で、腕の立つ良識を持った冒険者にギルドから正式に与えられる地位である。ソルは一匹狼なうえに口も悪いが、ギルドの掲げる掟を破るような真似は一切していない。また能力も群を抜いて高かったため、この称号は当然といえた。
ソルがこの街で一番の腕を持つと分かり、盗賊の男と女聖騎士は苦い顔をして押し黙る。一対一での決闘は証人さえいれば冒険者同士でも可能であるため、下手に喧嘩を売れば痛い目に遭う相手だと思ったのだろう。
確認するように、二人の目線はソルの首元をから下へ降り、腰の辺りで止まった。通常は星形のネームプレートがついたドッグタグがエリアマスターの証明となるが、ソルが首ではなく腰のベルトに引っ掛けていたためだ。
緊張の面持ちで睨む二人に、しかしソルは姿勢を崩して気楽な構えを取った。
「とりあえず、仲間として認められるのは両者が合意した場合においてのみとされてる。つまり、アンタらが気に食わないってンなら、この白魔道士をパーティから外すのは一向に構わないってことだ」
分かるよな?と、ソルは気のない表情のまま片眉を上げて問い掛ける。すると、盗賊と女聖騎士達は一瞬戸惑ったものの、慌てて頷いた。
肯定の意を確認してから、今度は白魔道士の青年を見下ろし、ソルは顎をしゃくった。
「つーわけで、お前はコイツらのパーティから除名だ。登録を外せ」
「……!」
さらりと告げた命令に、白魔道士が大きな目を丸くする。裏切られたような、傷ついた表情を浮かべたものの、それも一瞬で抑え込み、青年はうつむいた。
「……その通りですね。合意のうえで成り立つものを、私は……。すみませんでした、今すぐパーティから外れます」
ゆっくりと顔を上げ、申し訳無さそうな頼りない笑みを浮かべて青年はソルに同意した。その、平静を装いながらも泣き出しそうな表情は、何故かソルを内心動揺させる。
正当な仲裁を行っただけだ、そう思うものの、ソルは後味の悪さを拭えなかった。
「これ……お返しします」
皆が見守る中、青年が懐からパーティプレートを取り出して盗賊の男に差し出す。それを男はひったくるように奪い取り、口端をつり上げた。
「ハッ、これでおさらばだな!」
吐き捨てるようにそう言い、女騎士と顔を見合わせて笑う。
その様子を見て、眉尻を下げていた青年は無言のままくるりと身を翻して、バーの外へと歩いて行った。
「……」
ソルはその背を、無言のまま見送る。既に事は治まったと、青年に見向きもしない冒険者達だったが、ソルは青年が見えなくなった後も、しばらく考え込んでいた。
仲間から外したいと、パーティの大半が主張するなら、それは除名するのが正しい判断だ。だが、どうも青年の言動を見ていると引っ掛かりを感じる。
……もしかしたら。
ふと、ソルはあることに思い当たった。それはあくまでも憶測でしかなかったが、可能性がないとは言い切れないことだった。
「……追うか」
ソルは、また元の騒がしさを取り戻した酒場を後にした。







溜息をつきながら歩く、白いローブの背中は心なしか小さく見えた。
ソルが人ごみの多い通りでも誰にぶつかることもなく、一直線にそちらへ向かっていくと、時々足を止めてぼーっとする青年にはすぐ追いついた。
「おい、白い坊や」
「っわ……!?」
出しぬけに真後ろから声をかけると、青年は飛び跳ねるような勢いで驚く。慌ててこちらへ向き直った青年はソルの姿を認め、目を丸くした。
しかしすぐに、その蒼眼は歪められて下を向く。
「ギルドに通告……ですか」
先程のやり取りで、ソルが青年を捕まえに来たのだと思ったらしく、青年はどこか諦めたように息を吐いた。だがソルは即座に首を振って、それを否定する。
「いいや。俺が個人的に、お前と話してみたかっただけだ」
「……私と?」
ソルの言葉に、青年が不審そうな顔をする。すでに先程のやり取りで、あまり好意的には捉えられていないのか、その端正な表情は曇って見えた。
まあ、快く思われない状況に持って行った事実は否めず、ソルは間を持たせるように頭を掻く。
「さっきは、吊るし上げみたいなことになって悪かった。ただ、ああでもしないと収拾がつかないもんでな」
「……ええ、それはそうだと思います。特にあなたはエリアマスターなのですから、それが仕事です」
