私は迷わず、二階へ駆け上がった。
寝室は防犯上、厚手の壁に頑丈な扉を備えており、火災にも強く作られている。
自身で組み込んだ結界も張り巡らせてあるため、そう易々とは壊されまい。
私は素早く寝室に駆け込み、しっかりと錠を掛けた。
そしてその扉の上から魔法の錠も掛ける。
肌をびりびりと打つ気配が迫ってくるのに気付き、私は呪文を唱え終わるや否や、その場から飛びのくように離れ、扉の近くから遠ざかった。
「……おい、坊や。なんの真似だ? これは」
地の底から轟くようなソルの声が、扉の向こう側から響く。
隔てられているにも関わらず、声は私の心臓を鷲掴みにして揺さぶった。
震えそうになる足を叱咤して、私は月光が差し込む窓へと、身を寄せる。
「その……あなたが大事にしていたレコードを台無しにしたことは本当に申し訳なかったと思っています」
「で? その返礼がこれか?」
「いえ、あの……私も償いたいのは山々なのですが……ソルは手加減を知らなさそうだから……体が、絶対、もたないと思うんです」
しどろもどろになりつつ、私は正直に思うところを述べた。
私だって別に好きで逃げているわけではない。
ソルの要求に耐えられそうにないため、やむなく拒否したのだ。
だが、ソルは更に機嫌を損ねたのか、ざわざわと凶悪な気配を強めていった。
「……坊や。そうやって、出来ませんって言やぁ許してもらえるとでも思ってんのか?」
「そ…ういうわけじゃないけど……、でも……」
「でももへったくれもねぇ。おら、さっさとここを開けろ。今ここで素直に言うこと聞くんなら、少しは優しくしてやるぞ」
掠れの交じった低い声が、脅迫紛いの甘い誘惑を持って私の鼓膜を打った。
扉越しに感じるソルの気配は先程よりは若干落ち着いたきらいを見せている。言葉の通り、少しは優しく扱ってくれるかもしれない。
だが、やはり相手はソルなわけで。
気分が変わってどんな手段に出てくるか分からない。
私は……、
>>>> 素直に扉を開けて謝った。
>>>> 要求を断わり、逃げられるように窓を開けた。