ソルの言葉に、青年は存外素直に頷く。ただ、やはりその表情はどこか冴えなかった。
そんな青年にソルは落ち着かない心地を味わいながらも、敢えて彼を沈ませている核心に触れる。
「お前が言われてた、『改造』ってやつ……実際にどうなってんのか、見せてくれねぇか?」
「……! それは……」
ソルの申し出に、青年の顔が驚愕に染まった。だがすぐに警戒の色にとって代わり、こちらを窺うように青い目が細められた。
「私は……その、本当に何もしてないんです。ただいつの間にか、ああなってただけで……」
言い訳をするように、だが自分の無実を信じてほしいと目で訴える青年を、ソルは無表情のまま遮る。
「それが本当かは、今の段階じゃ判断できねぇ。だから、見せてくれって言ってんだ」
「……」
ソルがそう強く促すと、青年はしばし逡巡してから、小さく頷いた。揺れ動く白いフードを見つめ、ソルは親指で街の外を差す。
「表に出た方が分かりやすいか? 今の状態からだと……特に変わったところも見られねぇし」
「……はい。街の外で戦闘を行ったときに……よく分かると思います」
青年は徐に顔を上げ、ソルの問いに答えた。覚悟を決めたのか、迷いを見せる仕草は消え、こちらを真っ直ぐに射抜く。
深い色合いの碧眼に見つめられ、一瞬鼓動が高鳴ったように感じたが、ソルは気のせいだということにして、振り払うように青年に背を向けた。
「……んじゃ、あっちの門から出るか」
先を促し、さっさとソルは歩き出す。その後を、青年は不平を漏らすことなく無言でついてきた。
人通りの多い道を抜けて門をくぐり抜け、眼前に広がった青々とした草原を認めてから、ふとソルは忘れていた事柄に今更ながら気付いた。
「そういや、パーティ登録してねぇな。完全に忘れてた」
「……わざとじゃ、なかったんですか」
ソルががりがりと頭を掻きながら呟くと、青年が若干驚いたような顔で訊ねてくる。野外戦闘を行うなら、成り行き上のメンバーでもパーティを組んでおいた方が有利だというのは、確かに常識的なことだった。
とはいえ、別にソルもわざと忘れていたつもりはない。あまり普段、自分には関係のないことだったので、失念していただけに過ぎなかった。
「俺、今までに片手で数えるくらいしかパーティ登録したことねぇんだよ」
「え……っ?」
腰のポシェットからパーティプレートを引っ張り出しながらソルが言うと、青年は意外そうな顔でこちらを見てきた。ギルドから認められるほどのレベルにまで到達している戦闘能力を持っていながら、今までパーティ登録をほとんどしていないというのは珍しいを通り越して、おかしいと思ったのだろう。
青年はううーんと唸ってから、フードの合間からこちらをチラチラと見上げてきた。
「……ええっと……縛りプレイ、というやつですか?」
「俺がオカシイ奴、みたいな言い方はヤメロ。単に人数が多いと分け前が減るから、嫌だっただけだ」
若干哀れを含んだような眼差しにうんざりしながら、ソルは青年の言葉を即座に否定した。ソルの言い分を理解してか、青年は顔を赤くして慌てて頭を下げる。
「すみません! し、失礼なことを言いました……!」
「いや、別にンな謝らなくていいけどよ。……とりあえず俺中心でパーティ組むから、これにテメェのステータス入れてくれ」
ソルが銀色に光るプレートを差し出すと、青年は顔を上げてあたふたとそれを受け取った。時々プレートをひっくり返したりしながら、少し危うげな手付きで懸命にそこへプロフィールを刻んでいく。
書き終えると、青年はふとこちらを窺うように見つめてきた。
「あの……これ、どうぞ」
「ん」
こちらの反応に怯えているような、その縮込まった態度を怪訝に思いながらも、ソルは表情を変えぬまま差し出されたプレートを受け取った。
そして、何気なくステータスに目を通してしばし……ソルは硬直した。
「レベル……99、だと?」
思わず唸るような声で、そこに書かれていることを口に出す。ソルの呆然とした様子に、青年は居心地悪げに身じろぎした。
全く場慣れした感のない青年の態度を見て、まさか最高レベルだとは誰も思うまい。……いやもしかすると、これが疑いをかけられる原因だったのではないだろうか?
そう思ってソルが少し目線が下の青年を見やると、彼はこちらの心情を読んでか、慌てたように首を振った。
「いえ、それは本当に真っ当なものです……! 何年か前は頑張ってたんですが、それから全くやらなくなり……。つい最近、思うところあってまた冒険者を始めたところなんです」
「……」
青年の必死な弁解に、ソルは顎に手を当てて考え込む。
レベルが最高クラスなことも驚きだが、よく見ればステータスには白魔道士と明記されている。転職をして扱える技と魔法を増やしていくのがスタンダードなやり方である世界で、基本職業のままというのはこのレベルにおいて、奇跡に近かった。
そしてこれらの条件は、ソル自身と全く同じだ。
「なるほど……”イレギュラー”か」
「……え?」
ソルの呟きに、青年はきょとんとする。だが、ソルは自分の推測が確信に近付き、口端を上げて笑みを返すだけだった。
「おい、坊や。とりあえず、あそこの獲物を狩りに行こうぜ」
「あ、はい。……って、その坊やって呼び方、いい加減やめて下さい!」
太陽の照った草原の向こうにある岩場で見え隠れする大きな影を差してソルが言うと、青年は今更ながら不満気に呼び名の訂正を求めてきた。
言われて、ソルは再びパーティプレートに視線を落として、刻まれた名を読み上げる。
「カイ」
「そうです。カイって言います」
「……坊やでいいだろ。面倒くせぇ」
「ちょっとッ!?」
ウゼェとぼやきながらプレートをしまうソルに、青年――カイが咎めるように叫び声をあげた。だが全く無視で、ソルは岩場の方へと歩いていく。
この付近に出没する敵は、街の近くといえどもそれなりに難敵が多い。岩場から頭を覗かせる魔物は、さきほどソルが魔法の試し撃ちにした竜と同種のようだった。
ほどほどの強さだからちょうどいいだろうと思い、近付いていくソルを、不意にカイが引き止める。
ローブから伸びた白い手が、擦り切れたマントを掴んでいるのを見、ソルは振り返ってカイを見下ろした。
「なんだ?」
「あなたの名前、聞いてません。パーティプレート、ください」
「……ああ」
忘れてた、と呟いてソルは自分のプレートのコピーを、カイに投げて寄越す。銀に輝くそれを慌てて受け取り、カイは見つめた。
視線を落としてしばらく、沈黙したまま止まる。
「ソル………バッドガイ……ッ!?」
「偽名だ。いちいち驚くな」
「……随分、悪趣味ですね」
「ほっとけ」
カイが半眼でこちらを見つめてくるが、ソルはあくまで無視する。呆れた雰囲気など構わず、ソルは岩場へと歩いて行った。
「あ、ちょっと待ってくださいよ……ソルさん!」
置いて行かれそうになって、カイは叫びながら小走りで追って来る。
しかし白い頭がソルの隣に並んだと同時に、岩場から竜が頭を出した。間近にいる獲物を視界に入れ、金色の眼がギョロつく。
竜が不機嫌そうに、咆哮をあげた。
「オラ、おっ始まるぞ」
「は、はい!」
呼び掛けると、カイが慌てて杖を出して構える。ソルも剣を取り出そうとしたところで、竜は地面を踏み鳴らして急速に近付いてきた。
この竜は竜の中では小型だが、4足歩行で小回りが利く分、素早い動きが特徴の魔物だ。高レベルの盗賊でもない限り、ほとんどの者が先制攻撃を喰らってしまう。
最高レベルのソルでも反応できないが、最初に一撃もらったところで、ノーダメージだ。だが白魔導士となると流石に、かすり傷くらいは受けるだろう。
そう思ってソルは先にカイへ戦闘態勢を取るように促したのだが――、
「はッ!」
次の瞬間、信じられない光景が展開されていた。
あろうことか、俊敏に近付いて来た竜を、カイは杖で殴りつけたのだ。素早いはずの竜より、先に動き出して。
「何やってやがるっ!?」
思わず叫び、ソルはカイを振り返る。しかしカイはいたく真面目に、外すことなくカウンターを取っていた。
半瞬遅れて、竜の悲鳴があがる。慌ててそちらを振り返ると、カイに殴られた箇所が大きな裂傷となって刻まれていた。
「……!」
たかが、杖の殴打。しかしそれは、ソルの眼には致命傷にしか見えなかった。
一瞬の出来事で、竜がぐらりとよろめく。とっさに踏ん張って倒れるまでいかなかったが、今の一撃で完全に虫の息らしく、竜はよろめきながらこちらを睨んで来る。
牙の生え揃う口を開き、怒りに吠えた。
「ソルさん!」
「……あ!?」
「あなたも動けますよ!」
あまりに常識はずれな展開に呆然としていたソルに、カイが叫んだ。一瞬、言われた意味が分からずに顔をしかめたが、剣を持っていた手を動かしてみて理解する。
剣が、羽根のように軽い。大剣を振りかぶる動作は、まるで早送りの如く俊敏だった。
ソルはその感触に驚きながらも、一歩を踏み出す。周囲の景色が、矢のように流れていった。一足跳びに近付き、ソルは眼前の竜に剣を振り下ろす。
薙ぎ払った刃は、固い鱗で覆われた巨体をまるで紙の如く切り裂き、真っ二つにした。血潮きが上がり、竜の断末魔が響き渡る。
轟音を立てて、竜が地に倒れ込んだ。
「なるほどな……」
横たわり、動かなくなった竜を見下ろしながら、ソルは剣を収めて思わず呟く。
この現象は、まさしくソルがずっと求めていたものだった。
……やっと、見つけた。
ソルは込み上げる歓喜で、口端がつり上がっていくのを自覚した。長い間自分と同じ条件下の者を探していたが、正直そんな奇特な人間が見つかるとは思えなかった。
単身で挑むか否か決めかねていたところで、適任者が見つかるとは運がいい。
ソルが獰猛な笑みを浮かべたまま振り返ると、カイは尻込みするように顔を強張らせた。
「……こういう、ことです。何故か私は白魔道士でありながら、ステータスが戦士並みになっています。しかも、パーティを組んだ人にまでその影響が及ぶようなのです」
杖を握った手をだらりと下げ、カイが俯いて説明する。普通ならば一笑で伏されるようなことだが、それが事実であることはすでに先程の戦闘で証明されていた。
申し訳なさそうに告げるカイに、しかしソルは不敵な笑みで向き合う。
「これは、職業によるステータスの制限を取っ払う……パラメータ限界突破、だ。改造じゃあねぇし、お前の仕業でもない」
「……え?」
ソルの説明に、カイが驚いたように顔を跳ね上げた。
何を突然言い出すのだろうと、不思議な顔をするカイに、ソルは笑ったまま続ける。
「元々設定されていた、裏技の一種だ。つっても、バランスを崩すには十分の壊れっぷりだからな、門外不出の事項だ」
「……それは、どういう……」
ソルの突拍子もない話に、カイは混乱して眉をひそめた。
普通、職業によって体力値や魔力値の上限が、決められている。しかしその制限がなくなれば、個々のキャラクターに最初に振り分けられた数値で、基礎能力が決定されることになる。
恐らく、『カイ』は基礎体力が戦士寄りだったのだろう。だから職業の制限から逃れた途端に、白魔導士にあるまじき腕力と素早さを発揮した。
「そんな話……噂にも聞いたことがありません」
「そりゃそうだ。……むしろ、噂になってる方が大問題だろうな」
話の展開に上手くついていけていないのか、呆然としたままうめくカイに、ソルは不敵な笑みで答える。
職業チェンジがウリのこのゲームで一度も転職をしないまま、しかもパーティを組むのが5回以下でレベル99を迎えるという条件だからこそ、この仕組まれた『バグ』は明るみに出なかったのだ。
ほんの遊び気分で開発当初に組み込まれたものがだ、今のソルには大きな切り札だった。
「なあ、『カイ』。リアル(現実)で会おうぜ」
「ええ……、ッえ!?」
ソルの唐突な誘いの言葉に、カイは一瞬頷きかけて、バッと顔を上げる。ローブに覆われて影になっていた顔が、驚きの表情でこちらを見つめてきた。
しかしその丸く瞠られた碧眼に、ソルは片眉を上げておどけた仕草を見せる。
「メールに、詳細を書いて送る。……絶対、待ち合わせに来いよ」
「は……ぇええッ!? な、何を言ってるんですかっ、あなたは!」
問答無用で一方的に告げるソルに、カイは声をひっくり返らせて非難した。しかし、ソルはどこ吹く風で怒鳴り声など聞き流す。
軽く手を振ってカイのプロフィールを開き、ソルはそこに書かれたアドレスに向けて、さっそく文字を打ち込み始めた。
「……言っとくが、来ねぇとテメェのPCをクラッシュさせてやるからな」
「なっ、ちょ…ッ!?」
ニヤニヤと危険な笑みを浮かべてそう告げたソルに、カイは目を剥く。
「お、横暴にもほどがありますよ!? 今日会ったばかりで、そんな……実際に会うなんて、常識が無さすぎます……!」
「悪いがこっちも、なりふり構ってられなくてな」
「そ…それにしたって……!」
悲鳴をあげるカイににべもなく言い放ち、ソルは高速でメールを書き上げていく。最後にenterキーを叩いて、ソルはカイの方へと向き直った。
「そこならたぶん、会うことができるはずだ。都合が悪けりゃ言え、合わせてやる」
「何を言って……っ。大体ッ、都合が悪いも何も、私は会うことを承諾したわけでは……!」
眉をつり上げて怒るカイが、不意にぴくりと体を強張らせる。さっそくメールが届いたのだろう、一瞬顔を歪めて、カイはしぶしぶといった態でメールフォルダを開く動作をした。
しかめ面で表示された文面に目を通していたカイだったが、徐々にその青い瞳は驚きに見開かれていった。
「なんで……東京……ッッ!?」
「あ? 違ったか?」
思わずカイが叫ぶのを見て、ソルは少し首を傾いで聞く。待ち合わせに指定したのは、東京の有名な地区にあるコーヒーショップだった。
間違えただろうか?と思いながらソルが問うた言葉に、カイは千切れんばかりに首を横に振った。
「違う…、この待ち合わせ場所は合っている。……いやだからこそ、逆に合ってるということがおかしい……!」
混乱したように、カイはソルとメールを交互に見る。
「なんで、……私が日本にいるって分かったんです……!?」
「……ああ、そのことか」
驚きの眼差しで見るカイに、ソルはなんでもないことのように頷いた。確かに、カイとソルは今までずっとネイティブな英語で会話していたので、普通ならば英語圏のプレイヤーだと思うだろう。
だが、ソルのような特殊技能者には、そういったことは意味のないことだった。
「お前がどこからネットをつないでるか、解析した。東京××区の×××ネットカフェだろ」
「!!」
ソルの何気ない暴露に、カイは肩を揺らして硬直する。図星だと丸分かりの反応に、ソルは内心ほくそ笑んだ。
「……ま、ここでこれ以上プライバシーを口にするのもまずいしな。今度、その場所で落ち会おうぜ」
「え、あ…ちょ、ちょっとッ!?」
ソルは笑いながら一方的に言い捨て、ゲームからの離脱ボタンを押した。霞み始めるソルのグラフィックに気付き、カイが慌てて制止の声をあげる。
だがそれに従うはずもなく、ソルは人の悪い笑みを浮かべたままゲームを終了した。
耳に心地よいカイの声が途切れ、代わりにこのゲームのテーマ曲が流れる。
「……やっと、面白くなってきたな」
ログアウトを示す画面に戻ったのを確認し、ソルは呟いた。
――いや、『ソル=バッドガイ』というキャラクターを操っていたフレデリックという男が、呟いた。

『冒険者』と書かれたネットゲームのタイトルを、しばし見つめる。

眼鏡を外して鼻当ての当たる箇所を揉みほぐしながら、フレデリックは不意にくっくと喉の奥で笑った。
「これで条件は揃ったな……」
ゲームとは異なる髪形ではあるものの、その男の精悍な顔立ちは変わらず、赤茶色の眼は鋭く光っていた。






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